第04話:プリインストール ss04 男はいつも、自分が「仕掛ける側」だと思いこむらしい。 気をつけなくっちゃ。
2005年 ショートショート(こんなはずじゃなかったのに……)
ぼくにまたがって、気持ちよさそうに腰をくねらすマリコ。
喘ぎ声がホテルの中に響く。白いのどをそらせて、全身で悦びを享受していた。
ぼくたちは高校1年。マリコに告白したのは2週間前。その日のうちに、ぼくはマリコに食べられた。信じられない。マリコは初めてじゃなかった。あんなにも清楚で、奥ゆかしい《少女》だったのに、実際はとんでもなく淫らな《オンナ》だったのだ。
たくさんの男たちに開発された肢体が、ぼくの上で跳ね上がる。
汗が飛び、髪が乱れる。目が合うと、あっという間に唇を重ねて、舌を絡めてくる。
(セックスがこんなにも激しいものだったなんて......)
マリコは、ぼくの想像を絶するサービスをしてくれた。
そして、ぼくにもサービスを要求した。
これほど甘美な命令があるだろうか? ぼくは無我夢中に尽くした。
あれから2日と空けずにセックスしている。今日はホテルだけど、とんでもない場所でやったこともある。マリコが導く世界は、底が見えなかった。
(ぼくは、ふつうの恋愛がしたかったのに……)
デートして、手をつないで、キスをして。セックスに興味はあったけど、それはずっと先でよかった。
煙が出そうなほど激しく身体をこすらせながら、ぼくは思った。
(これじゃ、まるでプリインストールパソコンだ……)
ひとつずつ自分で設定していくのではない。あらかじめ必要なものが揃っていてる。すっごく便利なんだけど、物足りない。自分の手で作り上げた実感がない。
(だけど……やっぱりマリコが好きだ!)
納得できないまま頑張ってきたけど、好きなものは好きだ。マリコがそういうタイプなら、ぼくもそうなろう。迷うことなんてないんだ。
◎
ホテルを出るとき、ぼくはマリコを抱き寄せて、キスをした。
「ぼくはもう迷わない。マリコをもっと愉しませてあげるよ!」
マリコは一瞬、きょとんとしたけど、つまらなそうに肩をすくめて言った。
「別れましょう、私たち……」
「えぇっ?」ぼくは驚いた。わけがわからない。
マリコは、親切にも説明してくれた。
「やっぱりさ、初々しさがいいのよね。
最初のころの新鮮さ、恥じらい、たどたどしい動きが好きなの。
あなたはもう、なにかを割り切っちゃったみたい。
私、あなたに幻滅したくないから、ここでお別れしたいの」
そういって、マリコは去っていった。
ぼくは独り、つぶやいた。
「だれか......ぼくを初期化してくれ!」
(998文字)