渚にて On the Beach

1959年 外国映画 4ツ星 文明崩壊後

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ストーリー

1964年、第三次世界大戦によって北半球は壊滅した。数千発の核兵器による放射能は地球全体を覆うため、全人類・全生物は9月に死滅する。どこにも逃げ場ない。あと5ヶ月。

かろうじて生き残ったアメリカの原子力潜水艦「スコーピオン」は、オーストラリア・メルボルンに寄港する。メルボルンは清浄で、人々は平穏に暮らしていた。タワーズ艦長はホームズ夫妻に歓待される。モイラという女性に好意を寄せられるが、死んだ妻子を忘れるほど時間は経っていなかった。モイラは愛する人がないまま死ぬことを恐れる。

サンティエゴから不規則なモールス信号を受信。スコーピオンが調査に向かうが、コーラの瓶を使ったイタズラだった。メルボルンに戻ると、タワーズ艦長はアメリカ海軍総司令を任命される。もうアメリカ人が残っていないのだ。

ジュリアンはレースで優勝する。タワーズとモイラは鱒釣りを楽しむ。船員に放射能の症状が現れる。汚染が上陸したのだ。教会で安楽死するための薬が配布される。ジュリアンは車庫で、ホームズ一家は寝室で息絶える。

タワーズ艦長は、船員たちの要望で「国に帰る」ことにする。モイラは潜水艦を見送った。
(おわり)

ドワイト・ライオネル・タワーズ艦長(グレゴリー・ペック)

アメリカの原子力潜水艦「スコーピオン」の艦長。戦争勃発時は潜航していたため生き延びたが、アメリカの妻子は死んでしまった。
[原作] 妻子が生きているはずないのに、「9月になったら帰る」「息子は将来、軍人になってほしい」「ホッピングをお土産にしよう」といった言動を繰り返す。モイラの好意を丁重に断っていたが、一度だけキスで応える。スコーピオンを領海外で自沈させるため出航する。総司令官として、艦長として、妻子ある男として、モイラの同行を拒否する。

モイラ・デビッドソン(エヴァ・ガードナー)

オーストラリア人女性。ドワイトに好意を抱き、積極的にアプローチする。
[原作] 酒に溺れていたが、ドワイトとの出会いで速記を学び始める。海外旅行に憧れていた。ドワイトを本心から愛し、さまざまな世話をするが、振り向かせるには時間が足りなかった。両親からも結婚を勧められた。スコーピオンを見送り、車の中で死ぬ。

ジュリアン・オスボーン博士(フレッド・アステア)

オーストラリア科学調査委員会の博士。独身でフェラーリをこよなく愛し、レースに出場するのが夢。
[原作] モイラの親戚。変わり者の青年。汚染から逃れる方法を探し、次の知的生命に人類の叡智を伝えたいと願う。母の死によって解放され、フェラーリの運転席で死ぬ。

ピーター・ホームズ大尉(アンソニー・パーキンス)

オーストラリア海軍の大尉。放射能汚染で妻子が苦しんで死ぬことが耐えられず、安楽死できる強力な睡眠薬を手に入れる。
[原作] 妻子と同時に不調を訴えるが、のちに回復。そのことを妻に隠したまま、添い遂げる。

メアリー・ホームズ(ドナ・アンダーソン)

ピーターの妻。モイラの友だち。アメリカの潜水艦に同行する夫を心配する。放射能が近づき、徐々に精神を病んでいく。
[原作] 庭の木を伐採し、畑を作ろうと考える。よく言えば希望を失わず、悪く言えば現実を見ようとしない。夫や娘と同時に死ねることをラッキーと感謝する。

「終末もの」「心地よい破滅」の傑作。映画はテンポが悪いと思っていたが、原作小説を読むと印象が変わった。仕方ないことだが、映画は小説ほど登場人物の気持ちを描けていない。

映画は登場人物の最後を映さない。映画だけ見るとスマートだが、小説を読んだあとは現実から目をそらしているように感じる。モイラの最期を伏せたら、本作のインパクトは大きく損なわれる。
タワーズ艦長とモイラの微妙な関係も描けていない。艦長が距離を置くだけでなく、それを尊重するモイラがいじらしかったのに。まぁ、そこまで描くと6時間くらいの映画になってしまうが。

「THERE IS STILL TIME.. BROTHER (兄弟たち まだ時間はある)」

と告知されてから半世紀。
あとどのくらい猶予があるだろう?


終末もの/心地よい破滅
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