第35話:動機
2008年 ショートショート「やっぱりキョウコが犯人ですよ!」
調査結果を見て、おれは断言した。
しかし警部は首をかしげている。納得できてないようだ。
「うーん、動機がなぁ……」
「明らかじゃないですか、すべて嫉妬ですよ」
「嫉妬? なんで実の妹に嫉妬するんだ?」
「自分より先に売れたからでしょう」
キョウコとミカは美人姉妹──。
ふたりとも幼い頃から芸能界デビューしていたが、先にブレイクしたのは妹・ミカだった。ミカは映画の主演女優を射止め、賞を取り、CMに出て、テレビのレギュラーをたくさん務めるようになった。
そのミカが突然、失踪する。
穴埋めとして、姉のキョウコに声がかかった。数年後、ミカの変死体が見つかるが、そのときはもうキョウコの地位は不動のものになっていた。妹の死をうちひしがれるキョウコに、日本中のファンがエールを送った。
だが、おれたちは今、妹の死が他殺だったことを知っている。
「それじゃ、母親はどうなんだ?」
「あれも嫉妬でしょう」
キョウコとミカの母親・ハルエ──。
往年の大女優であり、娘たちを芸能界に導いた先輩でもある。ミカはともかく、キョウコの人気はハルエを大きく上回った。つまりそこで、キョウコは気づいたわけだ。かつて自分がミカを殺したように、自分はハルエに殺されるかもしれないと。
そしてハルエも事故死する。
おれたちはまぁ、母の死が他殺であることを知っているわけだが。
「うーん、動機がなぁ……」
「だから嫉妬ですって」
警部はまだ納得できていないようだ。
その後、キョウコはますます売れた──。
まるで妹と母のいのちを吸収したかのように。そして青年実業家と結婚。日本中の女性が嫉妬するシアワセを手に入れた。
「そんなキョウコが、なぜ自殺したんだ?」
「自殺ではなく、殺人だったと思いますよ。でも失敗したのでしょう」
「殺人? どういうことだ?」
警部の質問に、おれは調書を見せて答えた。
「彼女、妊娠していたみたいですよ」