第55話:スタンドアローン また書いてしまった。 文章より、挿絵を用意するのが面倒になってきた。 今回から横長サイズにしてみたけど、どうかしら?
2008年 ショートショート「目が覚めたかい?」
ぼくは、ボクに声をかけた。
ボクは身体を起こして、機械の頭を振る。
「ここは宇宙船?」
「ぼくの棺桶になるところさ」
機械のボクは、生身のぼくを見て驚いた。
「あれ? ぼくが生きてる。どうなってんの?」
「説明するよ」
◎
97時間前、宇宙船に岩石が衝突した。
居住区画が吹き飛んで、生き残ったのはぼく1人。といっても宇宙船は航行不能で、おまけに生命維持システムも破損した。あと何日も生きられそうにない。
絶望するぼくに、マザーコンピュータが提案した。
積み荷のサイボーグボディに記憶を移植するというのだ。生身のぼくは死ぬけど、サイボーグのボクは生き残れる。技術の進歩はすごいな。
手術を受けて目を覚ますと、となりにサイボーグが横たわっていた。
《成功シマシタ》とマザー。
記憶を移植しても、生身が死ぬわけではない。つまりぼくはコピーされたわけだ。
やがてボク(サイボーグ)が目覚めたので、状況を説明してやった。
◎
「それじゃボクは、ぼくの死を見届けるのか」とサイボーグ。
「ギリギリまで踏ん張るけどね。それより調子はどう?」と生身。
「悪くないよ。ただ、想像とはだいぶ違うね」
「そんなもんかい?」
奇妙な友人との会話は楽しかったが、すぐ余裕がなくなった。
「調子はどう?」
「最悪だよ。このつらさは、想像とはだいぶ違うね」
「そんなもんかい?」
「ぼくがサイボーグになりたかったよ」
「なったさ」
数日後──。
「おまえは誰だ?」
「ボクだよ。何度も確認しただろう」
「ぼくはここにいる。おまえはぼくじゃない。
おまえはマザーだ。
マザーがぼくのふりをしているんだ。この人形め!」
「だとしても、きみを一番理解している人形だ」
さらに数日後──。
「もし今、救助隊が来たらどうする?」
「どうするって?」
「生身のぼくが生き残ったら、機械は廃棄されるぞ」
「そうなる前に、きみを殺すさ」
「だよな、ぼくならそうする」
最終日──。
「ぼくはもうすぐ死ぬ」
「そのようだ」
「でも、きみが残る。ぼくの欠片が...」
「欠片じゃないよ」
「いいから聞けよ。最後にきみがいてくれてよかった。
この世にぼくを残して逝けるんだから...」
ぼくとボクは、同時に動かなくなった。
◎
《船内ヲ凍結シマス》
最後の乗員が死んだので、マザーは生命維持システムを停止させた。
遺体のかたわらで崩れ落ちる機械。
それは、手術で埋め込まれたチップで遠隔操作するロボットだった。
乗員は自分と会話していたのだ。
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