第21話:ファインダー越しの愛 ss21
2007年 ショートショート「ねぇ、聞かせてちょうだい。どうして離婚しちゃったの?」
意を決し、私はユカに訊ねた。ぶすっとしたまま、ユカは紅茶を飲んだ。私は黙って、ユカの言葉を待った。
ユカは学生時代からの友人。
とびっきりの美人で、10代のころから写真のモデルをやっている。20歳前に大ブレークした彼女は、国民的アイドルになった。
そして22歳で結婚。
お相手は、ずっと彼女を撮影してきた写真家のカズヒロ氏だった。カズヒロ氏は中年だったが、ふたりは仲睦まじい夫婦として知られていた。
年をとっても、ユカの写真集は売れつづけた。
写真集をめくると、その年齢ごとの魅力にあふれたユカが写っている。夏には夏の、秋には秋のよさがあるように、ユカの魅力は尽きることがなかった。こんな表情をするのか、こんな輝きがあるのかと、むしろ深みを増していった。
写真はすべてカズヒロ氏が撮影していた。
自分の魅力を知り尽くし、引き出してくれる伴侶と、どうして別れてしまったのか?
◎
「あいつが撮ってるのは私じゃない」
ちぎって捨てるようにユカはつぶやいた。意味をつかみかねていると、ユカは一気にまくし立てた。
「いい? 私は素材なのよ!
写真を撮るための材料! ネタ! お人形よ!
写真に写っているのはあいつのイメージであって、
本当の私じゃないッ!」
驚いた。
まさかユカが怒鳴るとは思わなかった。写真集からは想像もできない一面だ。いえ、そういえばユカはこういう女の子だった。すっかり忘れてた。
「あいつの言うとおりにモデルをやってきた。
メイクして、着替えて、ポーズをとる。
するとどうなってんの? 私の知らない私が写ってる。
あいつが愛してるのは私の写真なのよ!
あいつは、私の写真でオナニーしてんのよ!」
「そ、それで離婚したの?」
「そうよ!」
「それでカズヒロさん以外の写真家と仕事をしたのね?」
「そうよ!」
「それで……さんざんな目にあった」
「そうよッ!」
この3年で、ユカの写真集は売れなくなった。写真家が変わると、こうも印象が変わるものなのか。
まるで別人が写っているようだった。
「そして、カズヒロさんと再婚した。
やっぱり好きなんだと気づいたんでしょ?」
ユカは、吐息とともに答えた。
「そう、やっぱり好きだったの。あいつが撮る私がいちばん好き。
本当の私より、ずっとずっと、好きなの……」
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