HEAVY RAIN 心の軋むとき (PS3) HEAVY RAIN

2010年 ゲーム 3ツ星 ゲーム:ADV 殺人鬼 犯罪 狂気 誘拐

最初の1回の、終わる直前まで楽しい

おもしろいアイデアが満載されたゲームだった。ストーリーも魅力的で、ぐいぐい引き込まれた。しかしゲームが終わると、興奮は一気にしぼむ。犯人の意外性はともかく、重大な謎が放置されたのは納得できない。とどのつまり、「それっぽい演出」をよく考えず織り交ぜただけだった。くそっ、またこのパターンか。いいところも多いんだけど、底の浅さがわかると絶賛できない。残念極まる。

主人公が死んでもゲームオーバーにならず、登場人物が欠けたまま物語が展開するのは斬新だった。「自分が死んだあとの成り行き」を見ることで、「自分の死=世界の終わりじゃない」「自分は欠けてもいいピースのひとつ」とわかってしまう。これはちょっと小説や映画じゃ味わえない感覚だ。

アドベンチャーゲームである以上、選択肢によって運命がどう変わるか確かめたくなる。しかし効率よく周回する仕組み(フラグチャートなど)がないため、だらけたプレイを強いられる。こうなると「ジュースを飲む」とか「ドアを開ける」と言った操作も煩わしい。目的の選択ができないと、イライラも募る。このへんも弱い。

以下、ストーリーの詳細と考察をまとめる。未プレイの方は読まないように。

ストーリー:序

アメリカの小さな町で、3年間から連続殺人事件が起こっていた。雨の季節に10歳前後の少年が拉致され、4日後に溺死体となって発見される。死体の手には決まって折り紙と蘭の花を持たされていたことから、「折り紙殺人事件」と呼ばれていた。

イーサン・マーズ

  • 有名な建築家。2年前の交通事故で息子ジェイソンを亡くしたことで、妻と別居し、もうひとりの息子ショーンと暮らしている。
  • ある日、ショーンが「折り紙殺人鬼」に誘拐されてしまう。警察に相談するが、その反応はにぶかった。
  • イーサンは原因不明の意識障害に悩まされており、折り紙を握っていたこともあった。
  • 別居中の妻は、イーサンが「折り紙殺人鬼」ではないかと疑っている。警察もそれを信じてしまう。
  • 「折り紙殺人鬼」から『愛するもののために あなたは命をかけられますか?』と言うメッセージを受け取る。ショーンはどこかの排水口に閉じ込められ、溺れそうになっている。助けるためには、身を削る「試練」を突破しなければならない。イーサンに選択の余地はなかった。
  • 第一の試練。高速道路の逆走。負傷したイーサンはマディソンに手当される。
  • 第二の試練。高圧電流が流れる迷路を抜ける。そこには「先客」の死体があった。
  • 第三の試練。自分の指を切断する。不審な行動がつづいたため、警察に指名手配される。

スコット・シェルビー

  • 元警察官の私立探偵。「折り紙殺人事件」の調査依頼を受け、被害者遺族たちを訪問している。
  • 折り紙殺人鬼」は子どもを誘拐すると、その父親もしくは母親に「試練」を課していた。親は沈黙するか、行方不明になっている。スコットは遺族の信頼を得て、証拠品を受け取っていく。
  • スコットは遺族のひとりローレンの自殺を食い止める。ローレンはスコットを訪ね、調査を手伝いたいと申し出る。
  • ゴーディ・クレイマーという青年が疑わしいが、彼は地元名士の息子であるため手が出せない。ゴーディは「おれが殺人鬼だ」とふざける。

マディソン・ペイジ

  • 駆け出しの新聞記者。目的のためなら手段を選ばない。不眠症に悩まされている。
  • 自宅で眠れなくなったマディソンはモーテルに移る。そこで傷ついたイーサンを見つけ、手当する。
  • イーサンの息子が「折り紙殺人鬼」に誘拐されたことを知り、彼を追跡するようになる。

ノーマン・ジェイデン

  • FBI捜査官。「折り紙殺人事件」解決のため派遣されたが、地元警察には歓迎されていない。
  • 「ARI」という最新捜査ツールを駆使するが、その副作用に身体を蝕まれている。
  • 地元警察のカーターはイーサンの犯行と決めつけるが、同意できない。

ストーリー:破

イーサン ... 振り回される

  • 第4の試練。麻薬の売人を射殺する。
  • 「折り紙殺人鬼」は自分の別人格ではないかと疑うが、いまは試練を受けるしかない。
  • マディソンと身体を重ねる。彼女が新聞記者と知って激高するが、ゆるす。
  • 最後の試練。遅効性の毒を飲む。イーサンは毒をあおって、ショーンが監禁されている場所に向かう。

