
「ユミちゃん、この会社はヤバイよ!」
幼なじみのシロウは、青ざめた顔で訴えた。
霊感の強い人だから、なにか言うとは思っていたけど、こんなに真剣だとシャレにならない。
ここは私が勤める証券会社。ヘッドハンティングされて3年になるかしら。
最初はモーレツに働く社員たちに圧倒された。やっぱり一流企業は空気がちがう。その熱気にあてられ、私もバリバリ働く。すると自分でも驚くほど仕事ができた。自分の才能が引き出されていくのは快感だった。
しかし無理がたたったのか、先週、私は職場で倒れてしまう。過労だった。
社長命令で休暇をとらされた私は、数年ぶりに田舎に帰った。
「それは悪霊の仕業だよ」
シロウはそう分析し、一緒に上京して確かめたいと言い出した。私に霊の匂いが残っているとか。失礼しちゃうわ。でも、気づかってくれるのはうれしかった。
私はデート気分で承諾し、シロウを会社に連れてきたんだけど……。
「屋上だ! 屋上になにかいる!」
手をひかれるまま、シロウと階段を登っていく。
私、なにやってるの? これはデートじゃなかったの?
「うわぁッ!」
屋上にあった小さな祠に触れようとしたら、シロウが吹き飛ばされた。
大きな黒い影が私にも見えた。
信じられないし、信じたくないけど、シロウの言うとおり、このビルには悪霊が悪霊が憑いている!
黒い影が私たちにのしかかる。
息ができない。シロウが死んじゃう。
「渇!」
大きな声が闇を切り裂いた。
◎
おそるおそる目を開けると、修験者が立っていた。社長だった。
「さすが優秀なアナリスト。この仕組みに気づくとはね」
私たちは社長室に寝かされていた。もう霊障は感じられない。
社長室の壁や天井には、無数のお札が貼ってあった。
「ちゃんと制御できているから、心配ないよ」
社長の話によると、あの祠は先々代の創業社長が建てたものらしい。
創業当時、人を過労死させる悪霊がビルに憑いてしまった。しかし社員の潜在能力を引き出す効果があると気づいた先々代は、あえて不完全に封印した。死なない程度に社員を働かせることで、悪霊と社長の利害が一致したわけだ。これが成長の秘密だったのね。
「さて、ユミはどうする?」
社長がにっこり微笑んだ。
◎
「よくないよ、ユミちゃん」
怖がるシロウを無視して、私は働きつづけた。
高い給料も魅力だが、この会社で伸ばしたいスキルもあったから。
大丈夫、あと2年だけ。
ちゃんと自分を制御できているから、心配ないよ。
(998文字)
ショートショート (55)
-

第54話:ブラック・ウィドー
「ついにブラック・ウィドーを妻に娶ることができた」 きょう、80歳... -

第53話:アーバンライフ
「あれ? 母さん、どうしたの?」 アパートに帰ると、ドアの前に母さ... -

第52話:呪われた会社
「ユミちゃん、この会社はヤバイよ!」 幼なじみのシロウは、青ざめた... -

第51話:モリアーティ
「今回も解決できましたね、教授!」 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌... -

第50話:シャーロック
「ホームズさんが死んだって、本当ですか?」 真っ青な顔で叫ぶレスト... -

第49話:アレルギー×アレルギー
「えぇ! 自宅で海老を食べてるのー?」 トモミの告白に、素っ頓狂な... -

第48話:あらしのよるに流されて
「男と女の友情は成立するのかしら?」 サヨコの質問に、ぼくは唾を飲... -

第47話:無礼講の罠
「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」 合宿初日の... -

第46話:悪魔の弁護
「私、悪魔なんです」 少女は抑揚のない声でつぶやいた。 つややか... -

第45話:モテモテの代償
「おれをモテモテにしてくれる? なんで?」 トシオの質問に、黒服の... -

第44話:夫婦の食卓
「ちょっと! あんた、味がわかってんの?」 ある日、晩飯を食べてい... -

第43話:弔問客
「ご主人からお借りしていた本をお返しします・・・」 主人の先輩にあ... -

第42話:ガードレール
「こらっ! 道を外れちゃ駄目じゃないか」 登山コースから外れた子ど... -

第41話:最果ての戦場
「ちくしょう! 司令部はなにを考えてるんだ?」 レイジ少尉はゴミ箱... -

第40話:愛し方、愛され方
「やっぱり別れよう」 ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年... -

