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      <title>総思創愛</title>
      <link>http://trynext.com/story/</link>
      <description>1,000文字でつづるショートショートなど、創作物を展示しています</description>
      <language>ja</language>
      <copyright>Copyright 2008</copyright>
      <lastBuildDate>Thu, 25 Sep 2008 21:50:00 +0900</lastBuildDate>
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            <item>
         <title>第54話：ブラック・ウィドー</title>
			<description><![CDATA[<p>「ついにブラック・ウィドーを妻に娶ることができた」</p>

<p>　きょう、80歳の誕生日を迎えるカツシゲ翁は、微笑みながらグラスを掲げた。<br />
「いやだわ、そんな言い方されては」<br />
　きょう、結婚したばかりの若い妻ヒトミも、グラスを手に取り乾杯する。<br />
　海辺に佇む広大な屋敷に、今夜はふたりきりだった。</p>

<p>「ヒトミよ。わしは十分に生きた。<br />
　戦うだけの人生だったが、末期におまえと出逢えて幸福だった」<br />
　ソファに身をあずけ、遺言のようなことをつぶやく。<br />
「変なことをおっしゃらないで。私をまた未亡人にするおつもりですの？」<br />
「ふふ、交尾したオスを殺す毒蜘蛛《ブラック・ウィドー》か……」<br />
　翁は目をつむり、ゴシップ紙の見出しを思い出した。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　ヒトミはこれまでに2度結婚し、2度死別している。<br />
　その相手が資産家ばかりで、莫大な遺産をつづけて相続したとなれば、世間の耳目を集めても無理はない。殺人や陰謀の証拠はまったくないのに、人々はヒトミを冷遇した。そんな中、カツシゲ翁だけが彼女を擁護してくれた。</p>

<p>　くいっと酒を飲み干すと、翁はおかわりを求めた。<br />
「そのへんになさっては…」<br />
　言いながらも、ヒトミはブランデーを注ぐ。翁は笑みを浮かべて、また一気にあおった。飲み方がおかしいので、ヒトミは心配になった。<br />
「なかなか死なんな……」<br />
　熱い息を吐いて、翁はこの1年を振り返った。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　ヒトミと知り合って半年後、翁は婚約を発表する。<br />
　翁の夫人と子はすでに他界しており、死後の財産の行方が注目されていただけに、この発表は大きな波紋を呼んだ。関係者たちは必死になって翁を説得したが、婚姻を止めることはできなかった。</p>

<p>　それもそのはず、翁は死ぬつもりだった。<br />
　翁は心臓を患っており、余命幾ばくもない。人生のすべてに勝ってきた男が、病気に倒れるのは不本意だった。そこで翁は、魔性の女に殺されることを望んだのだ。</p>

<p>「なに言ってるの？　私は誰も殺してないわ」<br />
　しんみり告白されて、ヒトミは目を丸くした。<br />
「それじゃ、あなたは私を信じてなかったの？<br />
　私の無実を唯一信じてくれたから、あなたと結婚したのに！」<br />
　ヒトミは激高し、離婚すると言い出した。</p>

<p>「そ、そんな馬鹿な！」<br />
　なにかに気づいたカツシゲ翁は、屋敷を飛び出した。<br />
　そして無謀な運転の末、崖下に転落してしまった。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　後日、ヒトミは翁の手紙を発見する。<br />
　そこにはヒトミへの惜しみない愛と感謝が記されていた。</p>

<p>　葬儀の朝、喪服をまとったヒトミは、手紙を破って海にまいた。</p>

<p><br />
(997文字)<br />
</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Thu, 25 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第53話：アーバンライフ</title>
			<description><![CDATA[<p>「あれ？　母さん、どうしたの？」</p>

<p>　アパートに帰ると、ドアの前に母さんが立っていた。<br />
「なに言ってんの、ミホ。今日、泊まりに来るって言っておいたでしょ」<br />
　ヤバ、すっかり忘れてた。<br />
　田舎の母が恩師に会うため、上京してくるんだった。<br />
　私は母さんに謝って、部屋にあがってもらった。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「いい暮らし、してるのねぇ」<br />
　上着を脱ぎながら、感想を述べる母。<br />
　私は高給取りなので、ちょっと自慢できる部屋に住んでいた。<br />
「これ、なんなの？」<br />
　かたすみに追いやられたダイエット器具に興味を示すので、ひとつずつ説明する。専門用語が多いので、今ひとつ理解できなかったみたい。<br />
「あんた、十分にスリムじゃないの」<br />
「スリムだからダイエットしないんじゃなくて、ダイエットするからスリムなのよ」<br />
「そうなの？」<br />
「そうよ。今日だってジムで汗を流してきたのよ。そのあとパーティで大食いしちゃったけど」<br />
「家に器具があるのに、ジムに通ってるの？」<br />
　うっ。<br />
「グルメとダイエットが趣味って、矛盾してない？」<br />
　うぐっ。<br />
「あんたは環境保護団体で働いているんでしょ？<br />
　そんな無駄遣いしていいの？」<br />
　うぐぐっ！</p>

<p>　まさに、おっしゃるとおり。<br />
　付け加えると、私は貧しい国に海外募金している一方で、それらの国から食糧を輸入して、食べ散らかしている。今夜のパーティでも、だいぶ廃棄されちゃった。でもまぁ、それはソレ、これはコレ。仕事とプライベートは分けて考えないと。<br />
　私は消費が経済を支える都市型生活について説明したが、なかなか理解してもらえなかった。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　寝る前、母は机の上にある書類に目をとめた。<br />
「ミホ、この書類は…」<br />
「あぁ、それは見ちゃ駄目。うちの団体の活動記録だから」<br />
「政治活動じゃない」<br />
「環境を守るためには、政治に訴えるのが一番なのよ。<br />
　いま、政府の無駄な公共事業を叩いているところなの」</p>

<p>　しばらく黙ったあと、母は話しはじめた。<br />
「明日ね、母さんは恩師のところに行って、融資をお願いするの」<br />
「融資？　なんで？　父さんの仕事、うまくいってないの？」<br />
「そうなの。公共事業がストップして、父さんの会社、破産寸前なの」<br />
「えぇ？」<br />
「でもたぶん、恩師が支援してくれると思う。<br />
　それが駄目なら、あんたに家業を手伝ってもらおうかしら」<br />
「まさか、母さんの恩師って」<br />
「そう、あんたたちが糾弾している大臣さんよ」</p>

<p><br />
(939文字)</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Wed, 24 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第52話：呪われた会社</title>
			<description><![CDATA[<p>「ユミちゃん、この会社はヤバイよ！」</p>

<p>　幼なじみのシロウは、青ざめた顔で訴えた。<br />
　霊感の強い人だから、なにか言うとは思っていたけど、こんなに真剣だとシャレにならない。</p>

<p>　ここは私が勤める証券会社。ヘッドハンティングされて3年になるかしら。<br />
　最初はモーレツに働く社員たちに圧倒された。やっぱり一流企業は空気がちがう。その熱気にあてられ、私もバリバリ働く。すると自分でも驚くほど仕事ができた。自分の才能が引き出されていくのは快感だった。<br />
　しかし無理がたたったのか、先週、私は職場で倒れてしまう。過労だった。<br />
　社長命令で休暇をとらされた私は、数年ぶりに田舎に帰った。</p>

<p>「それは悪霊の仕業だよ」<br />
　シロウはそう分析し、一緒に上京して確かめたいと言い出した。私に霊の匂いが残っているとか。失礼しちゃうわ。でも、気づかってくれるのはうれしかった。<br />
　私はデート気分で承諾し、シロウを会社に連れてきたんだけど……。</p>

