
「今回も解決できましたね、教授!」
ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。
「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」
「でも、教授がいなければ数百人の犠牲者が出ていました。
そんな事件を未然に防げたのは立派です」
お世辞ではなく、心の底からそう思っているようだ。さすがの教授も照れたのか、寝返りを打って背中を見せる。ジェーンはなにも言わず、花瓶の水を取り替えに行った。
病室には私と教授だけが残った。
私はなにも言わず、ただ壁の時計をながめていた。カチコチと針が進んでいく。教授が解決した事件は、これで何件目だろう?
◎
ヨーロッパで高度な知的犯罪が頻発した。しかし捕まえていると犯人はボンクラばかり。どうやら電脳をハックされ、犯罪プログラムを実行していたようだ。私ことレストレード警部は事件を追跡し、ライヘンバッハの滝で大悪党を仕留めた。
すべては解決したかに見えた──。
しかし3年後、ふたたび類似の事件が続発する。犯罪プログラムが残っていたのだ。時限爆弾のように犯罪者が覚醒し、個別に行動しながら見事なチームプレイを成し遂げる。警察はお手上げだった。
そこで私は教授に事件捜査を依頼した。
最初はいやがっていたが、ジェーンを介護士につけると協力的になった。ジェーンが事件の核心を突くこともあり、今ではいい探偵コンビだ。
◎
「私はそろそろ会議がありますので」
「うむ、レストレード君。またな」
ジェーンはぺこりとお辞儀する。
病院の廊下を歩きながら考える。
(あの娘に本当のことは話せない。犯人はもう捕まえている。
ジェーンが介護しているモリアーティ教授こそが、犯人なんだ)
あの日、モリアーティは死ななかった。
3年後、病院のベッドで目覚めた彼は、脳核損傷のため、記憶を失っていた。自分は「引退した数学教授」だと思っているモリアーティに、私は事件の捜査協力を求めた。
つまり教授は、自分が仕掛けた犯罪を推理しているわけだ。
◎
車のエンジンをかけるとき、ふと気づいた。
(すべてが計画されたことだとしたら?)
悪の天才は、正義の天才を求めていた。
しかし名探偵のいない100年後に生まれてしまった教授は、孤独だった。そこで彼は、自分自身が探偵になることにした。
ジェーンは、ワトソン医師の子孫。
あの2人のコンビは、ホームズとワトソンのようだ。
(994文字)
ショートショート (55)
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第54話:ブラック・ウィドー
「ついにブラック・ウィドーを妻に娶ることができた」 きょう、80歳... -

第53話:アーバンライフ
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第52話:呪われた会社
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第51話:モリアーティ
「今回も解決できましたね、教授!」 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌... -

第50話:シャーロック
「ホームズさんが死んだって、本当ですか?」 真っ青な顔で叫ぶレスト... -

第49話:アレルギー×アレルギー
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第48話:あらしのよるに流されて
「男と女の友情は成立するのかしら?」 サヨコの質問に、ぼくは唾を飲... -

第47話:無礼講の罠
「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」 合宿初日の... -

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「私、悪魔なんです」 少女は抑揚のない声でつぶやいた。 つややか... -

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その国の端っこに、大きな“壁”があった。 壁の向こう側を見たもの... -

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第19話:閉じこめられた2人
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第17話:とりこ
「カズオさんって、非常識なんです」 アユミはしずかに話しはじめた。... -

第16話:わかってない
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第15話:危険な行為
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第14話:内助の功
雨上がりの駅前で、私はコウイチさんと再会した。 3年ぶりにみる彼... -

第13話:最高の死
(死んだ。死んでしまった・・・) 心臓が止まった亡骸から、霊魂が浮... -

第12話:滅私奉公
ノックの音がして、次の患者が入ってきた。 気の弱そうな男だ。資料... -

第11話:隠し味
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「ユキエ。おれはもう、おまえ以外の女は愛せない。この気持ちは永遠に変... -

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「お久しぶりね」 最初、それがサトコだとはわからなかった。着ている... -

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今日はトモヨちゃんの誕生日。 なので、誕生パーティを開くことにし... -

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第05話:ぼくの名前を呼んで
どこかで列車が走る音がする──。 そんな馬鹿な・・・ありえない。... -

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「トキコの部屋は、まだ残ってるんだろうか?」 坂道を登りながら、ケ... -

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ショートショート、はじめました
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