第26話:浮気の代償 ss26 明日から火曜まで出張するので、 ショートショートはこれで終了。 お疲れさまでした~。
2007年 ショートショート夫が浮気している。それは、信じられないことだった。
夫のシンスケは大学の助教授で、私は元・教え子。プロポーズされたときは、正直迷った。年齢差もあったし、シンスケはその……とても地味な男だったから、ミス・キャンパスでもある私とは不釣り合いだと思ったの。でも彼の熱意に押し切られる形で、私たちはゴールインした。
シンスケは、私をお姫様のように扱ってくれた。
その一途さに飽き飽きしたこともあるけど、私たちはまぁ、幸せな夫婦生活を送ってきた。そこへまさか、若い女の陰が忍び寄るとは思わなかった。
油断していた。
シンスケは相変わらず地味だけど、齢をとってちょっと渋くなった(かも)。一方、私はたるんでた。ずっと家にいるから運動せず、化粧せず、ジャージ姿でテレビばかり見ていた。
裸になって鏡の前に立つと……ちょっと(かなり)ヤバイ。
私は"オンナ"を磨くことにした。
シンスケの浮気を暴いたところで、どうにもならない。私が、浮気相手より魅力的になればいいのだ。油断はしたけど、私はまだ萎れちゃいない。その気になれば、青いだけの小娘に負けるはずがない。
私は生活を改めた。ジョギングして、ダイエットして、料理教室に通って、そして夜もサービスを……。
「うーん、寝かせてくれよ」
わ、私から誘っているのに、背中を向けて寝ちゃうの!?
私は生まれて初めて、涙で枕を濡らした。
◎
「紹介するよ。ヤスヒコ教授の息子さんで、カオルくん」
「へ?」
浮気相手の女子大生が家にやってきた。
しかし彼女は、シンスケの論文を手伝っていただけだった。というか、彼女は女じゃなかった。
「はじめまして。旦那さんをずっとお借りしてました♪」
ハスキーな声。そして香水のにおい。
つまり、シンスケがニューハーフを好きになっていた? じゃなくて、要するに、これは、つまり、私の勘違いなの?
へなへなと、私は玄関先で崩れ落ちた。
勘のいいカオルくんは、私の嫉妬や努力を見抜いた。
「あ、ひょっとして奥さんは……」
カオルくんの指摘に、シンスケは「あはは」と屈託なく笑う。
「馬鹿だなぁ。ぼくが、きみ以外の女性に興味を示すと思ったのかい?」
な、なんて地味な男。この人には浮気するような度量はなかった。
そのとき、私は思った。
私はきっと……浮気する。も、もう自分を止められない。
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