<p>「屋上だ！　屋上になにかいる！」<br />
　手をひかれるまま、シロウと階段を登っていく。<br />
　私、なにやってるの？　これはデートじゃなかったの？</p>

<p>「うわぁッ！」<br />
　屋上にあった小さな祠に触れようとしたら、シロウが吹き飛ばされた。<br />
　大きな黒い影が私にも見えた。<br />
　信じられないし、信じたくないけど、シロウの言うとおり、このビルには悪霊が悪霊が憑いている！</p>

<p>　黒い影が私たちにのしかかる。<br />
　息ができない。シロウが死んじゃう。</p>

<p>「渇！」<br />
　大きな声が闇を切り裂いた。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　おそるおそる目を開けると、修験者が立っていた。社長だった。<br />
「さすが優秀なアナリスト。この仕組みに気づくとはね」<br />
　私たちは社長室に寝かされていた。もう霊障は感じられない。<br />
　社長室の壁や天井には、無数のお札が貼ってあった。</p>

<p>「ちゃんと制御できているから、心配ないよ」<br />
　社長の話によると、あの祠は先々代の創業社長が建てたものらしい。<br />
　創業当時、人を過労死させる悪霊がビルに憑いてしまった。しかし社員の潜在能力を引き出す効果があると気づいた先々代は、あえて不完全に封印した。死なない程度に社員を働かせることで、悪霊と社長の利害が一致したわけだ。これが成長の秘密だったのね。</p>

<p>「さて、ユミはどうする？」<br />
　社長がにっこり微笑んだ。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「よくないよ、ユミちゃん」<br />
　怖がるシロウを無視して、私は働きつづけた。<br />
　高い給料も魅力だが、この会社で伸ばしたいスキルもあったから。</p>

<p>　大丈夫、あと2年だけ。<br />
　ちゃんと自分を制御できているから、心配ないよ。</p>

<p><br />
(998文字)<br />
</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/tatari.html</link>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Tue, 23 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第51話：モリアーティ</title>
			<description><![CDATA[<p>「今回も解決できましたね、教授！」</p>

<p>　ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。<br />
「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」<br />
「でも、教授がいなければ数百人の犠牲者が出ていました。<br />
　そんな事件を未然に防げたのは立派です」<br />
　お世辞ではなく、心の底からそう思っているようだ。さすがの教授も照れたのか、寝返りを打って背中を見せる。ジェーンはなにも言わず、花瓶の水を取り替えに行った。</p>

<p>　病室には私と教授だけが残った。<br />
　私はなにも言わず、ただ壁の時計をながめていた。カチコチと針が進んでいく。教授が解決した事件は、これで何件目だろう？</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　ヨーロッパで高度な知的犯罪が頻発した。しかし捕まえていると犯人はボンクラばかり。どうやら電脳をハックされ、犯罪プログラムを実行していたようだ。私ことレストレード警部は事件を追跡し、ライヘンバッハの滝で大悪党を仕留めた。</p>

<p>　すべては解決したかに見えた──。<br />
　しかし3年後、ふたたび類似の事件が続発する。犯罪プログラムが残っていたのだ。時限爆弾のように犯罪者が覚醒し、個別に行動しながら見事なチームプレイを成し遂げる。警察はお手上げだった。<br />
　そこで私は教授に事件捜査を依頼した。<br />
　最初はいやがっていたが、ジェーンを介護士につけると協力的になった。ジェーンが事件の核心を突くこともあり、今ではいい探偵コンビだ。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「私はそろそろ会議がありますので」<br />
「うむ、レストレード君。またな」<br />
　ジェーンはぺこりとお辞儀する。</p>

<p>　病院の廊下を歩きながら考える。<br />
（あの娘に本当のことは話せない。犯人はもう捕まえている。<br />
　ジェーンが介護しているモリアーティ教授こそが、犯人なんだ）</p>

<p>　あの日、モリアーティは死ななかった。<br />
　3年後、病院のベッドで目覚めた彼は、脳核損傷のため、記憶を失っていた。自分は「引退した数学教授」だと思っているモリアーティに、私は事件の捜査協力を求めた。<br />
　つまり教授は、自分が仕掛けた犯罪を推理しているわけだ。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　車のエンジンをかけるとき、ふと気づいた。<br />
（すべてが計画されたことだとしたら？）</p>

<p>　悪の天才は、正義の天才を求めていた。<br />
　しかし名探偵のいない100年後に生まれてしまった教授は、孤独だった。そこで彼は、自分自身が探偵になることにした。</p>

<p>　ジェーンは、ワトソン医師の子孫。<br />
　あの2人のコンビは、ホームズとワトソンのようだ。</p>

<p><br />
(994文字)<br />
</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/moriarty.html</link>
         <guid>http://trynext.com/story/short/moriarty.html</guid>
         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Mon, 22 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第50話：シャーロック</title>
			<description><![CDATA[<p>「ホームズさんが死んだって、本当ですか？」</p>

<p>　真っ青な顔で叫ぶレストレード警部に、ワトソンは静かにうなずいた。<br />
「ライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授もろとも滝壺に転落しました」<br />
「ど、どうなってるんです？」<br />
　ワトソンはこれまでの経緯を話した。</p>

<p>　ヨーロッパで起こる犯罪の陰に、巨大な悪の才能があることをホームズは見抜いていた。<br />
　その名はモリアーティ教授。<br />
　きわめて高い知能の持ち主であり、自分は直接手を下さず、さまざまな犯罪計画の立案をしていた。ホームズは彼を追跡し、ライヘンバッハの滝で対決。みずからの命と引き替えに、巨悪を葬り去ったのである。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　2階の窓からレストレード警部を見送ると、ワトソンはタバコに火をつけた。<br />
（本当のことは話せない。<br />
　モリアーティ教授なんて存在しないのだ）</p>

<p>　犯罪者の「出題」がなければ、探偵の「推理」もない──。<br />
　ホームズは稀代の名探偵だったが、その知性を最大限に発揮できる難事件、あるいは犯罪者に巡り会えなかった。ホームズは苛立ち、コカインに惑溺し、ついに精神の均衡を崩してしまった。そうして生まれた別人格が、モリアーティ教授なのだ。<br />
『彼は犯罪のナポレオンだよ、ワトスン君。この大都会の半分の悪事、ほぼすべての迷宮入り事件が、彼の手によるのだ』<br />
　モリアーティ教授のことを話すとき、ホームズはどこか嬉しそうだった。</p>

<p>　ホームズとモリアーティ教授。<br />
　どんな犯罪も見抜く探偵と、どんな探偵も出し抜く犯罪者。<br />
　2人の追いかけっこは、ライヘンバッハの滝で終わりを迎える。ホームズの多重人格に、ワトソンが気づいてしまったのだ。社会の敵となったホームズ（＝モリアーティ）を殺さなければ！</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「レストレードは帰ったかい？」<br />
　隠し部屋からホームズが顔を出したので、慌ててカーテンを閉めた。<br />
「まだ顔を出しちゃ駄目だろう！」<br />
　怒られたホームズは、ごめんなさいと頭を下げた。</p>

<p>　ワトソンは親友を殺せなかった。<br />
　しかし放置しておけばすべてが崩壊する。そこで、「相打ちになった」と発表することにした。さいわいモリアーティの人格はホームズに吸収されている。3年も養生すれば大丈夫だろう。そしたら「じつは生きていた」ことにして、活動を再開しよう。</p>

<p>　2人は隠し部屋で、ハドスン夫人が作ってくれた晩飯をもぐもぐ食べた。<br />
「すまないねぇ、ワトソン君」<br />
「仕方ないさ、ホームズ。<br />
　きみのことを書いた小説が、意外に売れているからね。<br />
　ぼくにもきみが必要なんだよ」</p>

