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[レビュー1975年10月31日に発表された 

アメリカを震撼させた夜 THE NIGHT THAT PANICKED AMERICA

動き出すと止められない

 1938年、オーソン・ウェルズがラジオドラマ「宇宙戦争」を放送すると、あまりにも迫真だったため市民がパニックを起こしたと言う。なかば伝説と化しているエピソードを、1975年にドキュメンタリー風に再現したもの。本作が事実に即しているとは思わないが、じつに興味深い。

 まず驚くのは、ラジオドラマが生放送であること。効果音もすべてスタジオ内の手作り。こんなこと、ほんとにやっていたのだろうか?
 彼らはおもしろいもの、話題になるものを作りたいだけで、パニックを誘発するつもりはない。だから再三「これはフィクションです」と断りを入れるのだが、視聴者に届かない。ラジオを聞いているのに、理解されない。ラジオドラマとわかってる人たちも、パニックになった人たちを止められない。大きな慣性がつくと、どうしようもない。

 人々はラジオなんか聞かず、武器を取って、外に出る。あるいは荷物をまとめて逃げ惑う。トンネルで追い詰められ、自決する寸前だった家族があわれ。彼らは明日から、どんな顔して暮らすんだろう?

 視聴者はフィクションと知っているから、馬鹿だなと思う。しかし自分がその場にいて、果たして冷静でいられるだろうか? 周囲を止められるだろうか?

 宇宙人が攻めてくる。

 これほど荒唐無稽で、いっぺんの事実もないのに、パニックは起こりうる。実際に起ったかどうかは問題じゃなく、「起こりうる」という説得力に打ちのめされる。おまけに事件の発端であるウェルズや放送局には悪意も落ち度もない。
 そんなことより明日の視聴率。
 味わい深いエンディングだった。

 それから日本語吹き替えが豪華。それだけでも視聴する価値がある1本だった。

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