創作  2005年07月14日(木)に書いた ショートショート

第13話:最高の死

第13話:最高の死

(死んだ。死んでしまった……)

 心臓が止まった亡骸から、霊魂が浮かび上がっていく。家族や友人たちが泣いている。私は愛されていた。
(苦痛もなかったし、死後の手配は済んでいる。まぁ、上出来な死に方だったかもしれない。)
 目をつむると、周囲の存在感がどんどん希薄になっていく。
 ……世界が闇に溶けていく。

「いかがでしたか?」
 振り向くと黒い少女が立っていた。黒いセーラー服に、真っ赤なスカーフが印象的だ。あぁ、そうだ。彼女は死神だった。

「……」
 私はむすっとして、答えなかった。これまでの経緯を思い出して、私は頭を抱えた。

 私の先祖は、死神社会に大きな貢献を果たしたらしい。そのお返しとして、私には「最高の死」が与えられることになった。彼女は死神。私が最高の死を遂げられるよう協力するために、派遣されてきた。

 協力といっても、現世でのサポートはまったくない。私が死ぬとこうして現れて、満足したかと質問する。満足していないと答えると、彼女は人生をやりなおさせてくれる。といっても、時間を戻したり、死体を復活させるわけじゃない。赤ん坊からやり直しになるだけ。
 どんな風に生きるか(死ぬか)は、結局、私次第というわけだ。

 これで何回目になるだろう──?
 最高の死を求めて、私は何度もアタックした。しかし繰り返せば繰り返すほど、人生がツマラナイものに思えてくる。

 死んでもOKとわかっているので、緊迫感や絶望感がない。面倒な事態になると、さっさと死んでリセットしたいとすら思ってしまう。その一方で、意図せずに成功しても充実感がない。ゲーム世界の所持金と同じだ。どんなに積み重ねても価値が感じられない。
(どうせ……死んだら消えてしまうのだ。)
 ならば、なんのために生きているのだろう? 最高の死とはなんだろう?

「よしっ!」
 私は意を決して、立ち上がった。驚いた少女が、私の顔をのぞき込む。
「いかがなさいますか?」
「もう1度、やり直す」
「えぇ! まだやるんですか? もう34回目ですよ。
 病死、事故死、自殺、他殺、老衰……。
 ひと通り経験したじゃないですか」
「回数制限はないんだろ?」
「それはそうですけど……。たいていは、このへんで納得しますよ。ふつうに生きて死ぬのが最高なんだって……」
「駄目だ。こうなってしまった以上、ふつうの死に方じゃ満足できない。
 最高の死とはなにか?
 その答えがわかるまで、何度でもやり直すぞ!」


(997文字)

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