<p><br />
(998文字)</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/sherlock.html</link>
         <guid>http://trynext.com/story/short/sherlock.html</guid>
         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Sun, 21 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第49話：アレルギー×アレルギー</title>
			<description><![CDATA[<p>「えぇ！　自宅で海老を食べてるのー？」</p>

<p>　トモミの告白に、素っ頓狂な声をあげてしまった。居酒屋の注目が集まる。<br />
「チーちゃん、声が大きい」<br />
　私たちは身体をかがめ、小声で話すことにした。女2人で内緒話をしているみたい。</p>

<p>　トモミは職場の後輩で、とてもかわいい。アネゴ肌の私とは対照的だ。<br />
　数年前、会社の慰安旅行で伊勢エビが出てきた。トモミはそれを食べると、ぶんぶん手を振って感激した。<br />
「海老って、こんなに美味しかったの？　甘いよ♪」<br />
　トモミは海老アレルギーだから、新鮮な海老を食べたことがない。だからその美味しさも知らなかったらしい。新鮮な海老ならアレルギー反応は出ないのかしら？<br />
　と思った矢先、トモミがガクガク震えだした。</p>

<p>　そのあとは大変だった──。<br />
　トモミは失神して救急車で運ばれた。食中毒が出たと、旅館は上を下への大騒ぎ。警察や保健所までやってきて、なぜか私がお詫びしてまわることに。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　そのトモミが、自宅で海老を食べている。<br />
　彼氏に調理してもらい、一口食べる。美味しさに感激して数分後、アレルギー反応で失神。そのあとは彼氏に介抱してもらっているそうだ。<br />
「ヤバイって、死んだらどうするの？」<br />
「だって、彼はお医者さんの卵だから、大丈夫よ」<br />
「そーゆー問題じゃないでしょ！　そもそも…」<br />
　ふと気がついた。<br />
「まさかと思うけど、トモミが好きなのは海老？　それとも失神？」<br />
「え？」</p>

<p>　なにか言おうとして、真っ赤になる。答えを聞くまでもない。<br />
　トモミは、アレルギー反応に感じている！<br />
　旅館の苦労を思い出した私は、厳しい口調で叱りつけた。するとトモミがすねた。</p>

<p>「いいじゃない、イケナイことで感じたって！<br />
　チーちゃんだって、同じでしょ！」<br />
「なんのこと？」<br />
　トモミは言いよどんだが、私はしゃべるよう威圧した。<br />
「だって、チーちゃん、駄目男が好きなんでしょ？<br />
　トモミには信じられないよ。アレのどこがいいの？」</p>

<p>　がつんと後頭部を殴られたみたい。<br />
　言われてみれば、そのとおり。私の彼はミュージシャン志望の駄目男。意志薄弱で、常識もない。想像を絶する駄目っぷりに、何度も煮え湯を飲まされた。それでも尽くす私って…。</p>

<p>「チーちゃん、怒った？」<br />
　無言でジョッキを飲み干すと、私は言った。<br />
「アイツとはもう、別れたよ」<br />
「ほんと？　あっ、それじゃごめん。駄目男が好きなんて言って」<br />
　消え入るように謝るトモミに、私は優しくつぶやいた。</p>

<p>「いいのよ。<br />
　アイツね、就職したの。もう駄目男じゃないの」</p>

<p><br />
(994文字)</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/allergiholic.html</link>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Sat, 20 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第48話：あらしのよるに流されて</title>
			<description><![CDATA[<p>「男と女の友情は成立するのかしら？」</p>

<p>　サヨコの質問に、ぼくは唾を飲み込んだ。<br />
（どうして、いま、そんなことを訊くんだろう？）<br />
　ぼくの答えを待たず、サヨコは言葉をつないだ。</p>

<p>「私は無理だと思う。男と女が友だちでいられるのは、欲情してないときだけ。<br />
　欲情したら、男と女は、男と女になるのよ」<br />
「そ、それは極端だね」<br />
　喉が渇く。<br />
「男と女って、狼と羊みたいな関係でしょ？<br />
　いくら友情を育てても、狼が飢えたら羊は食べられちゃうわ」<br />
　サヨコの言いたいことがわかった。ぼくを試しているんだ。<br />
「狼と羊はそうかもしれないけど、人間には理性がある。欲情して襲うような友だちは、友だちじゃない。ぼくはサヨコを襲ったりしないよ」<br />
「それは、私に欲情してないって意味？」<br />
　上目遣いに見つめられ、心臓の鼓動が早まった。距離を置こうと身じろぎしたが、逆にサヨコは身体をすり寄せてきた。温かい。スキーウェア越しでも、彼女の体温が伝わってくるようだ。この興奮は、特殊な状況のせいにちがいない。</p>

<p>「明日は下山できるね」<br />
　ぼくは話題を変えて、窓の外に視線を移した。暗闇で吹雪がゴーゴーと唸ってる。<br />
　雪山で遭難し、この山荘に避難して一週間が経った。食糧も燃料もあり、救助隊にも連絡できたが、天候が回復するまではどうしようもない。予報によれば、明日は晴れる。ぼくとサヨコは最後の夜を、寄り添って過ごしていた。</p>

<p>　サヨコは職場の同僚で、ただの友だち。<br />
　特別な目で見たことはない。しかし今夜のぼくは、サヨコに欲情していた。そしてサヨコも落ち着きをなくしていた。</p>

<p>「飢えた狼が羊を食べちゃうのは、仕方ないと思う」<br />
　サヨコは話題を戻した。明らかに誘っている。もう我慢できない。<br />
「わ、わかったよ。ぼくは欲情してる。きみが欲しくてたまらない。<br />
　でもそれは特殊な状況のせいだ。サヨコだって、下山したら気持ちが変わるよ！<br />
　だから……」<br />
　唇に指を添えられ、ぼくは沈黙した。</p>

<p>「特殊な状況では、特殊なことが起こるものよ」</p>

<p>　ぼくは理性から手を離した。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「ご無事でしたか、姫」</p>

<p>　翌朝、やってきた救助隊は血色のいいサヨコと、干涸らびた男の死体を発見した。サヨコが連絡したのは救助隊ではなく、彼女の血族だった。彼らはテキパキと死体を片付けた。<br />
　大叔父にハンカチを渡され、サヨコは口元の血をぬぐう。<br />
　予測されたことではあるが、大叔父は嘆息した。<br />
「やってしまったね」</p>

<p>「だって、一週間も血を吸わなかったから……我慢できなかったのよぉ」</p>

<p><br />
(991文字)</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/stormy-night.html</link>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Fri, 19 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第47話：無礼講の罠</title>
			<description><![CDATA[<p>「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう！」</p>

<p>　合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。<br />
　だが、その言葉を信じる従業員はいない。なにを言おうと変わらないものは変わらないし、変わるものはいずれ変わる。あえて冒険する必要はない。</p>

<p>　2週間前、社長が合宿しようと言い出した。<br />
「会社のあるべき方向性について、全社員で考えたい！」<br />
　迷惑な話だ。社長が現場に降りてこないように、従業員は経営判断に関与しない。なんでも一緒にやりたがるのは子どもだ。<br />
　しかし社長は社長だ。全従業員は任意という名の強制で参加させられた。この日のため、必死に仕事を終わらせてきた。初日から疲れ切っていたのだ。</p>

<p>「それじゃ、言わせていただきますがね。こんな合宿は無駄ですよ」<br />
　若い社員が立ち上がり、タメ口で発言した。私と同期で入社したナオヤだった。ナオヤは純粋というか、馬鹿というか、相手の言葉を真に受けてしまう。だから社長の望みどおり、無礼講で意見したのだ。</p>

