第34話:同伴者 4ヶ月ぶりの1,000文字ショートショートだね。 ドライブしてるときに思いついたネタ。 あと数年もすれば、カーナビが話し相手になってくれるかなぁ。
2008年 ショートショート「あ、今のところ、右です」
ノリコに指摘されて、ハッとなる。
しかしもう遅い。車はそこそこのスピードで走っている。過ぎてしまった交差点を振り返る余裕はない。
「いいや。このまま行くよ」
バイパスに入れなかったので、30分くらい遠回りになるけど、仕方がない。
「クニオさん、疲れてるんじゃないですか? どこかで休憩した方がいいですよ」
たしかに疲れているかもしれない──。
昼過ぎに出発したのに、もう21時を過ぎている。SAで飯を食ってから3時間、ぶっ通しで走っているな。
「大丈夫、もうすぐ家だし」
「わかりました。でも、気をつけてくださいね。なにか音楽でもかけましょうか?」
「そうだね。なんか適当に頼むよ」
ノリコは、懐かしいヒーロー番組の歌をかけてくれた。
「いいね。今の気分に合ってる。ありがとう♪」
私は鼻歌交じりに感謝した。嫁なら、こんな選曲はありえない。私の体調や気分を、ノリコはよく察してくれる。
急な出張だったけど、ノリコがいてくれて助かった。
仕事が気になる「行き」はいいけど、「帰り」は単なる長距離運転だ。独りだったら、どれほど退屈しただろう。考えてみれば、これほど長くノリコと話したことはなかったな。
「どうしました?」
「ん、いや、なんでもない」
くすくす笑っていたようだ。なんだかおかしくなったので、話すことにした。
「妙なもんだよな。最近は、嫁ともこんな話してない。今夜のドライブで、ノリコと親しくなれた気がするよ」
ノリコは黙っていた。
まぁ、答えようもないけど、沈黙もまた1つの反応だ。私はどうやら、ノリコを愛らしく思っているようだ。
「ただいまぁ」
玄関で靴を脱いでいると、奥から嫁が出てきた。
「あら、お帰りなさい。泊まりじゃなかったの?」
「今夜帰るって、連絡しただろ。とにかく疲れたよ」
ネクタイをゆるめて、鞄を手渡す。
「でも……ノリコさんと一緒だったんでしょ?」
「え? ま、まぁね」
「なんだか妬けちゃうなぁ」
「なに言ってんだ。"Noriko"はカーナビだぜ」
肩をすくめる私に、嫁は唇をとがらせた。
「それはそうだけど、遠くの親戚より、近くの他人って言うじゃない。
あたしだって……」
「おーい、鍋がふいてるぞぉ」
キッチンから男の声が聞こえてきて、私はぎょっとした。
「なんだ? 誰かいるのか?」
嫁は肩をすくめて、答えた。
「あぁ、ハウスナビよ。
留守のあいだ、ずっと相手してくれてたの」