創作  2005年07月08日(金)に書いた ショートショート

第07話:萌えキャラ

第07話:萌えキャラ

 今日はトモヨちゃんの誕生日。

 なので、誕生パーティを開くことにした。職場の同僚だけでこぢんまりと開くつもりだったけど、次から次へと参加者が集まっちゃったので、フロア全部を貸し切ることになった。
 これも、トモヨちゃんの魅力の為せる技か。

 トモヨちゃんはかわいい。チョーかわいい。
 彼女を創りだした神様は、造形センスに優れている。とにかくバランスがいいのだ。男も女も、老いも若いも、だれもがかわいいと感じるパーツで構成されている。「お人形さんみたい」というより、「フィギュアみたい」と言った方が近い。トモヨちゃんは、実物大・リアルな萌えキャラだった。

「きょ、今日は、わた、わたしのためにお集まりいただいて……」
 スポットライトが浴びせられ、スピーチがはじまった。
 トモヨちゃんのスピーチは素晴らしい。上手という意味じゃなくて、かわいいのだ。緊張しながらも、一所懸命に話しているのがわかる。ビンビンに伝わってくる。だから応援したくなる。
 その声を聞き漏らすまいと、会場は水を打ったように静まりかえっていた。

「……やっぱり駄目、もう限界……」
 うつむきながら、トモヨちゃんが言った。聞き間違いかと思ったが、ちがった。トモヨちゃんは泣いていた。声をかけようと思った瞬間、トモヨちゃんは立ち上がって、叫んだ。

「みんなの気持ちはほんと、嬉しいよ。 でも、もう耐えられない!
 萌えキャラって、言われる方の身にもなってよ。
 あたしも女の子だから、かわいいって言われたい。でも、みんなの目はヘンだよ。
 なんで、職場で握手を求められるの?
 なんで、写真を撮ったあとにおじぎするの?
 みんなが喜んでくれると、私も嬉しい。
 もっと喜んでほしくなるよ。でも……もう、駄目なの。
 わけがわからないの!」

 トモヨちゃんの肩が小刻みに震えている。
 緊張と興奮、後悔、切迫した想い……。さまざまな感情が、小さな身体の中で渦巻いているのがわかる。細い指がテーブルクロスをつかみ、大粒の涙が手の甲に落ちた。

 時計の秒針が一周したところで、会場は拍手に沸いた。
「トモヨちゃん、かわいいッ!」
「ごめんね。ごめんね!」
「泣かないでくれー!」
 みんな、トモヨちゃんを元気づけるために、喝采を送った。その渦中で、トモヨちょんが崩れ落ちていく。愕然とした表情に、スポットライトが当たる。

「トモヨちゃん! 萌え~~~~~ッ!」
「その表情がたまらないぃ~~~~~♪」


(989文字)

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