スコット ... 犯人に近づく

  • 「折り紙殺人鬼」が使ったタイプライターを調べるため、ローレンとともにマンフレッドの店を訪れる。しかし目を離したすきにマンフレッドは殺害されてしまった。スコットとローレンは証拠を消して逃走する。
  • スコットはローレンを捜査から外そうとするが、彼女の意志は固かった。
  • タイプライターの持ち主は「ジョン・シェパード」という人物だったが、彼は30年前に若くして死んでいた。
  • 30年前、ジョンは双子の弟と建築現場で遊んでいた。そのときジョンは水路に落ちて、溺死してしまった。ジョンの死後、父親は親権を剥奪され、弟は養子に出された。弟の名前はわからない。
  • ジョンの墓を尋ねると、折り紙が添えてあった。ジョンの弟が「折り紙殺人鬼」だろうか?
  • 地元の名士、チャールズ・クレイマーに殺されそうになる。
  • 生き残ったスコットはクレイマーに報復する。
  • ゴーディは「折り紙殺人鬼」に憧れるだけの、馬鹿な若者だった。

マディソン ... 色仕掛け

  • マディソンは独自の調査で「折り紙殺人鬼」を追いかける。
  • クラブ「ブルー・ラグーン」のオーナー、パコから情報を聞き出すが、パコは「折り紙殺人鬼」に殺されてしまった。
  • モーテルでイーサンと身体を重ねる。
  • ジョンの母親、アン・シェパードが入院している病院を訪ね、ジョンの弟の名前を聞き出す。

ジェイデン ... 不遇

  • ジェイデンは「ブルー・ラグーン」を訪ねるが、パコは殺されていた。「折り紙殺人鬼」と遭遇し、格闘になるが、取り逃がしてしまう。
  • ARIの映像から、「折り紙殺人鬼」は警察官と判明。有力容疑者を見つける。

ストーリー:急

  • 30年前、ジョンが水路に落ちたとき、双子の弟は父親に助けを求めたが、相手にされなかった。
  • 双子の弟とは、スコット・シェルビーだった。
  • スコットは「折り紙殺人事件」の調査をしていたのではなく、犯人につながる証拠を回収していたのだ。そして自分の正体を知るマンフレッドとパコを殺害した。集めた証拠はすべて燃やした。
  • マディソンはスコットの事務所に潜り込んだ。スコットは警察官の制服を着て、子どもたちを誘拐した。事務所の奥で蘭の花が栽培されていた。ショーンの監禁場所を示す手掛かりを見つけた。
  • マディソンはスコットに殺されそうになるが、脱出。イーサンに情報を伝える。
  • イーサンは、ショーンが監禁された工場にやってきた。
  • スコットがすべてを話す。彼は「息子の為に命を投げ出す父親」を求めていたのだ。イーサンは理想の父親だった。スコットはイーサンを射殺しようとするが、ジェイデンが駆けつけ格闘になる。
  • ショーンは救出された。イーサンの毒は効果を発揮せず、生還できた。
  • 現場に駆けつけたマディソンは、イーサンを射殺しようとするカーターを説得した。
  • ジェイデンとスコットが格闘する。スコットは粉砕機に落ちて死亡した。

ストーリーの疑問点

イーサン ... 折り紙をもっていた理由は?

彼が折り紙を握っていた理由は最後まで明かされなかった。たまたま折り紙を拾ったなんて考えられない。「自分の別人格が犯人かもしれない」ってのが本作の魅力だから、そう思うキッカケを無視するのはインチキだ。
イーサンは徹底的に受け身のキャラクターで、自発的な行動はまったくなかった。マディソンの愛を受け入れただけで、自分から愛したとは言えない。

スコット ... 理想の父親をなぜ殺す?

プレイヤーが操作するキャラクターの1人が犯人だったのは意外。アンフェアな気もするが、「犯人は誰だろう?」みたいな矛盾するモノローグを避けている点は好感がもてる。
しかしやっぱり目的がわからない。イーサンが試練に合格しても、「理想の父親」だと認めても、スコットは彼を殺そうとした。だったら毒を飲ませておけばいいのに。わざわざ現場にやってきて、すべてを語った上で殺すなんて馬鹿げてる。
また地元名士と衝突してまでゴーディを追求したのに、放置してしまった。自分の模倣者に怒っているなら、殺すべきだろう。「折り紙殺人鬼」の証拠を消しながら、よけいなトラブルを招いている。

マディソン ... 不眠症は?

暴漢に襲われる強烈なイントロダクション。そして彼女がモーテルを借りるきっかけとなった不眠症は、なんと事件にまったく関係なかった。そりゃないよ! 
マディソンは身勝手なジャーナリストだ。事件を追跡する理由も、売名しかない。そんな女とイーサンが結婚して、どうして幸福になれる? 吊り橋効果なら、破綻は避けられない。ヒロインではあるが、好きになる要素がまったくない。

ジェイデン ... 救われない

ARIの副作用を克服することはできず、救われないキャラクターだった。ARIは事件の情報を伝えるための道具でしかなく、ドラマを動かすことはなかった。ほんと、救われない。

まとめ

『HEAVY RAIN』はアクションゲームに近いアドベンチャーゲームだった。操作ミスや焦りが反映する行動選択や、ヒーロー性を徹底的に排除したストーリーが、没入感を高めている。反面、選択肢を変えて結末の変化を楽しむというアドベンチャーゲームの醍醐味は弱かった。

いろいろ不満はあるが、可能性は示された。次にやってくる作品に期待したい。

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