第31夜:滅指
2009年 夢日記友だち4人で、「メッシ」という双六をやることになった。
知らないゲームだが、友人は「やりながら覚えられる」という。それはいいけど、こいつら、誰だっけ? 向こうは私を知ってるみたいだから、ま、いっか。
初手が透明なサイコロを盤上に投げた。出た目の分だけ、線を線をひいていく。私も倣い、サイコロを振った。4人で4色の線が、盤上にらせんを描いていく。
(このまま中央に達したものが勝ちかな?)
ありったけの念を込めて、サイコロを振る。すると、期待通りの目がどんどん出るではないか。ほか3名を大きく引き離すと、なんだか悪いような気がしてきた。すると出目が急に悪くなり、私の手番は終わった。
「ふっ、メッシは自分を疑ったら負けだよ」
次の手番がふる。これまた驚くほど目が走る。私のリードを一気に詰めてくるが、並んだところで彼の神は去った。サイコロの磁場が消える。私にも念が見えるようになっていた。
中心点に最初に達したのは私だった。
「まだ、終わってなぁい!」
ビシッ!
次の手番は、いきなりサイコロを壁に向かって投げつけた。そして、めり込んだサイコロを指で押さえると、盤上から線がのびた。ほかの友人も同じようにサイコロを投げて、線をのばしていった。
「念ずれば実現する。それがメッシだ」
よくわからないけど、わかってきた。中心点はゴールではなく、スタートなのだ。虫眼鏡で太陽光を集めるように、らせんで創造力を集めて、発火させたのか。
ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ!
私たちは壁や床にサイコロを投げつけ、線をのばしていった。そのまま部屋を飛び出して、エレベータや階段、あるいはマンションの壁に沿って線を走らせる。デタラメではない。これは、より大きならせんを描いているのだ。線の上なら、どこでも立つことができた。そして線の上にいるかぎり、電車に轢かれても平気だ。ただし、線に沿って走ってきたものは避けられない。まっすぐすぎる線は、地脈の流れに引っ張られるので、注意が必要だ。
ビシッ!
友人が電柱のてっぺんにサイコロを投げた。あそこに打たれると、どうしようもない。やむなく迂回路を探していると、次の手番は思いがけない手を打った。
ビビシッ!
電柱の根元に線をひいて、電柱の存在を消してしまった。友人は直前のアンカーポイントまで、すっ飛んでいく。
(そんな使い方があったのか)
創造力で、それをなかったことにする。いわば、マイナスの創造力だな。
この新手によって、私たちは膠着状態に陥った。
どんなに線を引いても、次の手番で消されてしまうのだ。創造より消去の方が簡単なのは、致命的な問題だ。これじゃ、先に進めない。
そこで私は、自分の手番を連続させ、特殊サイコロで天空に伸びる極太の線をひいた。これなら消去されることもない。
「甘いな。いまの手番を消してやるぜ」
創造した事物ではなく、創造した時間を消されてしまい、私の塔はなかったことにされてしまった。くそぅ。なにかいい手はないものか。いっそ、ほかの3人を消してしまえば、私の勝利じゃないか?
◎
ふと、自分の指が、線をさすっていることに気づく。それは線ではなく、緑色の液体が流れるチューブだった。チューブは中央の観葉植物につながっている。いや、植物に私たち4人がつながっていた。
(あぁ、そうか。私たちは植物か栄養をもらっていたんだ......)
チューブをつぶすと、栄養が途絶えて、脳が先決状態になる。死に瀕すると、人間は異様な恍惚をおぼえるらしい。もちろん、やり過ぎたら死ぬ。
「滅指」とは、そのギリギリを競うゲームだった。
なんと愚かな。
しかし植物から栄養をもらっている現状では、ほかに楽しみもない。
◎
という夢を見た。
この夢は2部構成で、後半は二度寝した脳が見せた妄想だったようだ。
まぁ、どっちも同じか。