第92話:大いなる継承

2011年 ショートショート
第92話:大いなる継承

「もうすぐ、《継承の儀》がはじまるんだね!」

 となりでマナがひとり興奮してる。儀式がはじまるまで、私を落ち着かせてくれる約束だったのに。幼なじみの私がオヤシロさまを継ぐのが決まって、マナはうれしくてたまらないのだ。立場が逆なら、私もはしゃいだと思う。
 でも当人は憂鬱だった。儀式に失敗すれば、村は滅ぶのだから。

 オヤシロさまは、この村と神世をつなぐ存在──。オヤシロさまの恵みなしに、村は立ちゆかない。継承に失敗して途絶えた村もたくさんある。オヤシロさまの継承に、村の存亡がかかっているのだ。

「カナミよ。おまえが次代のオヤシロさまとなるのだ」

 宮司さまに言いつかったのは先月のこと。シキベツとか、ジュキュウシカクとか、意味がわからない。
「私を選んだ祭具が壊れているのでは?」
 宮司さまに問うと、
「壊れておる。だから継承されるのだ」
 不可解な返答だった。
 時間をかけて理解しようと思っていたけど、オヤシロさまが急逝されたため、あっという間に儀式の日になってしまった。こんな私で大丈夫なのか?

「カナミ、がんばってね!」
 夜も更け、時刻になった。マナの声が背後で遠のいていく。さようなら、マナ。
 本殿の奥に誘われ、決められた位置に座る。呼吸を整えなくっちゃ。次のコールに、村の未来がかかっている!

《ピーッ!
 こちらは中央管理局です。
 オオヤマ・シロエさまはご在宅ですか?
 生体識別パネルに触れてください》

 予想外に高い声だったので、ぎょっとした。
 ぐっと息をのみこんで、祭具に触れる。淡く光って、梵字が浮かび上がる。教わった祝詞(のりと)を読み上げた。

「はーい。ちゃんといますよ」

 しばしの沈黙。宮司さまもごくりと喉を鳴らす。

《ピーッ!
 市民番号TME-108-527-800-917。オオヤマ・シロエさまを確認しました。
 549歳の誕生日、おめでとうございます。
 お変わりありませんか?》

「ど、同居人が473名になりま、なりました」

《ピーッ!
 了解しました。
 今期の年金も、エネルギーと物資での支給を希望されますか?》

「はい」

《ピーッ!
 かしこまりました。
 政府公報です。
 1.今期の議会は開催されず、中央管理局が執政を行います。
 2.隕石衝突から517年が経過しましたが、システムは正常運用されております……》


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