創作  2007年02月22日(木)に書いた ショートショート

第21話:ファインダー越しの愛

第21話:ファインダー越しの愛

「ねぇ、聞かせてちょうだい。どうして離婚しちゃったの?」

 意を決し、私はユカに訊ねた。ぶすっとしたまま、ユカは紅茶を飲んだ。私は黙って、ユカの言葉を待った。

 ユカは学生時代からの友人。
 とびっきりの美人で、10代のころから写真のモデルをやっている。20歳前に大ブレークした彼女は、国民的アイドルになった。

 そして22歳で結婚。
 お相手は、ずっと彼女を撮影してきた写真家のカズヒロ氏だった。カズヒロ氏は中年だったが、ふたりは仲睦まじい夫婦として知られていた。

 年をとっても、ユカの写真集は売れつづけた。
 写真集をめくると、その年齢ごとの魅力にあふれたユカが写っている。夏には夏の、秋には秋のよさがあるように、ユカの魅力は尽きることがなかった。こんな表情をするのか、こんな輝きがあるのかと、むしろ深みを増していった。

 写真はすべてカズヒロ氏が撮影していた。
 自分の魅力を知り尽くし、引き出してくれる伴侶と、どうして別れてしまったのか?

「あいつが撮ってるのは私じゃない」

 ちぎって捨てるようにユカはつぶやいた。意味をつかみかねていると、ユカは一気にまくし立てた。

「いい? 私は素材なのよ!
 写真を撮るための材料! ネタ! お人形よ!
 写真に写っているのはあいつのイメージであって、
 本当の私じゃないッ!」

 驚いた。
 まさかユカが怒鳴るとは思わなかった。写真集からは想像もできない一面だ。いえ、そういえばユカはこういう女の子だった。すっかり忘れてた。

「あいつの言うとおりにモデルをやってきた。
 メイクして、着替えて、ポーズをとる。
 するとどうなってんの? 私の知らない私が写ってる。
 あいつが愛してるのは私の写真なのよ!
 あいつは、私の写真でオナニーしてんのよ!」
「そ、それで離婚したの?」
「そうよ!」
「それでカズヒロさん以外の写真家と仕事をしたのね?」
「そうよ!」
「それで……さんざんな目にあった」
「そうよッ!」

 この3年で、ユカの写真集は売れなくなった。写真家が変わると、こうも印象が変わるものなのか。
まるで別人が写っているようだった。

「そして、カズヒロさんと再婚した。
 やっぱり好きなんだと気づいたんでしょ?」

 ユカは、吐息とともに答えた。

「そう、やっぱり好きだったの。あいつが撮る私がいちばん好き。
 本当の私より、ずっとずっと、好きなの……」


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