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[日記2013年09月06日(金)に思った娯楽のこと

町工場のオヤジだった / 宮崎駿監督の引退会見

町工場のオヤジだった / 宮崎駿監督の引退会見

 宮崎駿監督の引退記者会見を見た。

 宮崎駿の長編アニメーション制作からの引退発表は、海外でも報道されるほど注目された。監督は御年72歳。引退をほのめかす発言は以前もあったけど、今回は「本気」のようだ。
 どんなことを話すのだろうと中継を見てみたが、あらためて宮崎監督のおもしろさに感動した。引退が惜しまれる。

 多くの人がそうであるように、私も宮崎駿のファンだ。やっぱり初期の冒険活劇が好きで、『ラピュタ』以降はだんだんストライクゾーンから離れていった。
 作品が難しくなる反面、宮崎駿の人物像は魅力的になった。今年は『風立ちぬ』で戦争を批判的に描かなかったことや、憲法改正に反対する立場を表明したことから、政治的なスタンスまで注目されていた。まぁ、いわゆる文化人というやつで、私は苦々しく思っていた。

 しかし会見で話す宮崎駿は、やっぱり魅力的な好々爺だった。

「文化人にはなりたくありません。町工場のオヤジなんです」
「社会を変えようとか、メッセージを発信しようなんて考えていません」
「映画は損益分岐点を越えれば、それで終わりです」
「映画のキャッチコピーは鈴木プロデューサーがでかく書いていますが、ぼくが『生きねば。』と叫んでいるわけではありません」

 大仰な記者会見も、監督自身がやりたかったわけじゃなくて、スジを通しつつ、効率のいい方法を選んだだけ。世間が注目するメッセージも、監督自身に深い考えや意図があるわけじゃなく、鈴木プロデューサーやマスコミが勝手に誇張しているようだ。監督にとっては、1人でも多くの人がお金を払って映画を見てくれればOKなので、自分自身がキャラクターとして利用されることも気にしていないようだ。
 まぁ、自分を「町工場のオヤジ」と思っているなら当然か。町工場のオヤジの発言に目くじら立てる方がおかしい。

 韓国の記者が映画『風立ちぬ』の政治的な意味を問うていたけど、まったくナンセンス。監督は「映画を見てください」で終わり。かたやイタリア、フランス、ロシアの記者は、「自分の国が好きですか?」「自分の国の作家は監督に影響を与えましたか?」と質問し、監督もユーモラスに答えてくれた。ちがいが大きい。

 それから宮崎監督がオリジナリティにこだわらないのも印象的だった。映画のキーワードについて質問されると、どの作品に影響を受けた、どこそこからの引用だと、すらすら答えてしまう。
「発信してるんじゃなくて、受け取っているんです」
 なかなか言えることじゃない。

 会見を聞いていると、宮崎監督が本当に身体を使って働いていることがわかる。ばりばりのガテン系だ。企画や会議なんてのは仕事じゃなく、むしろ仕事の妨害要因でしかない。宮崎監督の仕事はとにかく絵を描くこと。だから体力の限界に行き当たってしまう。
 これほどの大家になれば、クチで指示するだけで映画を撮れちゃいそうだけど、ほかの方法を知らないという。絵を描くことが好きで、手を抜きたいわけじゃないから、ほかの方法は受け付けないだろう。本当の本当に、町工場の親父だった。

「もう二度とこういうことは無いと思いますので、ありがとうございました」

 会見の最後は、そう締めくくった。引退を撤回する可能性は皆無だ。そう思うと、惜しむ気持ちが高まった。私は14万人の視聴者とともに、「お疲れ様でした」と打ち込んでいた。

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