世にも怪奇な物語 Spirits of the Dead | Histoires extraordinaires

1968年 外国映画 3ツ星 怪談 文学・古典・童話 狂気

三者三様の解釈

エドガー・アラン・ポーの短編小説、3人の監督が映像化したオムニバス。第2話がもっとも原作に忠実で、第1話は舞台だけ借りて、第3話はなにかも異なっているが、それぞれおもしろかった。

第1話 「黒馬の哭く館」 Metzengerstein

第1話 「黒馬の哭く館」 Metzengerstein

[あらすじ] フレデリックは美しく、傲慢な伯爵家令嬢。彼女は森で知り合った男爵家のウィルヘルムに恋するが、拒絶されたため、彼の馬小屋に放火する。しかしウィルヘルムまで焼死してしまったため、フレデリックは精神のバランスを崩す。そのころ、不思議な黒い馬が出没し、フレデリックは魅了されていく。
[結末] 黒い馬はフレデリックともども火事の中に突っ込んでいくのだった。

[感想] ジェーン・フォンダの美貌と、奇抜な衣装に圧倒される。アニメから抜け出してきたようだ。ストーリーはよくわからない。原作となった「メッツェンガーシュタイン」の主人公は男性だし、不仲の一族といった要素も省かれた。タペストリーをもうちょいうまく描いてほしかったかな。

第2話 「影を殺した男」 William Wilson

第2話 「影を殺した男」 William Wilson

[あらすじ] 教会に若い士官、ウィリアム・ウィルソン(アラン・ドロン)がやってきて、いま人を殺してしまったと懺悔する。
ウィリアム・ウィルソンは少年時代、その狡猾さと冷酷さで寄宿学校を支配していた。しかし同姓同名のウィリアム・ウィルソンが公然と彼に反抗し、苦々しい思いをする。ウィルソンはもうひとりのウィルソンの首を絞めたことで退学となる。その後、大学で医学を学び、生きた女性を解剖しようとするが、やはりもうひとりのウィルソンに止められる。軍隊に入ってからも悪辣な生活はつづく。ある夜、カード賭博で美しい女性の財産を巻き上げ、辱めようとするが、もうひとりのウィルソンにイカサマを暴露される。怒り狂ったウィルソンはもうひとりのウィルソンを追いかけ、腹をナイフで刺して殺した。
[結末] 一部始終を聞いても、牧師は信じなかった。絶望したウィルソンは鐘楼から身投げする。駆け寄ると死体の腹にナイフが刺さっていた。

[感想] アラン・ドロンが美貌のサディストを好演している。解剖されかかった女性の生死を「どうでもいい」と切り捨てるところもうまい。少年時代の子役も雰囲気がそっくりで驚いた。カード賭博のシーンを半分にして、少年時代の葛藤をもう少し見たかった。少年時代に対面するもうひとりのウィルソンは1人2役ではない。これは原作どおりの解釈だが、わかりにくい。映像化するなら最初から瓜二つでいいのに。結末は原作以上に印象的だった。

第3話 「悪魔の首飾り」 Toby Dammit

第3話 「悪魔の首飾り」 Toby Dammit

[あらすじ] ダミット(テレンス・スタンプ)はスター俳優だったが、いまは落ち目。報酬のフェラーリに釣られてイタリア映画への出演を決める。アルコール中毒のせいか、イタリアの情景は奇妙だった。
[結末] 夜、ダミットはフェラーリでローマを駆け抜け、工事中の橋から落ちた。ロープで落ちたダミットの首は、不思議な少女に持ち去られた。

[感想] 原作は「悪魔に首を賭けるな」。原作の核となる「悪魔にこの首を賭けてもいいぜ」のセリフがないため、首が落ちるラストは唐突だが、そんなことはどうでもいい。どこかSFチックで、なんとも毒々しいイタリアの情景が素晴らしい。よくこんな映像を撮影できたものだ。ダミットは頭がおかしいが、インタビューの収録現場で「マジメな番組なのか?」と問うなど、ちょこちょこ正常なところが笑える。インタビューも楽しかった。

「LSDや麻薬は?」
「やってる」
「なぜです?」
「正常になるため」
「好きなものは?」
「わからない」
「一番軽蔑するものは?」
「私のファン」
「もうファンがいないそうですが、事実ですか?」
「ぶぶぶぶぶぶぶ」
「ハムレットの批評については?」
「批評家はなにもわかってない」
「さびしい子でしたか?」
「いいえ、母は私をぶつのを楽しんでた」
「批評家が大嫌いで、怒りっぽいそうですね」
「きみの鼻を殴ってあげようか?」
「あなたは神経質ですか?」
「唯一の長所さ」
「あなたの人生でなにが不満ですか?」
「私は幸福だ。それが不満なんだ」
「卑しい職業に就いた経験が?」
「インタビュワーはやったことがない」
「イタリア映画は?」
「知らないふりをした」
「男性にも女性にも人気ですね?」
「私は男性的であり、女性的でもあるからね」
「イタリアへは?」
「アフリカには行った」
「自分は感情的だと?」
「あなたは?」
「神を信じますか?」
「いいえ」
「悪魔はどうです?」
「悪魔は信じる」
「悪魔を見たことがありますか?」
「見た」
「どんな姿でした?」
「私にとって悪魔はかわいくて、陽気だ。少女のように」


※悪魔

映画祭で受賞した女優たちが同じ感想を言うのも怖かった。こういう怖さはなかなか味わえない。原作要素は皆無だが、おもしろかった。

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