創作  2005年07月07日(木)に書いた ショートショート

第06話:成功の秘密

第06話:成功の秘密

「昇進、おめでとう!」
「ありがとう、マサアキ♪」

 かちんと、ワイングラスが涼やかな音を立てる。ここは高級ホテルのレストラン。今夜は、リエコの昇進祝いだった。
 穏やかな時間が流れていく。
 いつしか話は、リエコの《成功の秘密》に及んでいた。リエコの出世は早い。べらぼうに早い。それでいて、上にも下にも愛されている。まるで、みんなが協力してリエコを押し上げているようだ。

「私はね、言霊使いなのよ」
 グラスのふちをなぞりながら、リエコは言った。
「ことだま……?」
 マサアキにはよく意味が理解できない。

 リエコは言霊使いだった。言葉に、不思議な力をのせることができる。リエコの命令には誰もさからえない。言葉で相手を支配できるのだ。

「そんな馬鹿な……」
 マサアキは笑って、ワインを飲み干した。するとリエコはウェイターを呼んで、こう言った。
「かき氷が食べたいの」
 メニューにない注文だ。ウェイターが丁重に断ろうとすると、リエコが言葉をかぶせた。
「お・ね・が・い♪」
 ウェイターは口を開けたまま、しばし硬直していたが、やがて首肯した。
「かしこまりました」
 ウェイターが去っていくと、リエコはまっすぐマサアキを見つめた。
「信じる、信じないは、あなたの自由よ」
 どきりとする笑顔だった。

「それにね、ここが重要なんだけど……」
 リエコは、かなり酔っているようだ。
「私だって、がんばっているのよー。言霊の力で、自分自身は変えられない。だからこの能力は、キッカケをつかむためだけに使うの。そこから先は、私の実力なんだからぁ……」
 ワイングラスがゆらゆらと動いている。赤い液体が波打つ。

 「そ、それじゃさ」とマサアキは口を開いた。
「おれと結婚してくれたのは……」
 とろんとしていたリエコの目が開き、にこーっと笑った。
「えへへー♪
 あ、でも、キッカケだけだよ。私を好きになって、とは言ったけど……」
 マサアキは愕然とした。自分の意志で結婚したつもりだったのに。さすがのリエコも、あわてて訂正した。
「ま、待って、今の話、ぜんぶ忘れて! おねがい♪」
 マサアキは、あっさりと頷いた。
「わかった。忘れる」
 マサアキの反応に、今度はリエコが愕然とした。
「また、やっちゃった。私ってば、かわいそう。この能力と一生つきあっていくしかないのね……」

 そこにウェイターがやってきた。
「かき氷でございます」
「わーい♪ マサアキ、いっしょに食べようよ、ねぇ♪」


(993文字)

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