
気がつくと、地下室に閉じ込められていた。
壁も床も鋼鉄製で、無骨なリベットが打ち込まれている。頑丈なコンテナのようだ。
壁の向こうから、膨大な質量が伝わってくる。鋼鉄製の壁や天井は、地中の圧力からこの空間を守っているのか。
(ここはどこだ? どうやって入ったんだ?)
天井から釣り下げられた裸電球で周囲は見えるが、窓もドアもない。各辺もびっちり溶接されている。密室に私を入れたのではなく、私を置いてから密室を造ったようだ。
電球のツマミをひねると、真っ暗になった。
ふたたび灯りを点けようとしたとき、天井に小さな穴があることに気がついた。遠くに白い点が見える。空気穴だろうか? あれが地上の光なら、この部屋は数十メートルの地下に埋まっているようだ。
想像してみる──。
どこかの公園の茂みに、細い筒が出ている。近くに人はいるが、誰も気づかない。地上は騒がしいので、筒から漏れる声など聞こえない。筒に気づいても、その先に密室が埋まっているとは想像もしないだろう。それは絶望的なイメージだった。
(雨が降ったら、どうなるんだ?)
先のことも気がかりだが、それ以上に重大な問題があった。
◎
部屋の中央に、女性が横たわっていた。
姉さんだった。
素っ裸で、両手両足を揃え、仰向けに寝かされている。均整のとれたプロポーションは、重力を感じさせない。マネキンのようだ。
姉さんは死んでいた。
外傷は見あたらないが、とにかく死んでいる。最初から死んでいたのだ。
姉さんの肌は血色がよかった。電球のせいばかりでなく、本当に生気に満ちている。よく見ると、姉さんは汗をかいていた。玉になった汗が表皮を転がり、じんわり床を濡らしていく。サウナにいるような発汗だが、私は暑くない。姉さんは微動だにせず、ただ汗をかいていた。
姉さんは生き返ろうとしている。
いまは死んでいるが、ほどなく喉がごくりと動き、その鼻に息が通うだろう。気管支が修復されれば、心臓も鼓動する。身体が生命活動を再開すれば、魂も還ってくる。
私は、姉さんの帰還を恐れていた。
地中の密室に、2人の生者は多すぎる。片方は死体でなければならない。姉さんが生き返ったら、私は死ぬだろう。まぁ、死ぬのはかまわない。どうせ私は助からない。
こわいのは、生き返った姉さんとの会話だ。
姉さんはどんな目で私を見るだろう?
もう1度首を絞めれば、こわい思いをしなくても済む……。
◎
これは1994年11月26日に見た夢。高校2年生のころだ。
目が覚めて、ノートにメモしておいたものを、小説風に書き起こしてみた。
断っておくが、私に姉はいない。母親にも確認した。
高校時代は姉さんの夢を何度か見たが、きちんと向き合ったことはない。「さっきまでそこに座っていた」とか、「自転車を漕ぐ後ろ姿を見た」とか、気配を示すものばかり。顔は見てるけど、目を見たことがないのだ。
高校を卒業したあたりから、ぱたりと姉さんの夢を見なくなる。
なぜだろう? 姉さんのことを文章にしたせいだろうか。
夢日記 (22)
-

汗をかく死体
気がつくと、地下室に閉じ込められていた。 壁も床も鋼鉄製で、無骨... -

味のない人生
夢の中で、私は小学校の先生になっていた。 受け持ちのクラスに、味... -

なつかしエール
久しぶりにぐっすり眠れて、目覚めのいい朝だった。 背広に着替えて... -

クローズド・サークル
(犯人がわかったッ!) 私は心の中で叫んだ。 と同時に、それが顔... -

飛行船の秘密
「この飛行船は墜ちる!」 初めて乗った飛行船(ヒコーキではない)。... -

悪魔の手錠
「強盗の現行犯でおまえを逮捕するッ!」 逃走する若者を羽交い締めに... -

食の安全
食品の“自然度”表示が義務化された。 “自然度”とは、その食品が... -

ウルトラマンの甘露煮
海エルフと陸エルフの猛攻によって、城は陥落寸前だった。 いろいろ... -

セカンドナース
気がつくと、オンナになっていた。 身体が軽くて、柔らかい! ウエ... -

あざなえる縄のごとし
仕事を辞めて、大学受験することにした。 なにを今さらと思うだろう... -

サソリとアイスの当たり棒の関係
1996年ごろの話、私は毎週末、友人宅で遊んでいた。 そこにはゲ... -

蜘蛛の糸
気がつくと、天空のハシゴに引っかかってた。 風がびゅーびゅー吹い... -

宴の終わり
「さて、そろそろ帰りましょうか」 彼女はそう言って、席を立つ。そう... -

明晰夢の悪夢
「これは夢だ」と自覚する夢を、明晰夢と呼ぶ。 明晰夢(メイセキむ:... -

長電話する夢
「ご無沙汰です。最近、どうですか?」 昔の仕事仲間から電話がかかっ... -

タイムスキップ
数年ぶりに再会した友人は、驚くほど老けていた。 「老けた」という... -

親父が見た夢
昔、親父からこんな話を聞いた。 ある日、親父は地方に出張していた... -

最後の1本
夜、布団で寝ていると、足がツった。 強烈だった。ビキビキと足の健... -

顔色吐息
ゾンビになる病気が蔓延した。 ゾンビになると顔色が悪くなる。「あ... -

進路相談
進路指導室に行くと、海原雄山が座っていた。 「弟子にするから、卒... -

2本目の最終電車
「あぁ、最終電車が行っちまったぁ!」 ホームから走り去る電車を見な... -

ザ・マンション
気がつくと、マンションの一室にいた。 室内には、私のほかに数名の...