第40話:愛し方、愛され方 ショートショートも40本目。けっこう書いたな。 1,000文字に収めるスタイルが確立できたので、だいぶ楽に書けるようになった。 しかし1,000文字に収めるため、切り捨てるプロットが惜しくなってきた。 2,000文字くらいにスケールアップしたいが、それじゃmixiに掲載するのは厳しいだろう。 うーん。
2008年 ショートショート「やっぱり別れよう」
ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年。これからと言うときに信じられない。
「やっぱり、ユリ姉さんのことが忘れられないのね」
目を伏せ、ふるふると首を振るケイスケさん。
「そうじゃない。ユリは関係ない」
「うそっ!」
沈黙する唇をじっと見つめる。何百回もキスしてきたのに、心に触れることができないなんて。
ケイスケさんは、ユリ姉さんの彼氏だった。
初めて逢ったのは高校1年のとき。美しく、おしとやかな姉さんが、まさか彼氏を連れてくるとは思わなかった。姉さんのことはなんでも知っていると思っていた私の自負を、ケイスケさんは打ち砕いた。
姉さんは変わった。すごく綺麗になった。
私たちはよく3人で行動した。映画を見たり、料理を作ったり。姉さんがいて、ケイスケさんがいて、私がいる。それで幸せだった。
ところが姉さんは、不意の交通事故で亡くなってしまう。あまりに突然で、あっけなくて、信じられない。ケイスケさんに慰められ、哀しみから立ち直ったとき、私は姉さんになることを誓った。
ほどなく、私はケイスケさんと交際するようになった。
最初は抵抗を感じていたケイスケさんも、やがて私を受け入れてくれた。私は変わった。髪型も、身だしなみも、立ち振る舞いも、姉さんをトレースした。あの交通事故で死んだのは妹なんだと思うようになっていた。
姉さんの年齢に追いついたとき、ケイスケさんは私と姉さんを区別しなくなった。そして結婚。すべてがうまくいっていたと思っていたのに、ケイスケさんの心はまだ姉さんが棲んでいた。
「ちがう。囚われているのはきみの方だ。
きみはぼくを見ていない。ユリになることだけが目的なんだ」
かたくなに拒否するケイスケさんに、私はとまどった。
「仮に、私が姉さんに囚われているとして、なんの問題があるの? いいじゃない、愛し合っているんだから!」
「だから駄目なんだ」
「どうして?」
ケイスケさんは、ずっと我慢していた答えを言った。
「ぼくは、きみのことを好きになった。ユリになることに一生懸命な妹のきみを。ぼくはもうユリを愛していない」
「え?」
ケイスケさんの瞳に映っていたのは私だった。
必死に姉さんを演じる私……。
3ヶ月後、私たちは離婚した。
私は、「姉さん」を愛してほしかった。
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