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[創作] 2005年07月12日(火)に書いたショートショート

第11話:隠し味

第11話:隠し味

「本当のことを言って、シンイチさん。おねがいだから……」

 うるんだ瞳で、カズネは詰め寄ってきた。腕をつかむ指に、ぎゅーっと力がこもる。カズネは疑っている。ぼくがハツネと……彼女の姉と浮気していると疑っている。

 それは事実だった。

 ぼくはハツネと関係をもった。それも1度や2度じゃない。最近じゃ、カズネよりも回数が多い。この部屋で愛し合ったこともある。カズネがよそ見しているすきにキスしたこともある。ぼくは浮気してしまった。

 だけど、ハツネも悪い。最初はぼくも抵抗した。「妹の彼氏に手を出すのか!」と怒鳴ったこともある。それをなかばムリヤリに……と言い訳したくなるほど、ハツネの誘惑は強烈だった。

「妹のものはあたしのもの、あたしのものはあたしのものよ」
 ハツネはいい女だった。顔や体はそっくりなのに、性格は正反対。カズネが淑女なら、ハツネは悪女だ。そしていつの世も、悪女の方が魅力的なのだ。

 ……沈黙がツライ。
 このまま、罪の呵責でおかしくなってしまう。ぼくの精神の方が限界だ。だけど、秘密を明かせば、大好きな2人を失ってしまう。カズネはぼくの浮気を許さないだろう。ハツネは、妹の彼氏でなくなったぼくに興味を示さないだろう。

(でも、もういい! もうたくさんだ! 正直に話そう! それで駄目なら、それまでだッ!)

 去っていくシンイチを、カズネはアパートの窓から見送った。背後でドアが開いて、姉のハツネが入ってきた。
「で、どうだった?」
「うん。大丈夫だった。浮気してないって、言ってくれたよ」
「そりゃ、すごい! 新記録だね」
 窓から外をのぞき込む。シンイチの姿はもう見えない。

「そろそろ、あたしたちのことを話してもいいんじゃない?」
 と姉のハツネ。
「駄目よ。カズネは誠実な人とお付き合いしたいの」
 と妹のカズネ。
「誠実ねぇ。姉貴と浮気する男が?」
「誰にだって秘密はあるわ。でも愛しているなら、それを隠し通さなくっちゃ。真実だからってしゃべるのは、単なる逃避よ。だから、カズネも秘密は守る」
「いいけどね。あたしは緊張感のある関係が好きだから」

「シンイチさん、とっても苦しそうだった。
 カズネのために耐えてくれるのね。うれしい……」
 目を閉じて、うっとりするカズネ。
「どうかしら? あたしとのスリリングな関係が好きなのかもよ」
 ハツネがいじわるくいうと、カズネは「ちがうもん」とすねた。

 2人は、そっくりな姉妹だった。


(995文字)

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