第41話:最果ての戦場 6ヶ月ぶりのショートショートです。 後半の空間戦闘の部分が大幅にカットされているので、 いまひとつテーマが浮き彫りにならなかった。 1,000文字にはどうしても入らないストーリーもあるが、いまは枠を守って書いていこう。 いつか、2,000文字に書き換えるかもしれない。
2008年 ショートショート「ちくしょう! 司令部はなにを考えてるんだ?」
レイジ少尉はゴミ箱をけっ飛ばした。おれは肩をすくめ、読書に集中しようとしたが、レイジの怒りは収まりそうにない。やむなく本を閉じて、話を聞いてやることにした。
「聞いてくれ! 司令部は能ナシだ!」
レイジは立案した作戦の意義をまくし立てた。
宇宙人との戦争が始まって12年。
一時は互いの母星まで侵攻したが、決め手を欠いて、今は緩衝宙域で小競り合いがつづいている。開戦当初は地球全体が興奮していたが、何年もつづくと戦争も日常になってしまった。まぁ、何百光年も離れた戦争に飽きるのも無理はない。
とはいえ、負けるわけにはいかない。
そこで政府は、兵士の質を少しずつ下げていった。今じゃゴロツキと大差ない連中が部隊を編成している。いや、ゴロツキそのものだ。最前線は、地球の厄介者を送り込む場所になっていた。レイジにしたって、階級こそ少尉だが、詐欺で有罪判決を受けた男だ。懲役の代わりに兵役に就いているから、あと5年は還れない。
「どう思う? これで戦況は大きく変わるだろ!」
問いただされ、我に返る。投影された宙域図を見ると、たしかにいい作戦だった。これを決行すればマゼラン要塞を落とせるだろう。
「司令部が無視しても、こうすれば決行できるぞ!」
レイジは嬉々としてしゃべりつづける。結局、こいつは戦争が好きなのだ。好きなだけでなく、才能もある。だから司令部はブレーキを踏んだのだ。
おれは知っている。政府はこの戦争に勝つ気はない。
戦争によって景気が高揚し、技術革新が進み、厄介者をスムースに処分できている。これほど平和利用されている戦争をやめるはずがない。
そしておそらく……宇宙人サイドも事情は同じだ。
地球軍が大きなミスをしても徹底的に攻めてこないのは、上の方で話が付いている証拠だ。
敵襲のサイレンが鳴って、おれたちは戦闘機に乗り込んだ。
コクピットのスクリーンに司令部からのメッセージが届いている。来ると思ったよ。おれは今日、レイジを殺す。致命的な馬鹿と天才を排除することが、おれの仕事だ。
おれは地球では殺人鬼だったが、ここでは才能が評価されている。ありがたい話だ。
そしておそらく、向こう側にも、おれと同じようなヤツがいるんだろう。
(会いたいような、会いたくないような……)
そんなことを考えながら、おれはレイジを撃墜した。
(998文字)