第52話:呪われた会社 岡崎二郎の漫画『アフター0/会社夜話』を読んで、思いついたエピソード。 『会社夜話』の悪霊は制御されてなかったけど、 もし制御できたら、と考えてみた。
2008年 ショートショート「ユミちゃん、この会社はヤバイよ!」
幼なじみのシロウは、青ざめた顔で訴えた。
霊感の強い人だから、なにか言うとは思っていたけど、こんなに真剣だとシャレにならない。
ここは私が勤める証券会社。ヘッドハンティングされて3年になるかしら。
最初はモーレツに働く社員たちに圧倒された。やっぱり一流企業は空気がちがう。その熱気にあてられ、私もバリバリ働く。すると自分でも驚くほど仕事ができた。自分の才能が引き出されていくのは快感だった。
しかし無理がたたったのか、先週、私は職場で倒れてしまう。過労だった。
社長命令で休暇をとらされた私は、数年ぶりに田舎に帰った。
「それは悪霊の仕業だよ」
シロウはそう分析し、一緒に上京して確かめたいと言い出した。私に霊の匂いが残っているとか。失礼しちゃうわ。でも、気づかってくれるのはうれしかった。
私はデート気分で承諾し、シロウを会社に連れてきたんだけど......。
「屋上だ! 屋上になにかいる!」
手をひかれるまま、シロウと階段を登っていく。
私、なにやってるの? これはデートじゃなかったの?
「うわぁッ!」
屋上にあった小さな祠に触れようとしたら、シロウが吹き飛ばされた。
大きな黒い影が私にも見えた。
信じられないし、信じたくないけど、シロウの言うとおり、このビルには悪霊が悪霊が憑いている!
黒い影が私たちにのしかかる。
息ができない。シロウが死んじゃう。
「渇!」
大きな声が闇を切り裂いた。
◎
おそるおそる目を開けると、修験者が立っていた。社長だった。
「さすが優秀なアナリスト。この仕組みに気づくとはね」
私たちは社長室に寝かされていた。もう霊障は感じられない。
社長室の壁や天井には、無数のお札が貼ってあった。
「ちゃんと制御できているから、心配ないよ」
社長の話によると、あの祠は先々代の創業社長が建てたものらしい。
創業当時、人を過労死させる悪霊がビルに憑いてしまった。しかし社員の潜在能力を引き出す効果があると気づいた先々代は、あえて不完全に封印した。死なない程度に社員を働かせることで、悪霊と社長の利害が一致したわけだ。これが成長の秘密だったのね。
「さて、ユミはどうする?」
社長がにっこり微笑んだ。
◎
「よくないよ、ユミちゃん」
怖がるシロウを無視して、私は働きつづけた。
高い給料も魅力だが、この会社で伸ばしたいスキルもあったから。
大丈夫、あと2年だけ。
ちゃんと自分を制御できているから、心配ないよ。
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