創作  2008年09月22日(月)に書いた ショートショート

第51話:モリアーティ

第51話:モリアーティ

「今回も解決できましたね、教授!」

 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。
「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」
「でも、教授がいなければ数百人の犠牲者が出ていました。
 そんな事件を未然に防げたのは立派です」
 お世辞ではなく、心の底からそう思っているようだ。さすがの教授も照れたのか、寝返りを打って背中を見せる。ジェーンはなにも言わず、花瓶の水を取り替えに行った。

 病室には私と教授だけが残った。
 私はなにも言わず、ただ壁の時計をながめていた。カチコチと針が進んでいく。教授が解決した事件は、これで何件目だろう?

 ヨーロッパで高度な知的犯罪が頻発した。しかし捕まえていると犯人はボンクラばかり。どうやら電脳をハックされ、犯罪プログラムを実行していたようだ。私ことレストレード警部は事件を追跡し、ライヘンバッハの滝で大悪党を仕留めた。

 すべては解決したかに見えた──。
 しかし3年後、ふたたび類似の事件が続発する。犯罪プログラムが残っていたのだ。時限爆弾のように犯罪者が覚醒し、個別に行動しながら見事なチームプレイを成し遂げる。警察はお手上げだった。
 そこで私は教授に事件捜査を依頼した。
 最初はいやがっていたが、ジェーンを介護士につけると協力的になった。ジェーンが事件の核心を突くこともあり、今ではいい探偵コンビだ。

「私はそろそろ会議がありますので」
「うむ、レストレード君。またな」
 ジェーンはぺこりとお辞儀する。

 病院の廊下を歩きながら考える。
(あの娘に本当のことは話せない。犯人はもう捕まえている。
 ジェーンが介護しているモリアーティ教授こそが、犯人なんだ)

 あの日、モリアーティは死ななかった。
 3年後、病院のベッドで目覚めた彼は、脳核損傷のため、記憶を失っていた。自分は「引退した数学教授」だと思っているモリアーティに、私は事件の捜査協力を求めた。
 つまり教授は、自分が仕掛けた犯罪を推理しているわけだ。

 車のエンジンをかけるとき、ふと気づいた。
(すべてが計画されたことだとしたら?)

 悪の天才は、正義の天才を求めていた。
 しかし名探偵のいない100年後に生まれてしまった教授は、孤独だった。そこで彼は、自分自身が探偵になることにした。

 ジェーンは、ワトソン医師の子孫。
 あの2人のコンビは、ホームズとワトソンのようだ。


(994文字)

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