第60話:部屋とセーラー服と私 この物語はフィクションであり、実在する人物とは一切関係ありません。

2008年 ショートショート
第60話:部屋とセーラー服と私

「これって、セーラー服?」

 つきあって4年になる彼氏の部屋で、セーラー服を見つけてしまった。
 ベッド下の紙袋に入っていた。

 きょろきょろ周囲を見渡す。
 タクヤは買い物に行ったばかりだから、あと15分は戻ってこない。
 窓を閉めて、カーテンをひく。お、落ち着いて、私!

 紙袋からセーラー服を取り出す。
 独特の肌触り。裁縫がちゃんとしている。
 コスプレやパーティグッズではなく、本物のセーラー服みたい。

(まさか......中古?)
 おぞましい想像に身震いする。
 そっと匂いを嗅いで、袖や襟元をチェック。たぶん、新品。
 でもどうして? なんのために?

 そういえば先日、タクヤは服のサイズを聞いていたっけ。
 スカートのサイズを確認して、時計を見て、おそるおそる着てみることにした。

 ぴったりだった。

 めまいを起こしそうになると、壁掛け鏡に自分が映っていた。
 彼氏の部屋で、セーラー服を着ている私。
 なにこれ、すごいドキドキする。

(卒業してだいぶ経つけど、私もまだいけるんじゃない?
 でも肌は衰えたかしら。
 髪留めすれば、もうちょっと......)

 あれこれポーズをとっていると、携帯電話が鳴った!
 飛び出しそうになった心臓を飲み込んで、電話に出るとタクヤだった。欲しいものはないかと訊かれ、ないと答えて切る。
 びっくりした。
 汗かいちゃったけど、服に匂いがつくかしら......って、もうすぐタクヤが帰ってくる!

 急いでセーラー服を脱いで、ていねいに畳む。
 えぇと、紙袋はどっち向きだったっけ?
 なんとか元の状態に戻すと、まだ下着姿だったことに気づき、あわてて服を着る。前後ろをなおしたところに、タクヤが帰ってきた。

 その夜、私はタクヤとえっちした。
 何度も抱かれたのに、一段と興奮してしまう。私は悩んでいた。「セーラー服を着ろ」って命じられたら、どうしよう? 着たら、喜んでもらえるのかな? でも、恥ずかしい。

 しかしタクヤは紙袋を出さなかった。
 たまらなくなった私はタクヤに訊ねた。

「こ、この紙袋はなぁに?」
「あぁ、それは姉貴に渡すセーラー服。実家から預かってきた。
 進学しなかったから新品のはずだけど、着てみる?」
「え? あ、いや、いい......」

 どっと疲れた。

 彼女が帰ったあと、タクヤは隠しカメラを再生した。
 予想通り、セーラー服に振り回される彼女が写ってる。
 考えていることが丸わかりで、めちゃめちゃ可愛い。大好き♪

「このビデオ、やっぱり結婚前に見せた方がいいかな?」

 タクヤは本気で悩んでいた。


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