第02夜:2本目の最終電車 dream02
2005年 夢日記「あぁ、最終電車が行っちまったぁ!」
ホームから走り去る電車を見ながら、私は途方に暮れた。時刻は深夜。ほかに客はいない。次の電車もない。ホームは静まりかえっていた。
この駅で乗り換えるはずだった。
そのとき、切符がないことに気づいた。あわてて探しはじめるが、今夜は荷物が多すぎた。ポケットの奥からノートパソコンの隙間まで探したけれど、結局、切符は見つからなかった。
(とにかく乗っちゃうべきだった)
切符がなくても、降りるときに精算すればいい。切符をなくして最終電車に乗り遅れたなんて、馬鹿げてる。まったくもって馬鹿げてる。
私はネクタイをゆるめて、路線図を探した。打ち合わせの帰りなので、ふだん使わない路線だった。
(どう乗り継げば、家に帰れるんだ?)
路線を指でなぞっていると、周囲が暗くなってきた。ホームの蛍光灯が次々に消えていく。
「や、やばい!」アセっていると、下から案内が聞こえた。
「○×行き最終電車、まもなく△番線に到着します~」
私は暗闇から逃れるように、階段を下りていった。
(さて、この電車に乗るべきか……)
この最終電車は、私の家まで届かない。その手前で止まってしまう。そこから先、乗り継ぎの電車があるという保証はない。どうせ帰れないなら、ビジネスホテルを探すべきだ。明日はプレゼンなので野宿は避けたい。ホテルを探すなら、都心から離れない方がいい。むしろ、逆に都心に戻って泊まった方が、明日の朝は便利だ。だが、なるったけ家まで近づいて、そこからタクシーという手もある。
プシューッ!
電車のドアが閉まった。私の目の前で。
2本目の最終電車も去っていった。私は乗らなかった。ふたたび静まりかえったホームで、私は独り、声に出して言ってみた。
「私にとっての最終電車は、さっき乗り遅れた方だ。
2本目は、敗者復活のチャンスじゃない。
家に帰れないなら、それはもう乗るべき電車じゃない」
ホームの蛍光灯が消えはじめる。私は足早に改札口に向かった。自分の判断が正しかったのかどうか、自信はない。しかし、さっきよりずっと気楽になっていた。もう、電車について悩むことはない。状況は悪化したけど、考えることは減った。今は、それが嬉しかった。
◎
……という夢を見た。
なんのことはない。私はもう家に帰っていた。窓の外は、もうすぐ夜明けだった。