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[創作] 2007年02月28日(水)に書いたショートショート

第26話:浮気の代償

第26話:浮気の代償

 夫が浮気している。それは、信じられないことだった。

 夫のシンスケは大学の助教授で、私は元・教え子。プロポーズされたときは、正直迷った。年齢差もあったし、シンスケはその……とても地味な男だったから、ミス・キャンパスでもある私とは不釣り合いだと思ったの。でも彼の熱意に押し切られる形で、私たちはゴールインした。

 シンスケは、私をお姫様のように扱ってくれた。
 その一途さに飽き飽きしたこともあるけど、私たちはまぁ、幸せな夫婦生活を送ってきた。そこへまさか、若い女の陰が忍び寄るとは思わなかった。

 油断していた。
 シンスケは相変わらず地味だけど、齢をとってちょっと渋くなった(かも)。一方、私はたるんでた。ずっと家にいるから運動せず、化粧せず、ジャージ姿でテレビばかり見ていた。
 裸になって鏡の前に立つと……ちょっと(かなり)ヤバイ。

 私は"オンナ"を磨くことにした。
 シンスケの浮気を暴いたところで、どうにもならない。私が、浮気相手より魅力的になればいいのだ。油断はしたけど、私はまだ萎れちゃいない。その気になれば、青いだけの小娘に負けるはずがない。
私は生活を改めた。ジョギングして、ダイエットして、料理教室に通って、そして夜もサービスを……。

「うーん、寝かせてくれよ」

 わ、私から誘っているのに、背中を向けて寝ちゃうの!?
 私は生まれて初めて、涙で枕を濡らした。

「紹介するよ。ヤスヒコ教授の息子さんで、カオルくん」

「へ?」
 浮気相手の女子大生が家にやってきた。
 しかし彼女は、シンスケの論文を手伝っていただけだった。というか、彼女は女じゃなかった。

「はじめまして。旦那さんをずっとお借りしてました♪」
 ハスキーな声。そして香水のにおい。
 つまり、シンスケがニューハーフを好きになっていた? じゃなくて、要するに、これは、つまり、私の勘違いなの?

 へなへなと、私は玄関先で崩れ落ちた。
 勘のいいカオルくんは、私の嫉妬や努力を見抜いた。
「あ、ひょっとして奥さんは……」
 カオルくんの指摘に、シンスケは「あはは」と屈託なく笑う。
「馬鹿だなぁ。ぼくが、きみ以外の女性に興味を示すと思ったのかい?」

 な、なんて地味な男。この人には浮気するような度量はなかった。

 そのとき、私は思った。
 私はきっと……浮気する。も、もう自分を止められない。


(977文字)

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