第99話:就職戦線、異状なし

2011年 ショートショート
第99話:就職戦線、異状なし

「課長のやり方はおかしいですよ!」

 喫煙所でくつろいでいると、後輩のヤスオが主張しはじめた。なにかと思えば、人事採用の話だった。
「さっき課長の部屋に行ったら、履歴書をぽんぽん投げていたんです。それで、イスに載った分だけ面接するって。ぼくが呆れていたら、『おれは運のないヤツらと働きたくない』って言うんですよ!」

 ヤスオは鼻息が荒い。飲まずに熱くなれるのは才能だな。無視しようと思ったが、タバコに火をつけたばかりだし、近ごろは喫煙仲間も貴重なので、相づちを打った。
「うむ。たしかにそうだ。
 散らかった履歴書を片付ける身にもなってほしいよな」
「ち、ちがいます!
 そうじゃなくて、面接担当者はもっと真剣であるべきです!
 ぼくも新参者だから、あの履歴書の重さがわかります。応募が多くて辟易するのもわかりますが、履歴書には若者たちの願いが込められているんです。それを見ずに選ぶなんて!」

 おれは黙っていた。
 気づくかなーと思ったら、気づいてくれた。
「ひょっとして......。ぼくも、そうなんですか?」

 ふーと紫煙を吐く。
「あぁ、ヤスオもラッキー採用だ。
 あのときは履歴書にインクをかけて、汚れなかった履歴書を面接した。片付けが面倒だった。
 ちなみに面接時、課長はクロスワードパズルに夢中だった。ずっとうつむいてただろ? で、ワードを閃いたときの希望者を採用したわけだ」

 ヤスオの顔が暗くなった。このままモチベーションが下がっても困るから、少し捕捉しておこう。
「だが落胆することはない。
 9課は入れ替わりが激しいセクションだ。以前は人柄や適性を吟味してたけど、『これだ!』と期待したヤツはすぐいなくなる。結局、残るのはラッキー採用ばかり。実力より運が大事なんだよ。」

 ヤスオの顔が真っ黒だ。いかん。
「まて、落ち着け。
 ラッキーを恥じることはない。だいたい......」

 そのときサイレンが鳴り響いた。つづいて課長の声が館内放送される。
「敵機襲来。機影12。総員出撃!」
 格納庫に向かって走る。ヤスオもスイッチを切り替えたようだ。実戦経験が少ないわりに、いい目をしてる。これなら今日も生き残れるだろう。

 おれたちは民間軍事会社。
 最近は不況が極まったせいか、やたら就職希望者が多い。狭き門をくぐり抜け、さらに死神の手を払いのけたヤツだけが給料をもらえる。運のないヤツは来ない方がいい。

 ただ、採用者と落選者のどっちがラッキーかは、議論の余地がある。いい会社なんだけど、入れ替わりが激しいからね。

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