<p>「なんだ、その態度は！<br />
　無礼講でも言っていいことと悪いことがあるぞ！」</p>

<p>　案の定、社長は激怒した。<br />
　社長は課長を呼びつけ、怒鳴り散らした。かわいそうに。これで課長の出世はなくなった。部下の不始末は上司の責任。中間管理職のつらいところだ。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう！」</p>

<p>　合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。<br />
　あれから30年──。<br />
　この疲れる合宿参加も30回目。私は順調に出世して、事業部長のポストに就いていた。</p>

<p>「誰も意見はないのか？　ん？」<br />
　社長がうながすと、ナオヤが手を挙げた。</p>

<p>「それじゃ、ぼくらのアイデアを聞いてくださぁい」<br />
「またナオヤくんの役に立たないアイデアか。いいだろう。発表してくれ」</p>

<p>　ナオヤは数人で寸劇をはじめた。寸劇でプレゼンするのか？　まったく理解できない。なぜそんな無駄なことする？　しかしもっと理解できないのは、そのナオヤが専務になっていることだ。</p>

<p>　あの合宿以降、社長はナオヤを気に入ってしまった。<br />
　ナオヤは無駄な提案をたくさんした。ほとんどが徒労に終わったが、10個に1つくらいは効果を上げた。すると昇進、その繰り返し。私より無駄が多いのに、私より出世してしまった。</p>

<p>　社長にせよナオヤにせよ、無駄が多いヤツばかりが上にいる。<br />
　私のサラリーマン人生は、間違っていたのだろうか？</p>

<p><br />
(970文字)</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Thu, 18 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第46話：悪魔の弁護</title>
			<description><![CDATA[<p>「私、悪魔なんです」</p>

<p>　少女は抑揚のない声でつぶやいた。<br />
　つややかな黒髪と、白いブラウスの対比が印象的だ。しかし接見に訪れた弁護士は、発言を聞き流した。<br />
「きみは無罪だ。ぼくがついてる！」<br />
　鼻息の荒さに、少女は肩を落とした。</p>

<p>「いいえ、私は有罪です。たくさん殺しましたから」<br />
「きみが30と2人を殺害したことは、残念ながら事実だ。しかし殺意はあっただろうか？　問われるべきは行為ではなく、動機なんだ」<br />
「殺すつもりで殺しました」<br />
「調書にはそう書いてある。だがね、強要された自白に信憑性はないよ」<br />
「強要されていません」<br />
「きみの主観ではそうだが、長時間にわたる尋問で疲れていたんだよ」<br />
「取り調べは1時間で終わりました」<br />
「客観的にはそうだが、主観的には長かったはずだ」<br />
「……」<br />
「調書なんて作文だよ。警察はまず自白内容を決めて、そのようにしゃべらせるからね！」</p>

<p>　少女の目に落胆の色が浮かぶ。<br />
　この弁護士も、前の2人と同じだ。まず弁護内容を決めて、そのように事実を解釈する。死刑回避が目的なのか、警察がきらいなのか。自分のやりたい弁護のためなら事実の歪曲や隠蔽も辞さないだろう。<br />
　テレビのせいだ、心神喪失のせいだとしゃべりつづける弁護士に、少女は眉をしかめた。</p>

<p>「けっこうです。私、悪魔ですから！」<br />
「悪魔？　やっぱり幻覚を見ていたんだね。だったら…」<br />
「うるゼぇな！　悪魔だってイッテンダロ！」<br />
　少女が爆発した。弁護士は吹き飛ばされ、壁に激突する。室内に熱風が吹き荒れた。<br />
　いや、そう感じただけで、部屋の空気は動いていない。<br />
　ゆっくり少女が立ち上がる。その背後に黒いオーラが揺らめいた。</p>

<p>　少女は本当に悪魔だった。<br />
　人間に取り憑いて悪事を働き、死刑になる寸前で地獄に還るつもりだったが、なかなか刑が執行されない。ムカついて弁護士2人をショック死させたのに、事態は進展せず、また同じような弁護士が送られてきた。もう、うんざり！<br />
　弁護士の首をぎりぎり締め上げる。<br />
　そう言えば、前任の弁護士たちは同じことを言いながら死んでいった。</p>

<p>『悪魔なら、なおさら無罪だよ！　悪魔に人間の法律は適用されないから！』</p>

<p>（こいつも同じことを言うかしら？）<br />
　そのとき、指先で電流がスパークした。<br />
　魔素が吸収され、部屋の温度が急激に下がった…ように感じた。<br />
　咳き込みながら、弁護士が立ち上がる。</p>

<p>「ヴるせぇ、小娘。おれの計画を邪魔スルナ！」</p>

<p>　弁護士はさらに上位の悪魔だった。</p>

<p><br />
(994文字)</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Wed, 17 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>汗をかく死体</title>
			<description><![CDATA[<p>　気がつくと、地下室に閉じ込められていた。</p>

<p>　壁も床も鋼鉄製で、無骨なリベットが打ち込まれている。頑丈なコンテナのようだ。<br />
　壁の向こうから、膨大な質量が伝わってくる。鋼鉄製の壁や天井は、地中の圧力からこの空間を守っているのか。</p>

<p>（ここはどこだ？　どうやって入ったんだ？）</p>

<p>　天井から釣り下げられた裸電球で周囲は見えるが、窓もドアもない。各辺もびっちり溶接されている。密室に私を入れたのではなく、私を置いてから密室を造ったようだ。<br />
　電球のツマミをひねると、真っ暗になった。<br />
　ふたたび灯りを点けようとしたとき、天井に小さな穴があることに気がついた。遠くに白い点が見える。空気穴だろうか？　あれが地上の光なら、この部屋は数十メートルの地下に埋まっているようだ。</p>

<p>　想像してみる──。<br />
　どこかの公園の茂みに、細い筒が出ている。近くに人はいるが、誰も気づかない。地上は騒がしいので、筒から漏れる声など聞こえない。筒に気づいても、その先に密室が埋まっているとは想像もしないだろう。それは絶望的なイメージだった。</p>

<p>（雨が降ったら、どうなるんだ？）<br />
　先のことも気がかりだが、それ以上に重大な問題があった。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　部屋の中央に、女性が横たわっていた。<br />
　姉さんだった。<br />
　素っ裸で、両手両足を揃え、仰向けに寝かされている。均整のとれたプロポーションは、重力を感じさせない。マネキンのようだ。</p>

<p>　姉さんは死んでいた。<br />
　外傷は見あたらないが、とにかく死んでいる。最初から死んでいたのだ。</p>

<p>　姉さんの肌は血色がよかった。電球のせいばかりでなく、本当に生気に満ちている。よく見ると、姉さんは汗をかいていた。玉になった汗が表皮を転がり、じんわり床を濡らしていく。サウナにいるような発汗だが、私は暑くない。姉さんは微動だにせず、ただ汗をかいていた。</p>

<p>　姉さんは生き返ろうとしている。<br />
　いまは死んでいるが、ほどなく喉がごくりと動き、その鼻に息が通うだろう。気管支が修復されれば、心臓も鼓動する。身体が生命活動を再開すれば、魂も還ってくる。</p>

<p>　私は、姉さんの帰還を恐れていた。<br />
　地中の密室に、2人の生者は多すぎる。片方は死体でなければならない。姉さんが生き返ったら、私は死ぬだろう。まぁ、死ぬのはかまわない。どうせ私は助からない。<br />
　こわいのは、生き返った姉さんとの会話だ。<br />
　姉さんはどんな目で私を見るだろう？</p>

<p>　もう1度首を絞めれば、こわい思いをしなくても済む……。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　これは1994年11月26日に見た夢。高校2年生のころだ。<br />
　目が覚めて、ノートにメモしておいたものを、小説風に書き起こしてみた。</p>

