新幹線大爆破 The Bullet Train

1975年 日本映画 5ツ星 テロ

語らないところに深みがある

ニコニコ動画の「高倉健追悼上演会」で鑑賞する。若いころは特撮シーンしか目に入らなかったが、大人になって見返すと印象が変わった。

警察はメンツにこだわり、乗客の生命より犯人逮捕に執着する。何度失敗しても反省せず、えげつない手段も厭わなくなる。マスコミはぎゃーぎゃー騒ぐばかりで、国鉄の努力も、警察の無能さも報じない。一方、運転手は暴言を吐き、乗客はパニックになる。
こりゃ、指令室長(宇津井健)が仕事を辞めたくなるのも無理はない。まじめな人間がドロップアウトする姿は、沖田(高倉健)と重なる。最初見たときは気づかなかった。

犯人グループは不気味な存在だったが、その実像はどこにでもいそうな社会の落伍者だった。しかも驚くほど悪意がない。大城は車内清掃員に採用されたと喜び、無邪気に駆けまわる。古河は政治思想があるように見えたが、沖田を守るため自爆する。沖田はどんな思いで、彼らを率いていたのだろう? 語らないところに、切なさがあった。

沖田は誰も殺さないと誓っていたが、意図せず赤ん坊が死んでしまう。犯人グループが悪いのは明らかだが、同情を禁じ得ない。乗客の安全を考えていたのは、室長と沖田の2人だけだったかもしれない。

犯人グループは全滅し、新幹線は停車した。これで解決したと言えるだろうか? なにが原因で、どうしたら思いとどまらせることができたか? いろいろ考えさせる。完成度が高いのに、上映当時ヒットしなかったことが信じられない。

『スピード』(1994)も似たようなコンセプトの映画だが、重みがちがう。日本の映画は素晴らしかった。もっと評価されるべき映画だ。

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