第45話:モテモテの代償 やっぱり2,000文字は欲しいなぁ...
2008年 ショートショート「おれをモテモテにしてくれる? なんで?」
トシオの質問に、黒服の男は汗をぬぐいながら答えた。
「理由は、その、ご説明できませんが、はい、モテモテになります」
サングラスで男の目は見えないが、怖い印象はない。トシオは状況を整理した。
トシオは町工場で働く青年。これといった特徴はなく、地味で、陰気で、役立たずだった。そんなトシオの夢は、彼女を作ることだった。
ある日、アパートに黒服の男が訪ねてきた。男はトシオに魔法をかけて、モテモテにしてくれるという。怒ったトシオは男を閉め出したが、振り向くと室内に上がり込んでいた。いくつかの魔法を見せられ、トシオは男の話を無視できなくなった。
(わからないのは理由だ。なんの代償もない魔法があるだろうか?)
しかし変身のチャンスは見逃せなかった。
30分後、トシオは魔法をかけてもらう。顔や体つきに変化はないが、なにやらモテそうな気がする。町に繰り出すと、女の子たちがこっちを振り返る。声をかけると、あっさりデートの約束ができた。すごい!
「認識の魔法なんです。これでシアワセになれますか?」
男の問いかけに、トシオははいはいと生返事した。トシオはガールハントに夢中になり、やがてその中の1人と結婚した。
(いつか魔法が消えてしまうかもしれない)
そんな不安もあったので、結婚後は目立たず、出しゃばらず、静かに暮らした。手に入れたシアワセを守って、トシオは天寿をまっとうした。
◎
トシオの葬式会場から、焼香を済ませた黒服の男が出てきた。
雨の中、停めてあったクルマに乗り込む。運転席の黒服がタオルを渡してくれたので、サングラスを取って顔をぬぐう。目玉が4つある。彼らは宇宙人だった。
もう1つの未来──。
宇宙人は通商条約を結ぶため、地球に来航した。侵略の意図はなかったが、一部の地球人が抵抗軍を組織してしまう。衝突は拡大し、10年にわたる全面戦争の末、人類は最終兵器で自滅してしまう。トシオは抵抗軍の初代リーダーだった。
困った宇宙人は過去にタイムスリップし、トシオに別の道を歩んでもらうことにする。トシオが秘めていたカリスマ性を健全な方向に解放したところ、晩年のトシオは宇宙人に興味を示さなくなり、平和的に通商条約を締結できた。
「これでよかったんでしょうか?」
「よかったのさ。
教科書に載る英雄が1人減ったけど、教科書は残ったんだから」
男たちのクルマは宙に浮き、軌道上の母艦に還っていった。
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