第22話:私のヒーロー ss22 これで22個のエピソードが揃ったわけだが、 まだ納得できないものもある。 ……もう少し書いてみようか。
2007年 ショートショート「あの夜、ぼくはきみに姿を見せてしまった」
私は黙って、彼の話を聞いていた。
「あれはクリスマスパーティーの帰りだった。きみは、酔った男にからまれていた。そこへぼくが割り込んだ。穏便に済ませたかったが、男がきみを侮辱したので、ぼくはカッとなった」
窓の外を見て、彼はコーヒーをすすった。
「頭が真っ白になった。
気がつくと、ぼくは馬乗りになって男を殴っていた。それで男は病院送り、ぼくは暴漢として逮捕された。さんざんな目にあったけど、じつは満足していた……」
カチャン、とコーヒーカップを置く音が部屋に響いた。
「じつは、ずっと以前からぼくはきみを見てきた。
きみがテニス部だったころからね。きみは狙われやすい女の子だったから、ぼくはこっそり、きみを守ってきたんだ」
彼の言葉にウソはないと思う。
私は何度も襲われたことがある。物盗りなのか、変質者なのかはわからない。ピンチのたびに大きな音がしたり、空き缶が飛んできたりして、私は逃げ出すことができた。あれはすべて、彼が助けてくれたことだったのか。
「あの夜、ぼくはきみに姿を見せてしまった。
あんなヒーロー行為をやるつもりなかった。
ぼくはストーカーなんだから……」
私は理解した。これは彼の告白なんだ。
「だけど、やるしかなかった。やってしまった。
きみに感謝され、きみに真っ正面から見つめられて、ぼくは変わった。
ぼくは……きみのヒーローになりたいと思った」
彼は振り向いて、私を見つめた。
「きみを愛してる。きみを守りたい。
きみの笑顔を曇らせるやつは許さない。
きみの幸せだけを願ってる。
だけど……きみを求めない。
ヒーローは決して、見返りを求めない……」
そのときだった。
窓ガラスが割れて、彼の胸に赤い花が開いた。
私を誘拐して、この山荘に監禁していた凶悪犯は、狙撃隊の銃弾によって射殺された。
◎
1ヶ月ぶりに解放された私を待っていたのは、新しい世界だった。
この1ヶ月で、彼は14人も殺していた。
その中には、私の家族も含まれる。しかしこれで祖父の遺産相続にまつわるトラブルはすべて解消した。私をつけねらう人はもういない。私は自由だった。
いえ、そうじゃない。私はひどく不安だった。
彼はヒーローじゃなくて怪人だった。だけど、なんてことなの。
こんな狂ったように愛されたことが、私は嬉しくてたまらない。
(965文字)