第01話:脳内彼女 ss01

2005年 ショートショート
第01話:脳内彼女

 リプライが遅れてごめん。
 もらったメールの内容が重かったので、返答に迷っていた。ちょっと整理させてほしい。

 えぇと、彼女とはmixiで知り合ったんだよね。
 マイミクになって、コメント交換しているうちに、好きになっちゃった。問題は……彼女と会ったことがないってことだ。顔や名前、年齢、住所、職業もわからない。ぶっちゃけ言えば、性別さえ明らかじゃない。

 当然、彼女のことをもっと知りたくなる。
 だけど、互いに顔を隠した状況で知り合ったから、あんまり深くは聞けない。それに、テキストで情報をもらっても、真実の重みはない。きみは、彼女という存在を信じられなくなってしまったわけだ。
 ずいぶん面倒な話だけど、きみはさらに厄介な妄想に囚われた。

> 彼女は、実際には存在しないプログラムキャラクターかもしれない

 ……たしかに、そういうウワサはあるね。
 mixiの数百万アカウントのうち、何割かはプログラムキャラクターであり、mixiを盛り上げる役割を果たしている。プログラムは設定に応じて、日記を書いたり、メッセージも送ってくれる。ちょっとした人工知能というわけだ。

> そんなことが技術的に可能なのか?

 という質問に対する答えは、イエス。最近のプログラムはSFレベルだよ。完全自動化は無理だけど、半自動化ならいける。

> 彼女と会って確かめるべきか?

 この質問には答えにくい。だって、彼女はきみの気持ちに気づいているよ。直接会えば、きみは納得するかもしれないが、彼女の方はなんて思うだろうか。

 ……まぁさ、考えてみてほしい。
 コミュニケーションに仮想も現実もないよ。目の前に相手がいたって、気持ちが通じあうわけじゃない。気持ちが通じたと信じる自分がいるだけさ。「会いたい」という気持ちはわかるけど、「確かめたい」と思うのはどうなんだろう。

 ともあれ、がんばってくれ。
 私には、それしか言えないよ。

[ EOF ]

A「ずいぶん、らしいメッセージを書けるようになったなぁ……」
B「でしょ? こんな難しい相談にも対応できるようになったんですよ」
A「サーバを増設して、もうちょっとキャラを増やしてみるか」
B「えぇ、本当ですか?」
A「……なにか問題でも?」
B「いえ、ただ、もうアカウントの2/3が模擬人格ですから……」
A「仕方ないさ。コイツも言ってるだろ。コミュニケーションに仮想も現実もないのさ」


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