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[レビュー2007年03月17日に発表された 

口裂け女

Carved | A Slit-Mouthed Woman

じつは不死身のモンスター

本作に登場する口裂け女は固有の肉体をもたず、さまざまな女性に取り付く悪霊のようなもの。憑依されたものは咳き込むようになるため、自分でマスクを着ける。口裂け女を倒しても、憑依が解けるだけで、口裂け女の悪霊はまた別の女性に乗り移っていく。その正体と思われた松崎の母親も、犠牲者の1人だった。

なんて恐ろしいモンスターだ。物理的に攻撃できないわけじゃなく、攻撃しても意味がないなんて。『エルム街の悪夢』のフレディと肩を並べるほど強い。こんなモンスターをどう攻略するか。と、期待に胸をふくらませたが、そういう映画じゃなかった。

口裂け女の性質をだれも理解せず、やみくもに立ちまわったせいだ。主婦殺しの嫌疑もかけられず、これじゃ犠牲者も浮かばれない。主人公は教師でありながら、子どもを虐待する性癖がある。これも物語のキーになるべきだが、ぜんぜん空振り。ナンジャラホイだ。

うまく演出すれば貞子を超えるモンスターが誕生しただろうに。もったいない。

妄想リメイク

2006年、静川町。なぜか27年前に流行した「口裂け女」の都市伝説が注目を集めていた。「背が高く、髪が長く、トレンチコートを着て、白いマスクをした女が子どもをさらう」「女がマスクを取るとその口は耳まで大きく裂けている」「ポマードポマードと言えば逃げていく」などなど。噂は熱を帯びているが、京子は気にしていなかった。

京子は小学校教師。受け持ちのミカに家庭内暴力を受けている形跡があって、心配していた。京子は問題から目を逸らしていたが、同僚も助けてくれないため、意を決して家庭訪問する。
ドアを開けると、ミカの母親マユミが顔を出した。いきなりマユミがミカを叩いたため、取っ組み合いになる。ミカは逃げ出すが、口裂け女に連れ去られてしまった。

警察の捜索がはじまるが、「口裂け女を見た」という京子の証言は一笑に付された。松崎刑事は真摯に対応してくれた。母マユミには、娘に暴力を振るった記憶がなく、安否を気遣っていた。マユミはひどく咳き込んでいる。家に帰って養生するよう促された。

翌週、口裂け女を探しに行った3人の子どもが行方不明になった。目撃者は「口裂け女を見た」という。また、最初に行方不明になった女児が死体となって発見された。その口元は無残に引き裂かれていた。

現実の事件が起こったことで、世間は大騒ぎになった。警察には目撃情報が多数寄せられたが、大半は悪戯で、残りは真偽を確認できなかった。となりの住民を疑う人も多く、言いがかりで逮捕される人もいた。
学校も混乱していた。集団登下校は子どもの数が少なく、住居も離れているため実施できない。先生が送迎するにも限度があり、また順序でもめてしまう。連絡なく休む子ども多く、確認の手間がかかる。もう授業どころではなかった。
町から子どもの姿が消えた。しかし子どもたちはパソコンやゲーム機で通信し、噂話ばかりが飛び交っている。

学校を出た京子はマスコミが取り囲まれるが、さいわい松崎刑事に追っ払ってもらった。警察関係者が資料を漏洩したらしい。ショッキングな遺体写真も含まれており、騒動が拡大することが予想された。ふたりは歩きながら情報交換した。

松崎刑事が京子をたずねたのは、証言を詳しく聞くためだったが、ほかの目的もあった。松崎が見せてくれた写真は、京子が見た口裂け女だった。それは松崎の母親タエコだと言う。
松崎も母親から日常的な虐待を受けていた。兄と姉がいたのに、いつの間にかいなくなった。その後、親戚や警察が来て大騒ぎになった。しばらくして兄と姉は、口を裂かれた死体として見つかったらしい。しかし母親の犯行と立証されなかった。松崎は親戚の家に引き取られ、それきり母親も消息不明になった。
「私、きれい?」
タエコはときおり、そう訊ねてきた。そのときの恐怖はまだ拭えない。松崎はなんとしてもで自分の手で犯人を捕まえたかった。そんな松崎に、京子は聞いてほしい話があると言う。