<p>　断っておくが、私に姉はいない。母親にも確認した。<br />
　高校時代は姉さんの夢を何度か見たが、きちんと向き合ったことはない。「さっきまでそこに座っていた」とか、「自転車を漕ぐ後ろ姿を見た」とか、気配を示すものばかり。顔は見てるけど、目を見たことがないのだ。</p>

<p>　高校を卒業したあたりから、ぱたりと姉さんの夢を見なくなる。<br />
　なぜだろう？　姉さんのことを文章にしたせいだろうか。</p>]]></description>
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         <category>夢日記</category>
         <pubDate>Tue, 16 Sep 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第45話：モテモテの代償</title>
			<description><![CDATA[<p>「おれをモテモテにしてくれる？　なんで？」</p>

<p>　トシオの質問に、黒服の男は汗をぬぐいながら答えた。<br />
「理由は、その、ご説明できませんが、はい、モテモテになります」<br />
　サングラスで男の目は見えないが、怖い印象はない。トシオは状況を整理した。</p>

<p>　トシオは町工場で働く青年。これといった特徴はなく、地味で、陰気で、役立たずだった。そんなトシオの夢は、彼女を作ることだった。<br />
　ある日、アパートに黒服の男が訪ねてきた。男はトシオに魔法をかけて、モテモテにしてくれるという。怒ったトシオは男を閉め出したが、振り向くと室内に上がり込んでいた。いくつかの魔法を見せられ、トシオは男の話を無視できなくなった。</p>

<p>（わからないのは理由だ。なんの代償もない魔法があるだろうか？）<br />
　しかし変身のチャンスは見逃せなかった。<br />
　30分後、トシオは魔法をかけてもらう。顔や体つきに変化はないが、なにやらモテそうな気がする。町に繰り出すと、女の子たちがこっちを振り返る。声をかけると、あっさりデートの約束ができた。すごい！</p>

<p>「認識の魔法なんです。これでシアワセになれますか？」<br />
　男の問いかけに、トシオははいはいと生返事した。トシオはガールハントに夢中になり、やがてその中の１人と結婚した。<br />
（いつか魔法が消えてしまうかもしれない）<br />
　そんな不安もあったので、結婚後は目立たず、出しゃばらず、静かに暮らした。手に入れたシアワセを守って、トシオは天寿をまっとうした。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　トシオの葬式会場から、焼香を済ませた黒服の男が出てきた。<br />
　雨の中、停めてあったクルマに乗り込む。運転席の黒服がタオルを渡してくれたので、サングラスを取って顔をぬぐう。目玉が４つある。彼らは宇宙人だった。</p>

<p>　もう１つの未来──。<br />
　宇宙人は通商条約を結ぶため、地球に来航した。侵略の意図はなかったが、一部の地球人が抵抗軍を組織してしまう。衝突は拡大し、10年にわたる全面戦争の末、人類は最終兵器で自滅してしまう。トシオは抵抗軍の初代リーダーだった。</p>

<p>　困った宇宙人は過去にタイムスリップし、トシオに別の道を歩んでもらうことにする。トシオが秘めていたカリスマ性を健全な方向に解放したところ、晩年のトシオは宇宙人に興味を示さなくなり、平和的に通商条約を締結できた。</p>

<p>「これでよかったんでしょうか？」<br />
「よかったのさ。<br />
　教科書に載る英雄が１人減ったけど、教科書は残ったんだから」</p>

<p>　男たちのクルマは宙に浮き、軌道上の母艦に還っていった。</p>

<p><br />
（997文字）<br />
</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Thu, 28 Aug 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>味のない人生</title>
			<description><![CDATA[<p>　<span class="large">夢</span>の中で、私は小学校の先生になっていた。</p>

<p>　受け持ちのクラスに、味覚のない少女がいる。外見に変わったところはないし、成績も言動もふつう。しかし集団の中では目を引く存在だった。私の先入観のせいかもしれない。<br />
　なぜ味覚がないのか？　理事長の話によると、先天的な障害ではなく、生後すぐに手術で味覚神経を除去してしまったのだ。両親たっての希望で、「死の味」を避けるためだとか。人間は死ぬとき恐怖や苦痛を感じるが、それは味覚として脳に伝わる。つまり味覚がなければ、やすらかに死ねるというのだ。<br />
　味覚を取り除くことが、医学的、心理学的、法律的、倫理的に正しいかどうかは知らないし、知りたくもない。私は児童の両親に意見する立場ではないし、いまさら失った味覚はもどらない。眼球を失った人に光がもどらないように。</p>

<p>　お昼、児童たちと一緒に給食を食べる。<br />
　給食は美味ではないが、食べるヨロコビはある。「おいしい」と「まずい」がわかることが幸福だと思う。だから私は、味覚が衰えることを恐れている。しかし彼女は、最初から味がわからない。リンゴの爽やかさも、パンの香ばしさも知らない。<br />
　彼女はほかの児童といっしょに給食を食べている。スプーンで芋を刺して、口に運び、もぐもぐしているが、味は感じていない。粘土を与えても、同じようにもぐもぐするだろう。<br />
（ヨロコビを知らなければ、それを惜しむこともない……）<br />
　なるほど彼女は死に瀕しても怖れることはなさそうだ。そんな彼女をあわれに思うのは、傲慢だろうか。酒飲みが下戸を見下すように。</p>

<p>　ある日、彼女の両親が学校にやってきた。<br />
　両親は驚くほど老いていた。記録によれば27歳で産んだとあるが、いま何歳なんだ？　彼女を産んで急速に年老いたのか、それとも彼女は見た目よりずっと齢をとっているのか？</p>

<p>「まだ、あの娘の手術が終わっておりませんで……」<br />
　老婆の話によると、彼女の舌の根っこに神経が残っており、かすかな苦みを感じているという。次の手術で、その根を完全に取り除いてしまいたい。老夫婦はその休みを申請に来たのだ。私はつい反対してしまった。望みがあるなら、摘み取ることはないでしょうと。</p>

<p>「お若いですな、先生」<br />
　枯れ木がつぶやいた。少女の父親だ。タバコを吸ってないのに、タバコの匂いがする。<br />
「あなたは自分の価値観を押しつけようとしている」<br />
　いま、彼女の味覚を完全に取り除けば、死の苦しみだけでなく、生のよどみからも解放される。これ以上成長することなく、半永久的に若さ（幼さ）を維持できる。つまり幼生成熟(ネオテニー)だ。それは夫婦にとって長年の夢である。この手術のために、夫婦は子をなしたのだ。</p>

<p>　私は口をつぐんだ。<br />
（狂ってる。これ以上話しても意味はない……）</p>

<p>　なにもできない。また職を賭して彼女を守る義理もない。<br />
　告白すれば、私は少女が苦手だった。あの異質な感じは、どうにも受け入れがたい。<br />
（少女が少女のまま、味を知らぬまま100年生きたとして、それは幸せなのか？）<br />
　私はそれを見てみたいと思った。<br />
　しかし私の寿命はそこまで長くない。行く末を見たいなら、私も味覚を捨てなければならない。自分も観察対象と同じ状態になってしまったら、その検証に意味はあるのだろうか？</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　──という夢を見た。<br />
　年老いた両親はすごく不気味だった。じつは少女は味覚を失っておらず、両親が生物時間を吸収しているのではないかと思った。夢の中では時間が錯綜するため、両親の若い頃や、200年後の世界も見たんだけど、よく覚えていない。何度か少女と会話したはずだけど、やはり思い出せない。<br />
　目が覚めて、すぐメモをとったので、夢日記に書き出すことができた。書いてみると、こんな夢を見る自分はやばいような気もする。<br />
</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/dream/real-thrill.html</link>
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         <category>夢日記</category>
         <pubDate>Sat, 23 Aug 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>なつかしエール</title>
			<description><![CDATA[<p>　<span class="large">久</span>しぶりにぐっすり眠れて、目覚めのいい朝だった。</p>

