雪割りの花 (PS) Yarudora Portable Yukiwari no Hana

1998年 ゲーム 3ツ星 恋愛 記憶操作

足りないのはボリュームか、踏み込みか

あらすじ

冬、北海道の安アパートに住む大学生が主人公は、隣室のOL桜木花織にほのかな恋心を寄せていた。しかし花織には昂という恋人がいて、主人公が割り込むすきはなかった。
ある日、昂が事故死したショックで、花織は心因性の記憶喪失になる。親切に看病していた主人公を、花織は昂と認識し、愛するようになる。昂の死に直面すれば、花織は自殺するかもしれない。主人公は花織のため、恋人のふりをつづけるべきだろうか?

あんがいボリュームが少なかった。私は当初、サスペンスものと思っていたので、だれが昂を殺したか、花織の記憶喪失は演技ではないかと疑っていたが、そういう話じゃなかった。対象年齢がぐっと引き上げられ、絵柄も大人の視聴に堪えうるものになっている。なかなか印象的な作品だった。GOOD ENDは5つ、BAD ENDは40近くあるが、選択肢をまちがうとすぐ花織が死んでしまうため、分岐に広がりはない。花織の死を何回も見てしまうと、これほど精神が脆い女性を愛せるか不安になってくるが、主人公も狂ってしまうエンディングがあって納得した。
各キャラクターへの雑感を記しておく。

桜木花織

ヒロイン。いわゆる清純派でない、ふつうの女性であることが新鮮。恋人にキスを求めたり、扇情的な姿を見せて挑発するシーンはゾクゾクした。しかしそれらは、主人公に向けられたものじゃない。我に返るときのショックは大きそうだ。
電話口でショックを受けて病院に運ばれる展開は、やや無理がある。自殺未遂で頭を強く打ったことにすれば記憶の混乱にも説得力が出ただろう。それでもなお、昂と主人公を混同する理由が足りない気もする。花織が状況を理解しても、なお記憶が混乱したふりをするパターンも見てみたかった。

伊達 昂

ヒロインの彼氏。主人公に取って代われる存在だから、個性が与えられていない。プロポーズの言葉に、「となりの大学生」を意識する言葉を含めるのは不自然だ。花織の心はもう昂から主人公に向いていたのだろうか?
事故死ではなく自殺だったり、別れ話を切り出された花織が昂を殺していたら、サスペンスになっただろうな。

小林勇一

昂の友人。彼の立ち位置はいささか中途半端だ。いっそ花織の兄で、主治医を兼ねていれば、もっとスマートになったと思う。主人公は、親族の許可と専門家のアドバイスを受けて、成りすましに挑む。そのくらいの支援があってもいい。

小林美雪

優一の妹。こういうキャラクターは大好き。しかし「花織は悪くない」みたいな展開になっちゃったのは残念。花織にも昴にも、おかしな点があったはずだから、ありのまま証言してほしかった。昂の妹である方が、凄みが出たと思う。

ゲーム的に分解すれば、彼女と肉体関係をもつかどうかでエンディングが変わる。しかしあの状況で踏みとどまるのは無理だ。なにかヒントがほしい。たとえば2周目以降は大学の友人たちが、主人公の行為の危険性を諭すのはどうだろう。そう遠くない未来に破局を迎えることを理解すれば、一線を越えるのは控えるかもしれない。
とまぁ、思うところはあるが、コンパクトでおもしろかった。

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