好きな作品:ブラック・ジャック

もっとも好きな手塚漫画は、『ブラック・ジャック』である。

1973年から連載され、封印されたエピソードを含めると、全242話が発表された。
当時、手塚治虫は落ち目の漫画家で、その末期を飾る思いで『ブラック・ジャック』は連載された(そのため過去の手塚キャラが総出演している)。しかし一話完結のスタイル、医学漫画の斬新さ、奥深いストーリーが受けて大ヒット作に成長する。
『ブラック・ジャック』がなければ手塚治虫の復活はなく、のちに漫画の神様と呼ばれることもなかっただろう。

『ブラック・ジャック』との出会いは小学3年生のとき、散髪屋に単行本が置いてあった
内蔵の描写がグロテスクだったけど、すぐ夢中になった。しかし散髪屋の本棚は巻数が揃っておらず、落ち着いて読むこともできない。当時、私の小遣いは月に40円だったので、自分で買うなんて考えられなかった。

25歳。社会人になって、ようやく文庫版16巻セットを買った(のちに17巻を追加)。本屋でポップをつけてもらった。感無量だったね。もう10年以上経つけど、今でも読み返している。
私の好きなエピソードは、こんな感じ。

  • 「ふたりの黒い医者」  … 有名なエピソード。階段でのヤリトリが強烈すぎる。
  • 「ハリケーン」  … この枚数に、これだけのドラマを詰め込めるなんて!
  • 「灰色の館」  … 絶望的な兄と妹に、BJも命からがら逃げ出す始末。
  • 「三度目の正直」  … 関係した患者は最後まで診ようとするBJの執念がすさまじい。
  • 「青い恐怖」  … 漁師の息子が大きな貝に足を挟まれる。こわかった。
  • 「研修医たち」  … 生意気な研修医たちを見守るBJと医長。これが師というものか。
  • 「湯治場の二人」  … 刀鍛冶・馮二斉を訪ねたBJと琵琶丸。やるせない眼差しのBJに心打たれる。
  • 「されどいつわりの日々」  … 安直な展開と思いつつも、もろもろひっくり返された傑作。
  • 「助け合い」  … 恩人を助けるため奔走するBJ。その義理堅さは驚異的だ。
  • 「浦島太郎」  … 鉱山事故で眠りつづける少年を目覚めさせる。重要なことを見落としたBJとキリコ。
  • 「ピノコ愛してる」  … 暗がりで悔しがるBJに、声をかけず思いを寄せるピノコに、救いを感じる。
  • 「上と下」  … 肩を組み去っていく2人を、車から見送るBJがよかった。
  • 「死への一時間」  … BJとキリコが協力する話。手術を終えた2人は親友同士のように。
  • 「六等星」  … 目立たないが腕のいい医師を推薦するBJ。ピノコのひと言が花を添える。
  • 「笑い上戸」  … 笑えなくなった友人を手術するBJ。末期の笑いに涙する。
  • 「ある老婆の思い出」  … 童話になりそうなストーリー。BJは脇役なのに、その言葉は印象的。
  • 「人生という名のSL」  … 連載最終回。BJと出会い、別れた人たち。ピノコへの思いが胸に残る。

何度も実写化、アニメ化されているが、最近のBJは超然としたヒーローっぽくて好きになれない。漫画のBJをよく見ると、かなり傲慢で、偏った性格である。誰を助け、誰を見殺しにするか、気まぐれに決める一方で、助けると決めた相手はなにがあろうと助ける。一種の異常者だ
それでいて庶民的で、ドジも多い。手術がなければ、ちょっと偏屈なお兄さんだ。このギャップがBJの魅力だと思う。

大ヒットした本作だが、医学的な誤りや人種差別を問題視する声も多く、手塚治虫の心労も大きかったようだ。そのせいか連載後半は病気より怪我の治療が多くなる。
手塚治虫の神経がもっと図太ければ、もっと多くの作品が発表されたかもしれないが、そんな手塚治虫だからこそ書けた作品だと思うと、なんともやるせない。

ともあれ『ブラック・ジャック』は、私に大きな影響を与えた作品の1つである。

トラックバック (0)


コメント (0)

コメントを投稿する

  • 晴工雨独ではコメント掲載前に内容を確認しています。しばらくお待ちください。
  • 書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます。
Cookie:
[Edit]