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[創作] 2009年07月22日(水)に書いたショートショート

第67話:回帰日蝕

第67話:回帰日蝕

 46年ぶりの皆既日食が明けた。

 みるみる周囲が明るくなっていく。まるで天空の穴から、昼間が広がっていくみたい。夜明けとはちがう変化に、私は興奮した。この震えを、感動と呼ぶのかしら?
 私たちは日食観測のため、太平洋上の船に"来て"いた。

 小一時間も経つと、船上はいつもの光景に戻っていた。
 アッケナイと言えばアッケナイ。
「そろそろ帰ろうか」
 タカシに促され、はいと答えると、バーチャルコネクトが切断された。

 急に暗くなったので、目がチカチカする。
 太平洋上の船から一瞬にして、1,300km離れた部屋に帰ってきた。正確には、どこにも移動していない。私たちは船上のセンサーボディにリンクしていただけ。
 リンクは有料で、今回のような大イベントは利用者が殺到する。タカシは1年前から予約してくれたので、最高の条件で観察できた。

「でもなんか、不思議ね。
 こんな風に遠くの光景を、居ながら体験できるなんて...」

 テレビでは、各地の様子が紹介されていた。
 日食観測のベストスポットと言われていた島は、暴風雨に見舞われて大変だったみたい。都市部は曇り。私たちが"いた"船は、これから長い時間をかけて帰港する。軌道ステーションからの眺めは最高だけど、おいそれと行ける場所じゃない。
 とどのつまり、テレビがいちばん安く、バーチャルコネクトがいちばん効率よく体験できるのね。

「これでいいのかしら?」
 私のつぶやきに、タカシははっきり答えてくれた。
「いいわけないさ!
 どんなにバーチャルコネクトが進化しても、実体験にはおよばない。
 今は無理だけど、26年後の日食はいっしょに見に行こう!」

 ほろりと涙がこぼれてしまった。
 自分が泣かせたと思ったタカシは、あれこれ気を使ってくれたけど、ちがうの。間の悪いことに、携帯が鳴りひびく。緊急の仕事が入ったみたい。頭を下げるタカシを、私は笑顔で見送った。

 独りになって、ぼんやり窓の外を見る。
 2年前の事故で、私は立てなくなった。リハビリで快方に向かっているけど、旅行はまだ無理。だからバーチャルコネクトはありがたい。でも本当は、自分の脚で現地に行きたかった。たとえ日食を観られなくても。
 タカシは1年前に予約していた。それはつまり、1年では全快しないと思っていた証拠なのよ。

 タカシを投影していたホログラム装置に目をもどす。

「仕事が忙しいのはわかるけど、たまには実際に見舞いに来てほしい...」

(997文字)

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