浴室の美女 / 江戸川乱歩の美女シリーズ#02 『魔術師』より Yokushitsu no Bijo

1978年 日本ドラマ 4ツ星 推理 @江戸川乱歩

「2時20分! おれの首が落ちる時か!」

あらすじ

休暇中の明智は、玉村妙子という美女と知り合った。後日、妙子の伯父・福田徳二郎に脅迫状が送られる。明智は警護を引き受けるが、「魔術師」を名乗る男の拉致されてしまった。明智は魔術師の娘・綾子の手引で脱出を試みるが、銃撃され、殺されてしまう。

明智不在の屋敷で、福田氏が惨殺される。さらに浴室で妙子が切りつけられ、弟の一郎も時計台で首を切断されかかった。戦々恐々とする一家を、牛原という金持ちが屋敷に招いてもてなす。しかし彼こそが魔術師だった。

魔術師こと奥村源造の父親は、玉村の父親に裏切られ、生きたまま壁に塗りこまれた。奥村は親の世代の恨みを晴らすため、その息子たちと孫を殺すと言う。魔術師は玉村氏と一郎を閉じ込め、火を放った。
アジトにもどった魔術師は祝杯を上げるが、そこへ明智が登場し、すべてのトリックを暴く。警察に囲まれた魔術師は毒をあおって死んだ。「復讐はつづく」と言い残して。

数日後、玉村氏の首吊死り体が発見される。魔術師は死んだはずなのに......。

これは再放送で見たのを覚えている。私が「江戸川乱歩美女シリーズ」と言われて思い出すのは、本作の「仮面に混じった顔」、「時計台の罠」、「生きたまま壁に塗りこまれる男の再現映像」である。2015年に再視聴したが、おもしろい。テンポがいいし、先が読めない。庭師が明智の変装であること、牛原が魔術師であることは明らかだが、それさえもいい目くらましだ。

とはいえストーリーは珍妙だ。親の仇を討つため50年(原作では40年)の歳月をかけ、しかも当人ではなく子孫をターゲットにするだろうか? また実の親に命じられたにせよ、ともに暮らした家族を殺す計画に加担するだろうか? 原作通りではあるが、葛藤を描いてほしい。

それから魔術師の娘・綾子は、原作ではのちに明智の助手になる文代である。わざわざ名前を変えず、本作を1作目にすれば、文代(五十嵐めぐみ)の存在感もぐっと増したはず。もったいない。

細かな点を拾っていくと、2作目も明智は休暇中で、美女が絡まないと仕事をしない。これはなんとなくシリーズ共通の設定になっていく。魔術師に拉致された明智が、いきなり暴力を鍵を奪おうとしたのは驚き。頭脳プレーだけじゃない。中盤で明智が死んで、変装してアジトに潜入、あっと驚かせるパターンが確立。浪越警部が明智の死を発表したり、文代たちが先に生存を知ってしまうなど、まだ洗練されてない。どうやって生き残ったか説明がないのは不親切だが、この粗雑さも定番化してしまう。
そうそう、浪越警部(荒井注)が初登場だね。「ここが薄いから」とか、死亡会見でぶーっと鼻をかむとか、粗野だが憎めない人物になっている。荒井注の人柄だろうか。

西村晃の魔術師がまた強烈で、声がすると注目してしまう。恐ろしい敵だが賢いわけじゃない。たとえば明智を殺そうと手品で拳銃を出すが、綾子に弾を抜かれていた。やむなくナイフを明智に投げるが、盾でかわされる。袖を調べて、ないことにあわてふためく。なんと愛嬌ある敵だろう!
なので魔術が死んだあと、「復讐の第二幕」はあっさり進行。妙子は魔術師に変装して、もっと暴れてほしかったが、まぁ、これ以上盛り込むのは無理か。西村晃は放送当時55歳。水戸黄門のような好々爺より、悪役がよく似合う。

繰り返すけど、ストーリーは粗い。演出も大雑把。
だけど、おもしろかった。

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