連絡なく休んだ子どもの家に着いたが、返事がない。ドアが開いているので、刑事といっしょに中に入ると、子どもが倒れていた。そのとき暗がりから口裂け女が襲ってきて、刑事は肩を裂かれた。
「ノ、ボ、ル」
口裂け女が刑事の名前を口にする。鋏が振り上げられるが、動きが止まった。
「ワタ、ワタシ、キ、キレ、キレ、イ、イー」
背後から京子が刺した。台所で見つけた包丁で、何度も何度も刺した。刑事が口裂け女の死体を蹴飛ばす。子どもの安否を確認するが、すでに手遅れだった。
松崎が警察に連絡しようとすると、京子が悲鳴を上げた。口裂け女は、マユミに入れ替わっていた。

警察がやってきて実況検分する。京子はありのままを話すが、混乱して見間違えたことにされた。噂話の印象が残っていたのでしょう、と言われるが、どちらが先かわからなくなっていた。刑事も負傷しているため、罪に問われることはなかった。
だが、マユミが犯人だったとは思えない。ミカの死亡時刻、マユミが警察署にいた。自分の娘が殺されたショックで、おかしくなった。そう解釈された。

夜、京子は松崎を連れて、かかりつけの精神科医を訪ねた。京子には娘がいたが、家庭内暴力によって離婚し、親権も失っていた。しかし京子には暴力を振るった記憶がない。精神科医は、子どもを虐待する親の心理を説明するが、京子には当てはまらないと言う。
京子は怯えいてた。もともと子どもが好きで先生になったのに、なぜ我が子に暴力を振るったのか? 子どもの傷を見ると、意識を失いかけるのは暴力衝動のせいか。マユミも、子どもに暴力をふるう女性には見えなかった。もっともやりたくないことをやってしまうのはなぜか?

松崎刑事は仮説を立てた。口裂け女は自分の名前を知っていた。顔も母親にそっくりだった。あれは母親にちがいない。おそらく母親の霊魂が、女性に取り憑いているのだ。どこかにある死体を供養するしかない。
テレビで口裂け女の特集が流れている。事実が混じったことで、うわさも一気に広がった。情報源は子どもが多いらしい。子どもたちの書き込みが加速している。その中に引っかかるものがあった。
「口裂け女は赤い屋根の秘密基地にさらった子供を隠している」
松崎が子どものころに住んでいた家も、赤い屋根だった。もう廃屋のはずだが、ひょっとしたらそこに母がいるのかもしれない。松崎は確認しに行くと言う。京子は強引に車に乗り込んで、同行した。

赤い屋根の家についた。霧が立ちこめ、おかしな雰囲気になっている。松崎の記憶にない、地下室につづく階段。下りていくと、粗末な地下室があって、子どもたちが拘束されていた。うち2名は亡くなっている。
いきなり口裂け女があらわれた。鋏で斬りつけられるが、だれかの身体に取り憑いているだけだから、発砲できない。
「キ、キレ。ワタシノ、クビ、ヲ、キレ!」
口裂け女の動きが止まり、けんめいに訴えてくる。「きれい」ではなく、「首を切れ」と言っていたのか。しかし無辜の市民を傷つけることはできない。
「ノボル。タスケテ。カアサンに、コロサレル」
「なんだって?」
斧を見つけ、襲いかかろうとする京子に、子どもが教える。
「ちがうよ! あっちだ!」
指さす方向に白骨死体があった。口裂け女と同じ服を着ている。京子は斧で死体の首を切り落とした。すると口裂け女は倒れて、見知らぬ女性に変わった。それは生き残った子どもの母親だった。まだ息がある。

松崎刑事が上司の質問に答える。
「口裂け女は、きみの姉だったのか?」
「はい。口裂け女の正体は、子どもを虐待した母親ではなく、母親に虐待された子どもの霊だったんです」
「その霊が、人に取り憑くと?」
「はい。取り憑かれる女性に共通項があるかどうかは、わかりません。ただ前兆として咳き込むようです」
「なぜ、30年前の霊がいまになってよみがえったんだ?」
「わかりません。わからないことばかりです。なにかキッカケがあるのか、ないのか」
「わたしきれい、は、私の首を切れ、の聞き間違いだったと?」
「はい」
「私の首と言っているのに、どうして白骨死体の首を切っておさまったのか?」
「それは」
「悪霊の正体がお姉さんなら、お姉さんの死体でないと駄目なんじゃないか?」
松崎ははっとなる。

そのころ、京子は離婚した夫に頼み込んで、娘と面会していた。もう娘に暴力を振るうことはない。しかし京子は咳き込み、口裂け女に変貌。もっていた鋏で、娘を切り裂いてしまった。

(おわり)

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