第07夜:タイムスキップ dream07
2006年 夢日記数年ぶりに再会した友人は、驚くほど老けていた。
「老けた」という形容では足りない。
モジャモジャに伸びた髪とヒゲは浮浪者のようだし、落ちくぼんだ眼窩やシワの深さは末期の病人を彷彿させた。彼はまさに老人になっていた。
人は……たった数年でこれほど変わってしまうものなのだろうか?
「おま……」
老けたな、と言おうとして口ごもってしまった。
笑って指摘できるようなレベルではないからだ。そんな私の心情を察したのか、友人はニヤリと笑って、となりに座るように目配せした。上司に呼び出されたような気持ちで私は着席した。
とりあえず生ビールを注文して、おしぼりで顔をぬぐう。
「ま、いろいろあるよな」
と友人はつぶやいた。意味がよくわからない。
友人は琥珀色の液体をくぃっと呷って、煙草のけむりを吐いた。酒のニオイ、煙草のニオイ、それになにか奇妙なニオイが混ざっている。オーデコロンと高級チョコレートを混ぜたようなニオイだ。
もしかするとこれは......、"老い"のニオイなのかもしれない。
「なにか、あったんですか?」
と私は尋ねた。フツーに質問するつもりが、敬語になってしまった。敬語を使う方がむしろ失礼に当たると思ったが、老人になってしまった彼にタメ口はできなかった。
友人はちらりと私を見ると、煙草をぎゅっと灰皿に押しつけ、新しい煙草に火をつけた。ふぅーと紫煙を吐く。なにも語る気はないのだろうか......。
そう思って視線を外した瞬間に、友人の声が飛び込んできた。
「結局、年金はもらえそうにないな」
「え?」
「70歳になったけど、年金は5年後からだしな。
あと5年も生きていられる自信はないぜ。
生きていたとしても、脳みそは死んでるだろうしな」
ぐらり、と世界が揺らいだ。
これと同じ会話を、前にもしたような気がする。
あれは……いつだったっけ?
この友人と会うのは数年ぶり? 数十年ぶり?
私はいま……何歳?
「鏡、見てこいよ」
と友人は言った。ニヤニヤしながら、おしぼりを手渡された。
なぜ、おしぼり? これをどうしろと?
私の顔に……なにか……ついているのか?
(か、鏡を、見てはいけない!)
◎
という夢を見た。
どういう設定なんだろう?
40年後の世界に(40年分の歳をとって)放り出されてしまったのか。ちゃんと暮らしてきたのに40年分の記憶を失ってしまったのか。とにかく人生を早送り(スキップ)された感じ。
すごく怖い夢だった。