創作  2010年04月22日(木)に書いた ショートショート

第78話:ブリガドーンの約束

第78話:ブリガドーンの約束

「ま、待ってくれ! まだ地球を破壊しないでくれッ!」

 たまらず、おれは祭壇の前に飛び出してしまった。
 ゆらゆら詠唱していた人影が、ぴたりと立ち止まる。振り向いたローブの中には3つ、4つ、7つの目が光っていた。
 ごくり、と喉が鳴る。

「おまえは、地球の代表か?」
 リーダーとおぼしき男が指さす。
 顔は異形だが、ちゃんと聞き取れる声。宇宙人とは思えない。
「そ、そうだ!」
 とりあえず大見得を切ってしまうのは、おれの悪いくせだった。

 どうしてこんなことに?
 おれはオカルト雑誌の記者。100年周期であらわれる謎の村、ブリガドーン。ただの民間伝承だが、「実際にあらわれた」「妙な生き物がいる」という噂が立ったので、山奥まで取材に来たのだ。
 濃密な霧の向こうに、その村はあった。

 いろいろあったけど、詳細は省く。
 おれは村人に歓待され、すべての疑問に答えてもらったが、納得できず、禁じられた夜の祭りを見てしまう。
 それは、宇宙人の儀式だった。
 なにを馬鹿なと思うだろうが、本当だからしようがない。しかも宇宙人は、人類の退廃をなげき、地球を破壊すると決めてしまった!

 彼らの技術力は魔法の域に達しており、信じる、信じないと言える状況じゃない。逃げることも、助けを呼ぶことも、戦うこともできない。
 たまらず、おれは飛び出してしまった。
 策などない。とにかく言葉で、身振りで、心で訴えるだけだ。

「わかった」
 あっけなくリーダーは了承した。

「へ?」
「おまえの言うとおり、人類に進化の余地があるなら、もうあと100年の猶予をやろう。
 それまでに悔い改めるのならばよし。さもなくば裁定を下す。
 いいな?」
「へ?」
「いいな?」
「はい、わ、わかりました」

 ふたたび村が、霧の彼方に消えてゆく。
 とぼとぼ山道を降りて、自分のワゴンに乗り込み、エンジンをかけるころには、地球を救った興奮は消え失せていた。長い映画を見てきたようだ。

(なにをすればいい?)

 こんな話をして、誰が信じてくれるだろう? かりに信じてもらえたとして、どうなる? 人類は罪を悔い改めるより、この村を爆撃するだろう。そして......。
 あまり幸福なイメージは浮かばない。

 100年周期であらわれる伝説の村、ブリガドーン。

 彼らはいつから地球にいるのだろう? そして何回、執行を順延してくれたのだろう。呆れるほどお人好しで、気の長い神さま。

 だったら、もうちょっとだけ......。


(967文字)

コメント (Facebook)

ショートショート (100)

思考回廊 創作
第78話:ブリガドーンの約束