<p>　背広に着替えて、会社に向かう。すると駅で昔の友人Ｍに出会った。<br />
「数年ぶり？　いや十数年ぶり？」<br />
　さいわい向こうも私を覚えていたので、駅のホームで立ち話をする。</p>

<p>　気がつくと足下の鞄がない。盗まれた！　あわててホームを探すが、見つからない。ふと、鞄に携帯電話が入っていたことを思い出し、Ｍに電話してもらう。すると団地の方から着信音が聞こえてきた。<br />
　私は音の鳴る方に向かうが、Ｍは出社時間なので別れることに。もっと話したかった。</p>

<p>　団地から出てきた女性が、私の鞄を持っていた。声をかけると、それは中学時代の同級生、Ｎ子だった。Ｎ子も私を探していたようだ。事情がよくわからないが、懐かしさが上回った。私はＮ子に誘われるまま、昼飯を食べることに。まだ早いけど、座って話せた方がいい。</p>

<p>　オープンエアの席に座ると、ギャルソン(給仕)の顔に見覚えがあった。えぇと、誰だっけ？<br />
「お久しぶりです。ヒラ様」<br />
　と微笑まれて、調子を合わせる。誰だっけ？<br />
　Ｎ子がビアジョッキを注文していたので、私もヴァイツェンを飲むことに。昼間から飲むビールがうまい。</p>

<p>　Ｎ子はイラストレーターになっていた。原稿に詰まっているというので、スケッチを見せてもらう。アフリカ旅行の絵日記で、よく描けてる。Ｎ子にこんな絵が描けるとは思わなかった。率直に感想を言うと、照れるＮ子がかわいかった。</p>

<p>「お久しぶりッス、ヒラさん」<br />
　名前を呼ばれて振り向くと、数年前に退職したＩが立っていた。今はこの店でバイトしているらしい。なんという奇遇。Ｎ子に紹介しようと思ったら、事務所に行かなきゃと席を立ってしまった。もう夕方だった。風が涼しい。</p>

<p>　帰ろうとしたところに、あのギャルソンがやってきた。<br />
「ヒラ様、１つ、お知恵を拝借したいことがございます」<br />
　かしこまった口調より、彼が向かいの席に座ったことに驚いた。ギャルソンが座ってもいいのかな？　それはともかく、彼の頼みは今年の金賞ビールを当てることだった。そんなことを言われても私にわかるはずがない。するとギャルソンは、下の階を指さした。</p>

<p>　2階席から見下ろすと、初老の男がいた。独りでソーセージを食べ、ビールをあおってる。あの老人はビールの審査員で、これから注文する5種類のうち1つが金賞に選ばれるそうだ。そこで私も同じビールを飲んで、１つを選んでほしいという。私は受けて立った。</p>

<p>　ジョッキで5杯も飲むと、2杯目あたりを忘れてしまう。すると初老の男も2杯目のビールを注文するので、私もそれに倣う。私が飲みたいビールを注文するので、親近感がわいてきた。ソーセージをかじり、ジョッキをあおるタイミングも似てくる。私はいま、彼と同じ感覚を味わっている。</p>

<p>　私は席を立ち、初老の男に挨拶することにした。もつれる足で老人に近づく。<br />
「ちょっと、いいですか？」<br />
　老人が振り向いたところで目が覚めた。</p>

<p>　久しぶりにぐっすり眠れて、目覚めのいい朝だった。<br />
　でもちょっと、頭が痛かった。</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/dream/sweet-ale.html</link>
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         <category>夢日記</category>
         <pubDate>Thu, 21 Aug 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第44話：夫婦の食卓</title>
			<description><![CDATA[<p>「ちょっと！　あんた、味がわかってんの？」</p>

<p>　ある日、晩飯を食べていたヒデは、嫁さんに注意された。突然だったので、なんに怒っているのかわからない。相づちを打ちつつ、直前の状況を思い出す。えぇと、晩飯を食べていたら「おいしい？」と聞かれて、「うん」と答えた。この会話のどこが悪かったのか？</p>

<p>「なにを食べてもおいしいって言うじゃない！」<br />
　ようやく状況が把握できた。生返事がよくなかったらしい。<br />
「いや、本当においしいよ。食事を作ってくれて、感謝もしてる」<br />
　気持ちを伝えようとしたが、言葉が浮かんでこない。ヒデは味音痴なうえに、口下手だった。それをわかって結婚したはずなのに、嫁は許してくれなかった。</p>

<p>「感謝してるなら、漫画読みながら食べるのはやめてよ！」<br />
　指摘されて、ヒデは漫画をしまった。<br />
「それと、がっつくのもやめて。エサじゃないんだから」<br />
　知らぬ間にだいぶストレスが溜まっていたようだ。ヒデは神妙な顔で料理と向き合い、ゆっくり食べた。な、なにか気の利いたことを言わなければ・・・。<br />
「このキャベツ、うまいね！」<br />
「それはレタス」<br />
　食卓は沈黙につつまれた。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「それ以来、どうにも食事が苦手になってしまったよ」<br />
「それは大変だな」<br />
　職場でヒデは悩みを相談してきた。私はヒデと高校時代からの付き合いだし、奥さんとも面識がある。些細な問題に見えるが、ダムに空いた小さな穴のようなもので、なんとか手を打たねばならないだろう。</p>

<p>「とはいえ味音痴の男が、急にグルメ漫画の主人公にはなれないだろう」<br />
「そうなんだよ」<br />
「ここは誠意を示しつつ、あまり料理に踏み込まない方がいいと思う。映画でも見ながら食べれば、そのうち落ち着くんじゃないか？」<br />
「そうかなぁ」<br />
「そうだよ、それしかないって！」<br />
　私はヒデを励ました。</p>

<p>　そうなのだ。料理と向き合っても解決しない。私も食べたことがあるが、奥さんの料理はマズイのだ。それも殺人的にマズイ。そのことに奥さんも気づいていない。作る方も食べる方も鈍感だからこそ成立したカップルなのだ。<br />
　よく言われていることだが、夫婦は互いに向き合ってはならない。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「あ、そうそう。うちのやつ、妊娠したんだ」<br />
　ヒデは嬉しそうに告白した。<br />
「それはおめで・・・な、なんだってぇーーーーーッ！？」</p>

<p>　将来の可能性に気づき、私は言葉に詰まった。</p>

<p><br />
（942文字）</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/happy-home.html</link>
         <guid>http://trynext.com/story/short/happy-home.html</guid>
         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Thu, 26 Jun 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第43話：弔問客</title>
			<description><![CDATA[<p>「ご主人からお借りしていた本をお返しします・・・」</p>

<p>　主人の先輩にあたる紳士は、袱紗に包まれた本を取り出した。<br />
　きょうは主人の告別式。厳格で、口うるさく、殺しても死ななそうだった人だったけど、突然の発作であっけなくこの世を去ってしまった。たくさんの弔問客がお見えになっている。これも主人の人柄だろうか、誰もが敬意を払いつつも、その厳しさを皮肉るところがあった。</p>

