[Edit]
[創作] 2006年05月20日(土)に書いたショートショート

第17話:とりこ

第17話:とりこ

「カズオさんって、非常識なんです」

 アユミはしずかに話しはじめた。
 アユミはふつうのOLだった。そんな彼女がある日、道ばたでナンパされた。真っ赤な高級車から声をかけてきたのは、大富豪の御曹司・カズオだった。どこを気に入ったのか、カズオはアユミを追い回すようになった。

 カズオの言動は、アユミの想像を超えるものばかりだった。
 途方もない金額のプレゼントを贈ってきたり、豪勢なレストランで食事に文句をつけたり。なに不自由なく暮らしてきたためか、他人の痛みや苦労をまったく理解しない。
 その傍若無人さに、アユミは惹かれはじめた。

「きっと、ふつうに年老いていくことが、堪えられなかったんです……」
 アユミは胸中を明かす。ずっと、ふつうに生きてきた。でも心の奥底では、刺激のある暮らしを求めていた。女の盛りを過ぎる前に、冒険してみたかった。

 カズオは、そんなアユミの殻を打ち砕いた。昼間はふつうのOLだが、夜になるとアユミは変身する。メガネを外し、髪を下ろすと、顔つきまで変わる。2人は夜の街に繰り出して、いろんな遊びにふけった。
もう歯止めが利かなくなっていた。

「それで……こんなことをしたのか?」と私は追求した。
 2人は駅ビルに爆弾を仕掛け、政府を脅迫したのである。
 本気じゃなかったらしいが、爆弾は本物だった。駅ビルは倒壊する大惨事となった。2人は逮捕され、こうして取り調べを受けることとなったわけだ。

「だって、駅ビルの爆破なんて、私には想像もつかない!
 そんな破天荒なことをやってしまうカズオさんが好きだった!
 カズオさんがどこまで行くのか、見ていたかった……」

 アユミは泣き崩れた。ふつうのOLには戻れないことを悔やんでいるのだろうか?

「どうします、警部?」取調室を出るなり、私は問うた。
「弱ったなぁ……」警部はぼりぼりと頭をかいた。

 カズオは大富豪の御曹司ではなかった。アユミは覚えていないが、高校時代のクラスメートだったのだ。ギャンブルで大金を得たカズオは、昔好きだったアユミに接近。彼女が潜在的に期待する人物を演じていたのである。
 かなり無理していたらしい。夜の暮らしを支えるための努力は、涙ぐましいものだった。

 そのカズオが昨夜、自殺した。
「すべては自分の責任です」というメモが残されていた。
 取調室の中にいるアユミを見ながら、私はつぶやいた。

「これも……彼女が期待する行動だったんでしょうかね?」


(993文字)

Share

Next