第04夜:顔色吐息 dream04

2006年 夢日記
第04夜:顔色吐息

 ゾンビになる病気が蔓延した。

 ゾンビになると顔色が悪くなる。「あー、コイツ、死んでるよ」と一発でわかるほどだ。ところが当の本人は気づかない。自分だけじゃなく、ほかのゾンビ(の顔色)もわからないようだ。

 この病気(?)にどう対応するかで、政府は大きく揺れた。
 隔離するか処分するのが妥当なんだけど、完全に無自覚なゾンビなので、やれ差別だ、やれ人権を守れという話になった。

 で、ゾンビを保護する法律が制定された。
 ゾンビに対してゾンビであると指摘してはならないというものだ。まったくどうかしている。この法律を提唱した国会議員も、きっと顔色が悪かったにちがいない。

 というわけで、ゾンビ問題は取りざたされなくなった。
 ゾンビたちは電車に揺られ、会社で働き、家に帰っていく。顔色が悪いことと、言動がやや突飛であることをのぞけば、ゾンビもふつうの人間と大差ない存在だった。

 問題は……ゾンビが増えていくことだ。

 無自覚なゾンビだから、人間を襲うことはない。
 にもかかわらずゾンビが増えていく。昨日まで人間だった友人が、今日は顔色が悪くなっている。でもゾンビになったとは言えない。差別になってしまうから。

 ゾンビは、密室で人間と2人きりになると襲ってくるらしい。
 たとえばゾンビと人間がカラオケボックスに入ると、出てくるときは2人ともゾンビになっている。カラオケボックスでなにがあったのか、確かめようとした人もゾンビになってしまった。2chで仕入れた情報なので真偽は不明だが、本当かもしれない。

 というわけで、ゾンビと2人きりにならないように注意する。
 飲み会に参加しているときは気を使う。人数が減ってきたら帰るしかない。「つきあいが悪い」とか「ぼくがきらいですか?」と言われても、本当のことは言えないので詫びるほかない。非常に心苦しいものがある。
 しかし飲み会よりも、帰りのタクシーの方が危険だけどね。

 こうしてゾンビとの接点を避けていると、社会から孤立してしまった。
 神経をすり減らしたせいで、顔色も悪くなった。

 私はまだ人間なのだろうか?

 ゾンビは、自分がゾンビだと自覚できない。なので、ゾンビと人間を見分けられることが、私がまだ人間である証拠なのだが……どうにもヤバイ。窓の外を見ると、どいつもこいつもゾンビに見えてしまう。もしかすると、もう人間はいないのかもしれない。

 うーん、困ったもんだ。

 ……という夢を見た。
 こうして書き出してみると、ショートショートと見分けがつかない。夢ってのは不作為の創作じゃなくて、結実しなかった作為の残滓なんだね。
 これは夢日記じゃなくて、ショートショートに分類すべきだったか。