<p>「几帳面な方でした。<br />
　お借りしていた本も、再三再四、返却を求められておりましてね。すると妙に返すのが悔しくなる。それでお会いするときはわざと忘れて行き、よく叱られました」<br />
　ところが主人が亡くなると、反発する理由もなくなり、こうして本を返しに来たと言う。<br />
　私は主人に思い出に本をお持ちくださいと申し出たが、借りた本を返すのは当然ですからと、断られた。紳士は寂しそうに微笑んだ。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>「奥様、私はこれから自首します」<br />
　見知らぬ弔問客はそう告白した。突然のことにびっくりしたが、話を聞いてさらに驚いた。端正な顔立ちの紳士は、じつは会社を横領していたと言う。それを主人に見咎められ、自首を命じられた。彼自身、罪を悔いていたのだが、命令されて自首するのは腹立たしい。そこで「証拠はない」と突っぱねていたのだが、主人が亡くなり証拠も証人も消えてしまうと、罪悪感だけ残ってしまい、堪えきれなくなったという。<br />
　私はなにも言えず、去りゆく紳士の背中を見送った。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　深夜、片付けを終えたころ、主人の部下だったカズオが裏口から入ってきた。カズオはなにも言わず私を背後から抱きしめ、首筋に熱い息を吹きかけた。ぞくぞくしたけど、私は腕をふりほどいた。<br />
「あなたとはもうオシマイよ」<br />
　カズオは驚き、なにやら訴えていたが、私の耳には届かなかった。</p>

<p>　私は浮気していた。でも、カズオとの情事が好きだったわけじゃない。密会したあと、主人と過ごす時間が好きだったのだ。ぐりぐりした目で見つめられ、名前を呼ばれるたびに、不貞を喝破されるのではと恐れ、感じていた。だけどもう、あの人はいない。あの緊張感がないのに、浮気する理由はなかった。</p>

<p>　ぐずるカズオを追い出して、私は主人の遺影と向き合った。<br />
　私もまだ若いから、誰かを好きになることもあるでしょう。だけどあなたの過ごした日々ほど濃密で、愚かな時間は得られない。</p>

<p>「光が強ければ、影もまた濃くなるのね・・・」</p>

<p>　私は祭壇にお線香を添えた。</p>

<p><br />
（986文字）<br />
</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/call-of-condolence.html</link>
         <guid>http://trynext.com/story/short/call-of-condolence.html</guid>
         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Wed, 25 Jun 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第42話：ガードレール</title>
			<description><![CDATA[<p>「こらっ！　道を外れちゃ駄目じゃないか」</p>

<p>　登山コースから外れた子どもを見つけた私は、列に戻るよう注意した。しかし最近の小学生は先生の言うことを素直に聞いてくれない。<br />
「立ち入り禁止じゃないのに、どうして行っちゃ駄目なの？」<br />
「そんな命令を出す権利があるの？」<br />
　やれやれ。私は脇道の危険性や、遠足時における先生の権限について、ていねいに説明した。納得すると、子どもたちは列に戻っていった。これで遠足のステイタスがブルーに変わる。ひと安心だ。</p>

<p>　子どもたちの腕にはICチップが埋め込まれている。<br />
　このICチップによって、子どもの体調や位置情報をつぶさに知ることができる。非常に便利だ。6年前から個人情報もICチップで管理されている。今どきの先生は子どもの名前やプロフィールを覚えない。ICチップで識別するからだ。へたに子どもの出自や成績を知ってしまうと、差別を起こしかねない。私にとって子どもたちは「子どもたち」という集団であって、顔も名前もない。だからこそ完全に平等な教育ができている。</p>

<p>　だがしかし・・・本当にこれでよいのだろうか？</p>

<p>　都市は電子化され、子どもは危険なところに近づけない。有害情報があれば感覚も遮断される。見えないガードレールというわけだ。素晴らしく安全だが、なにが危険かを考える能力は衰えてしまった。子どもは禁止されていることは絶対にしないが、禁止されてないことは安易に手を出してしまう。それで事故を起こし、また禁止指定が増える。愚かないたちごっこだ。</p>

<p>「先生、川だよ。入ってもいい？」<br />
　初めて見る水の流れに、子どもが興奮している。山の中は電子化もおよばず、見えないガードレールも少ない。だからさっきのように道を外れることもある。それを注意するのが先生の仕事だ。いや、そうじゃない！</p>

<p>「よし、先生といっしょに川で・・・アヅ！」<br />
　頭の中で火花が散った。<br />
《教育倫理規定、2015条B-12項ニ違反シマス》<br />
　視界に警告メッセージが表示される。そうだった。親権者の許可なく水遊びをしてはいけない決まりだった。禁止指定があまりにも多いので、先生は電脳チップを脳幹に埋め込むことが就業規則で決まっていた。</p>

<p>「先生、あたま、いたいの？」<br />
　子どもが心配そうにのぞき込む。無垢な子どもはかわいい。大丈夫だよと、頭をなでようとしたら・・・<br />
「イデデ！」</p>

<p>《教育倫理規定、15307条ニ違反シマス》</p>

<p><br />
（978文字）<br />
</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Tue, 24 Jun 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第41話：最果ての戦場</title>
			<description><![CDATA[<p>「ちくしょう！　司令部はなにを考えてるんだ？」</p>

<p>　レイジ少尉はゴミ箱をけっ飛ばした。おれは肩をすくめ、読書に集中しようとしたが、レイジの怒りは収まりそうにない。やむなく本を閉じて、話を聞いてやることにした。<br />
「聞いてくれ！　司令部は能ナシだ！」<br />
　レイジは立案した作戦の意義をまくし立てた。</p>

<p>　宇宙人との戦争が始まって12年。<br />
　一時は互いの母星まで侵攻したが、決め手を欠いて、今は緩衝宙域で小競り合いがつづいている。開戦当初は地球全体が興奮していたが、何年もつづくと戦争も日常になってしまった。まぁ、何百光年も離れた戦争に飽きるのも無理はない。</p>

<p>　とはいえ、負けるわけにはいかない。<br />
　そこで政府は、兵士の質を少しずつ下げていった。今じゃゴロツキと大差ない連中が部隊を編成している。いや、ゴロツキそのものだ。最前線は、地球の厄介者を送り込む場所になっていた。レイジにしたって、階級こそ少尉だが、詐欺で有罪判決を受けた男だ。懲役の代わりに兵役に就いているから、あと5年は還れない。</p>

<p>「どう思う？　これで戦況は大きく変わるだろ！」<br />
　問いただされ、我に返る。投影された宙域図を見ると、たしかにいい作戦だった。これを決行すればマゼラン要塞を落とせるだろう。</p>

<p>「司令部が無視しても、こうすれば決行できるぞ！」<br />
　レイジは嬉々としてしゃべりつづける。結局、こいつは戦争が好きなのだ。好きなだけでなく、才能もある。だから司令部はブレーキを踏んだのだ。</p>

<p>　おれは知っている。政府はこの戦争に勝つ気はない。<br />
　戦争によって景気が高揚し、技術革新が進み、厄介者をスムースに処分できている。これほど平和利用されている戦争をやめるはずがない。<br />
　そしておそらく・・・宇宙人サイドも事情は同じだ。<br />
　地球軍が大きなミスをしても徹底的に攻めてこないのは、上の方で話が付いている証拠だ。</p>

<p>　敵襲のサイレンが鳴って、おれたちは戦闘機に乗り込んだ。<br />
　コクピットのスクリーンに司令部からのメッセージが届いている。来ると思ったよ。おれは今日、レイジを殺す。致命的な馬鹿と天才を排除することが、おれの仕事だ。<br />
　おれは地球では殺人鬼だったが、ここでは才能が評価されている。ありがたい話だ。</p>

<p>　そしておそらく、向こう側にも、おれと同じようなヤツがいるんだろう。<br />
（会いたいような、会いたくないような・・・）<br />
　そんなことを考えながら、おれはレイジを撃墜した。</p>

<p><br />
（998文字）</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Mon, 23 Jun 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第40話：愛し方、愛され方</title>
			<description><![CDATA[<p>「やっぱり別れよう」</p>

