第23話:乙な関係 ss23 このシリーズ、携帯で読めるようにしたら、喜ばれるかな?
2007年 ショートショート「あのスケベ親父、なんて言ったと思う?」
ナミコ社長は息巻いた。
「ナミコくんは美人だからオトクだね〜、だって!
ふざけんじゃないわよ! あたしの苦労も知らないで!」
だいぶ酔っているし、だいぶ不機嫌だ。
今夜も取引先と衝突したんだろう。いつものことだ。
セクハラまがいの行為をされて、うまく回避したけどストレスが蓄積、事務所に帰ってきた今、それを爆発させている。で、ほかの社員を守るため、代表でぼくがサンドバックになる。
まぁ、いつものことだ。
ナミコさんは机の上にどっかと足を乗せて、缶ビールをぐびぐび飲んだ。ストッキングに包まれた細い足がぼくの方を向いている。
(まぁ、ここはナミコさんの会社だから、社長室で社長がなにをしても自由だけどさ。こんな行儀の悪さが許されるなんて、美人はオトクだよな〜)
ぼくは適当に相づちを打ちながら、脱ぎ捨てられたコートを掛け、散らかった部屋を片付けていった。
不意に空き缶が飛んできた。
「わっ!」
投げたのはもちろん、ぼくのご主人様だ。
「ちょっと! あたしの話を聞いてんの?」
ぜんぜん聞いてなかった。
「あ、いえ、代理店の連中はムカつきますよねー」
「そうじゃないでしょ!
あいつらに報復する方法を考えてほしいのよ!」
ナミコさんは、取引先のセクハラ野郎どもに正義の鉄槌を下したい。それも自分の手で、彼らが愚かさを悔いるような、厳しい報復をしたいと言う。
「ば、ばかなことを言わないでくださいよ。
彼らはお客さまですよ。あの人たちがナミコさんを気に入って……じゃなくて、ナミコさんを信頼してくれるからこそ、お仕事をもらえるんじゃないですか。
それを目に見えるカタチで報復だなんて、絶対駄目です!」
ふんっ、とナミコさんは鼻を鳴らした。(下品だなぁ、もう)
「あたしに泣き寝入りしろっていうの? はっ! 信じらんない!
やられたらやりかえすのが男でしょッ!」
「ぼ、ぼくがセクハラされたわけじゃ……」
「じゃ、どうしたらいいの?」
「そうですね、誰がやったかわからないよう、こっそり復讐すればいいんじゃないですか?」
「なにをいってわぶっ!」
そのとき、ナミコさんの缶ビールの炭酸が噴出した。
けっこうな勢いだったので、顔も髪もびしょびしょ濡れてしまった。
「あーん、もう! ひどーい!」
椅子から転げ落ちたナミコさんは、子どもっぽく泣きはじめた。
ぼくは急いでバスタオルを手渡した。
「大丈夫ですか? いつもながら、ついてませんね」
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