創作  2007年02月21日(水)に書いた ショートショート

第20話:無駄のない仕事

第20話:無駄のない仕事

「この世に無駄なものなんてないんだよ」

 と課長は言った。だけどぼくはどうしても納得できなかった。
 課長とぼくは画期的な新製品を開発した。長年の地道な研究が、ようやく実を結んだんだ。ところが、ボンクラ部長のせいで販売できずにいた。

 ボンクラ部長は本物のボンクラだった。
 資料は読まないし、話は聞かないし、約束は守らない。とにかく駄目で駄目で駄目なのだ。これじゃ課長とぼくの努力は日の目を見ない!

 しかし課長は、そんなボンクラ部長を擁護していた。
「組織にはあーゆー人も必要なんだよ。まったく価値がないものを、神様が作るはずがないんだ」
 冗談じゃない! ぼくはそこまで信心深くなれなかった。

 するうち競合他社から類似する製品が発売された。ぼくらの製品より機能は劣るが、それでも大量発注された。ぼくは地団駄を踏んだ。ちくしょう! ちくしょう! ところが、その製品に欠陥が見つかって大問題になった。

 その欠陥は……なんてこった……ぼくらの製品にもあった。
 いや、より致命的な欠陥だ。
 ぼくらの製品が先に発売されていたら、被害の大きさは想像もつかない。

「有能な人間だけで組織を作ると、組織はもろくなってしまうんだ。より安定した形態を得るためには、無駄なものを混ぜるといい。無能な人間がいると、有能な人間は休息したり、フローを見直すことができる。
 一見無駄なものが、よりよいものを生み出す土壌になるんだ」

 そう諭す課長からは後光が差していた。
 たしかに、そういう考え方もある。ぼくは製品の改良に着手した。

 製品は改良されて、完璧になった。しかしそれでもボンクラ部長は動かなかった。

 もう製品開発してきた時間より、ボンクラ部長と交渉している時間の方が長い。いまやぼくは、ボンクラ部長を擁護する課長の方が無能に思えてきた。

(ぼくが課長だったら、ぼくが部長だったら、世界を変えられるのに!)

 世界を変える力があっても、目の前の無駄は除去できなかった。

 翌年、戦争は終わった。
 ぼくが開発した新型兵器は、ついに戦場に投入されることはなかった。


(844文字)

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