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[レビュー2016年11月23日に発表された 

モアナと伝説の海

Moana

いい子のまま冒険するな

あらすじ

1000年前、英雄マウイが女神テ・フィティの心を盗んでしまったため、闇が生まれた。闇が世界を覆い尽くすまえに、「海」に選ばれたものが心を返しに行くだろう。


モアナはモトゥヌイ島で生まれ育った少女。族長の娘で、みんなに愛されている。島の外にあこがれているが、禁を破ることはできなかった。

あるとき、作物や魚が採れなくなる。自分自身が「海に選ばれたもの」であると気づいたモアナは、単独で外洋へ飛び出してしまう。

モアナはマウイを見つけて説得。テ・フィティの島に向かう。しかし溶岩の悪魔テ・カァに阻まれる。マウイは逃げ出し、モアナも役目を放棄するが、祖母と先祖たちの霊に慰められ、ふたたび挑戦する。

モアナの危機にマウイが駆けつけ、テ・フィティに心を返すことに成功。テ・フィティはマウイに新しい釣り針を与え、自身は新しい島になった。


異変は終息した。マウイは旅立ち、モアナはモトゥヌイ島に還った。そして人々に航海術を伝え、人々を外洋の島へ導くのだった。

驚異の映像体験

いやはや水がすごい。透明で屈折するだけじゃなく、水の重さ、温もり、表面張力、肌を滑るくすぐったさまで感じられる。人体もすごい。現実離れした弾力感はあるが、南太平洋の人たち特有の堀の深さ、眉の太さ、ちぢれた黒髪、褐色の肌で払拭される。遠いところはリアルに、近いところはデフォルメで描かれるバランスも絶妙。圧倒される映像体験だった。

「いい子」の冒険

しかしストーリーは取っ付きにくい。モアナに屈託がないためだ。

モアナは美しく、やさしく、みんなに愛されている。好奇心旺盛で、外洋にあこがれているが、禁を破ったりしない。つまり、「いい子」だ。
異変が起こると、族長の娘として解決しようと奔走する。自分自身が「海に選ばれたもの」と知ると、矢も盾もたまらず外洋に飛び出した。夜に、ひとりで、だれにも告げず、外洋を航行する知識も技術もなく、異変を解決する計画もないままに。
とんでもない自殺行為だが、「海」の万全サポートによって保護され、モアナは無謀であることに気づきもしない。なにこれ? こんな冒険ってあるの?

モアナは島の掟に対して「いい子」だった。それが「海」に選ばれたことで、一段上のルールに対して「いい子」になった。「海」に選ばれたから、なにも恐れない。疑わない。相手の都合も考慮しない。傲慢だ。キリスト教の神が喜びそうなタイプだ。

しかし「海」がモアナを選んだのはずっと昔で、モアナ自身も忘れていた。このタイムラグは人間の理解を超えており、物語への没入を阻害する。余計な謎だ。

挫折と復活?

モアナとマウイは失敗した。マウイは針を失うことを恐れて逃走。モアナも絶望し、心を海に投げ捨てる。そこへ祖母と先祖の霊があらわれて、モアナの心に問いかける。

いいシーンだ。モアナは「選ばれたからやる」から、「とにかくやる」にシフトする。それまで自分が海に選ばれた理由を知りたがっていたが、これ以降は口にしない。「海」もサポートしない。モアナは自分の力で成し遂げられると信じ、突き進む。

だが、そのキッカケがわからない。
祖母は責任から解放した。では先祖のビジョンが意味するものは? あれは移民船団であって、冒険してるわけじゃない。モトゥヌイ島に必要なのは異変の解決であって、島を捨てる覚悟じゃない。

あるいは島のためでも、海のためでもなく、ただ自分のため挑戦すると決めたのかもしれない。モアナが「いい子」をやめた瞬間になるが、それほどの変化があったようには見えない。

マウイの動機は?

マウイは無責任で、身勝手で、現実と向き合わない人物だ。だのにモアナのために駆けつけ、針が砕けることも、自分が殺されることも恐れない。なぜ変わった?
ラストでもマウイはモトゥヌイ島の人達の称賛を求めなかった。あれほど英雄にこだわっていたのに、なぜ変わった?

どこかでモアナを見ていたとしても、心の変化は見えない。マウイが勇気に目覚めるイベントがあったはずだが、すっぽり抜け落ちている。そこが重要なのに。

勇気と冒険

いい子のまま、冒険者にはなれない。いい子は外のルールに従うもの。冒険者は自分のルールに従うものだから。その切り替えが本作のテーマだと思っていたから、拍子抜けした。

逆にマウイは自分より他者を思いやることを学んだはずだが、これも描かれない。モアナもマウイも、過程がなく結果だけある。

ちょっと意地悪な見方

モアナが先祖の移民船を見つけるシーンは好き。たとえモトゥヌイ島が平和な楽園であっても、「外」への興味を失ってはならない。冒険心は、人類を幾度も救ってきた。いや、人類の未来なんて関係なく、人間には冒険が必要なんだ。

ところでこの海域には、モトゥヌイ族しかいないようだ。移民先も無人島ばかり。航海の途中で遭遇する海賊(カカモラ)はココナツの怪物、つまり異民族じゃない。

なんだか巧妙に問題を避けているような気がする。

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