<p>　ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年。これからと言うときに信じられない。<br />
「やっぱり、ユリ姉さんのことが忘れられないのね」<br />
　目を伏せ、ふるふると首を振るケイスケさん。<br />
「そうじゃない。ユリは関係ない」<br />
「うそっ！」<br />
　沈黙する唇をじっと見つめる。何百回もキスしてきたのに、心に触れることができないなんて。</p>

<p>　ケイスケさんは、ユリ姉さんの彼氏だった。<br />
　初めて逢ったのは高校１年のとき。美しく、おしとやかな姉さんが、まさか彼氏を連れてくるとは思わなかった。姉さんのことはなんでも知っていると思っていた私の自負を、ケイスケさんは打ち砕いた。</p>

<p>　姉さんは変わった。すごく綺麗になった。<br />
　私たちはよく３人で行動した。映画を見たり、料理を作ったり。姉さんがいて、ケイスケさんがいて、私がいる。それで幸せだった。</p>

<p>　ところが姉さんは、不意の交通事故で亡くなってしまう。あまりに突然で、あっけなくて、信じられない。ケイスケさんに慰められ、哀しみから立ち直ったとき、私は姉さんになることを誓った。</p>

<p>　ほどなく、私はケイスケさんと交際するようになった。<br />
　最初は抵抗を感じていたケイスケさんも、やがて私を受け入れてくれた。私は変わった。髪型も、身だしなみも、立ち振る舞いも、姉さんをトレースした。あの交通事故で死んだのは妹なんだと思うようになっていた。</p>

<p>　姉さんの年齢に追いついたとき、ケイスケさんは私と姉さんを区別しなくなった。そして結婚。すべてがうまくいっていたと思っていたのに、ケイスケさんの心はまだ姉さんが棲んでいた。</p>

<p>「ちがう。囚われているのはきみの方だ。<br />
　きみはぼくを見ていない。ユリになることだけが目的なんだ」<br />
　かたくなに拒否するケイスケさんに、私はとまどった。<br />
「仮に、私が姉さんに囚われているとして、なんの問題があるの？　いいじゃない、愛し合っているんだから！」<br />
「だから駄目なんだ」<br />
「どうして？」<br />
　ケイスケさんは、ずっと我慢していた答えを言った。<br />
「ぼくは、きみのことを好きになった。ユリになることに一生懸命な妹のきみを。ぼくはもうユリを愛していない」<br />
「え？」<br />
　ケイスケさんの瞳に映っていたのは私だった。<br />
　必死に姉さんを演じる私・・・。</p>

<p>　3ヶ月後、私たちは離婚した。<br />
　私は、「姉さん」を愛してほしかった。</p>

<p><br />
(932文字)<br />
</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Sat, 19 Apr 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第39話：予定があると安心する</title>
			<description><![CDATA[<p>「お客さんは、フランスの哲学者ジャン・ギトンをご存じですか？」</p>

<p>　窓の外をぼんやり見ていた私に、運転手が話しかけてきた。本当に話し好きな運ちゃんだな。浮かない声で「知らない」と返事したが、運ちゃんは気にせず語りはじめた。</p>

<p>「戦時中、ギトンは砲火にさらされ、死を恐れた。びびるギトンに、戦友がこう言った。『ジタバタするな。おまえが生きるか死ぬかは運命によって決まっているんだ！』と。この言葉を聞いてギトンは気が楽になった。すべてがあらかじめ神によって決められているなら、ここで恐れたり、泣いたりしても意味がない。それ以来、ギトンは信仰に帰依することにしたそうです。</p>

<p>「キリスト教では、あらかじめ決められている運命のことを『予定』と言います。人間はね、『予定』があると安心するんですよ。だって自分の判断で、自分や家族、仲間たちの命運が決まるとしたらその重圧に耐えきれません。<br />
　すべては神の『予定』にある。自分がここで失敗しても、それにはなにか意味がある。そう思うことで、日々おだやかに過ごせるわけです。</p>

<p>「お客さんは、ベンチャー企業の社長さんなんですってね。<br />
　社長さんは『予定』を決める立場だから、つらいですよ。ひきかえ従業員は気楽です。成功しても失敗しても、上の指示に従っただけですからね。自分の命運を、会社の『予定』に預けているわけです。<br />
　私も自営のタクシー運転手ですから、お客さんの気概はわかります。見知らぬ存在が決めた『予定』より、自分で道を切り開く方が納得できるってもんですよ！」</p>

<p>　私はうんざりして、話を遮った。</p>

<p>「わかったよ。運転手さん。<br />
　あんたがカーナビを無視して、それで道を間違ったことを責めちゃいない。私はキリスト教徒じゃないが、このタクシーに乗ったことには、なにか意味があると思うことするよ。<br />
　だから、もう黙ってくれないか」<br />
</p>]]></description>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Fri, 18 Apr 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>第38話：恋する心臓</title>
			<description><![CDATA[<p>「恋をしてるのは、あたしの心臓かもしれません」</p>

<p>　なぜここで恋の相談を？　と思ったけど、サトコの表情がこわばっていたので、話を聞くことにした。胸をぎゅっと押さえて、サトコは話しはじめた。</p>

<p>　復学したサトコは、高校の美術教師を意識するようになった。彼に近づくと、心臓がドキドキしてしまうのだ。最初は驚き、戸惑いもしたが、友だちに「それは恋だよ」と指摘され、赤面するようになった。ところが、ふとした偶然から事実を知ってしまう。</p>

<p>　サトコの心臓は、交通事故で死んだ女性から移植されていた。<br />
　その心臓の提供者（ドナー）は、美術教師の奥さんだった。そのことを知ってサトコは青ざめた。心臓の鼓動が早まる。まるで自分の意志があるかのように、勝手にドキドキしてしまう。サトコは怖くなった。</p>

<p>　サトコの話を聞いて、私はしばし考えた。<br />
　心臓が感情に大きな影響を与えることは、医学的な事実だ。しかしドナーの感情が臓器に残留するなんて考えられない。とはいえ、人間の想像力には歯止めがきかない。サトコがそう思っているなら、それはサトコにとっての真実になってしまう。私はサトコに言った。</p>

<p>「そうね、その人には近づかない方がいいでしょう。<br />
　移植された心臓はサトコちゃんのもの。死んだ奥さんなんて関係ない。そこを意識してしまうようなら、その恋は成就しないでしょう」<br />
　期待に反する助言だったのか、サトコはショックを受けたようだった。やがて小さく頷くと、ぺこりと頭を下げ、帰っていった。</p>

<p align="center" class="stanza">◎</p>

<p>　独りになった私はパソコンを起動し、リストを開いた。<br />
　マウスを動かして、サトコの名前にチェックを入れる。</p>

<p>「これで11人。<br />
　奥さんから臓器提供された人は、みんな彼のところに・・・。<br />
　こんなことがあるなんて・・・」</p>

<p>　長いこと臓器移植のコンサルタントをしてるけど、こんなケースは初めて。ドナー情報は秘匿されているのに、レシピエントたちは彼の周囲に集まってくる。そして、さまざまなカタチで彼に関わっていく。まさしく運命の糸にたぐり寄せられるようだ。<br />
　無用なトラブルを避けるためにも、私はレシピエントたちが彼に近づかないように、注意しなければならない。</p>

<p>　私はファイルをダブルクリックして、彼の写真を開いた。<br />
（なんとしても、あの人を守らなければ・・・）<br />
　移植された私の目も、彼のことしか見えないみたい。<br />
</p>]]></description>
         <link>http://trynext.com/story/short/bloodwork.html</link>
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         <category>ショートショート</category>
         <pubDate>Thu, 17 Apr 2008 21:50:00 +0900</pubDate>
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