日記  2012年09月16日(日) に思った 娯楽 のこと

[ドラマ] SHERLOCK / 事件より探偵を追え

[ドラマ] SHERLOCK / 事件より探偵を追え

 イギリスBBC製作のテレビドラマ『SHERLOCK』がおもしろかった。

 これまでグラナダTV製作の『シャーロック・ホームズの冒険』が映像化の最高峰と思っていたが、本作はそれに比肩する。現在、シーズン1(全3回)とシーズン2(全3回)まで放送されていて、2013年にシーズン3が放送される。もう、待ち遠しいったら、ありゃしない。
 一応、ネタバレを含まないご紹介。

現代によみがえった、ではなく、現代に生まれ落ちたシャーロック・ホームズ

 『SHERLOCK』は現代版シャーロック・ホームズ。かつて存在したホームズがタイムスリップしたとか、子孫というわけじゃない。『バットマン ビギンズ』がアメコミのない世界に生まれた最初のヒーローであるように、『SHERLOCK』はシャーロック・ホームズがいない世界に生まれた最初の天才探偵である。
 「緋色の研究」→「ピンク色の研究」、「ボヘミアの醜聞」→「ベルグレービアの醜聞」など、原典プロットを引用しているが、ドラマは大きく異なる。
 19世紀と現代では人々の価値観がちがう。現代の警察は探偵にたよらない。犯罪者の人権は保護されるようになった。天才を見る目も変わった。もっとも異なるのは、男2人がルームシェアすることの意味だろう。現代は、19世紀ほどシンプルじゃない。
 あのシャーロック・ホームズが現代に生まれ落ちたら?
 同じように活躍し、同じように喝采を浴びるだろうか?
 そんな思考実験の結果がここにある。『SHERLOCK』はホームズファンにこそ見てほしい傑作だ。

天才を見る目は厳しい

 『SHERLOCK』で注目してほしいのは、人々が天才を見る目だ。天才とは「先天的な資質の差」だから、努力や平等思想を根底から覆してしまう。19世紀なら「身分の差」と同じように受け入れられただろうが、現代では難しい。ゆえに人々は天才を否定し、警戒し、嫉妬し、あるいは矯正しようとする。
 レストレード警部はシャーロックの天才性を認めているが、それでも彼に常識を求めている。それが「角を矯めて牛を殺す」であることに気づいていない。
 天才をありのまま受け入れられるのはワトソンと──犯罪者たちだけだ。シャーロックは警察や一般より、多くの犯罪者を魅了している。
「天才は人に認めたがる」
 シャーロックの指摘は、彼自身が危うい均衡の上にいることを示している。

ミステリのミステリ

 おかしな言い方だが、シャーロック・ホームズほどの人物なら、難事件を解決するのも当たり前だろう。なので、ふつうに犯罪捜査を描いてもおもしろくない。そのためホームズの映像化では、登場人物を犬にしたり、美少女にしたり、アクションを強調するといった特徴が付与されてきた。

 『SHERLOCK』でクローズアップされたのは、天才と社会の関係性だ。ここで言う天才は、シャーロック・ホームズだけではない。
 犯罪の天才であるモリアーティ、外交調整の天才であるマイクロフト、諜報の天才であるアイリーン・アドラー……。みな天才であり、それぞれ屈託を抱えている。
 シャーロックは他者を素性を事細かに推理してくれるが、自分のことは話さない。だからシャーロックやモリアーティなどの気持ちは、視聴者が観察して、推理するしかない。
 叶うなら、2度以上鑑賞することをオススメする。トリックを知ってから見ると、登場人物の気持ちを考える余裕が生まれる。
 シャーロックは物事の裏を読む。しかし天才は、シャーロックに裏を読ませる。裏の裏は本当? 思考が堂々めぐりで、すべてが疑わしくなる。そこが本作のたまらない魅力である。

 『SHERLOCK2』は8月に放送されたばかりだから、当分、再放送はないだろう。この番組、どれほど世間に知られているんだろう? マイナーだったらもったいない。
 たくさんの人に見てもらいたい。そして、各エピソード、各キャラクターについて語り合いたい。

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