第39話:予定があると安心する
「お客さんは、フランスの哲学者ジャン・ギトンをご存じですか?」 窓... -

第38話:恋する心臓
「恋をしてるのは、あたしの心臓かもしれません」 なぜここで恋の相談... -

第37話:ホトケの舌
「どうなさいました? 部長」 ミカに声をかけられ、我に返った。 ... -

第36話:壁の向こう側
その国の端っこに、大きな“壁”があった。 壁の向こう側を見たもの... -

第35話:動機
「やっぱりキョウコが犯人ですよ!」 調査結果を見て、おれは断言した... -

第34話:同伴者
「あ、今のところ、右です」 ノリコに指摘されて、ハッとなる。 し... -

第33話:裸の女王様
『裸の王様』ってさ、どうしてハダカになっちゃったのかな? いくら... -

第32話:恋の呪い
「どうしたらわかってもらえるんだ?」 ぼくは怒鳴った。こうなったら... -

第31話:読書する力
「カズユキ、今こそおまえの協力が必要なんだ!」 革命志士であるおれ... -

第30話:アラン・スミシー
「えぇと、アラン・スミシーをご存じですか?」 私が黙っていると、電話... -

第29話:ニートの王様
「おまえ、まだ働いてなかったのかッ!」 強い口調で叱咤したのに、アユ... -

第28話:無言放送
「え? いま、なんておっしゃいました?」 ナミコに詰め寄られ、プロ... -

第27話:舞踏会の手帖
「で、爺さんはこんな田舎まで、なにしに来たんだい?」 道を尋ねた青... -

第26話:浮気の代償
夫が浮気している。それは、信じられないことだった。 夫のシンスケ... -

第25話:告知問題
「ちゃんと余命を告知すべきだよ」 おれの主張は、しかし親族全員に反... -

第24話:ウサギとカメと
あの2人を見てると、人生について考えてしまう。 タカシとヤスオ─... -

第23話:乙な関係
「あのスケベ親父、なんて言ったと思う?」 ナミコ社長は息巻いた。 ... -

第22話:私のヒーロー
「あの夜、ぼくはきみに姿を見せてしまった」 私は黙って、彼の話を聞... -

第21話:ファインダー越しの愛
「ねぇ、聞かせてちょうだい。どうして離婚しちゃったの?」 意を決し... -

第20話:無駄のない仕事
「この世に無駄なものなんてないんだよ」 と課長は言った。だけどぼく... -

第19話:閉じこめられた2人
「私はイヤよ! こんなところで死ねない!」 リツコは叫んだ。叫ばず... -

第18話:魔性
「どうしてママは、パパと結婚したの?」 娘のリエが訊ねてきた。いつ... -

第17話:とりこ
「カズオさんって、非常識なんです」 アユミはしずかに話しはじめた。... -

第16話:わかってない
「兄貴! ちょっと聞いてくれよ」 といって弟のノブヒコが部屋に入っ... -

第15話:危険な行為
「あなた! どうしたの?」 家に帰ってきた主人の背広は破れ、顔には... -

第14話:内助の功
雨上がりの駅前で、私はコウイチさんと再会した。 3年ぶりにみる彼... -

第13話:最高の死
(死んだ。死んでしまった・・・) 心臓が止まった亡骸から、霊魂が浮... -

第12話:滅私奉公
ノックの音がして、次の患者が入ってきた。 気の弱そうな男だ。資料... -

第11話:隠し味
「本当のことを言って、シンイチさん。おねがいだから・・・」 うるん... -

第10話:永遠の約束
「ユキエ。おれはもう、おまえ以外の女は愛せない。この気持ちは永遠に変... -

第09話:本来業務
「もしもし・・・あぁ、きみか。 え? 今? 大丈夫、話せるよ。仕... -

第08話:サトコの決断
「お久しぶりね」 最初、それがサトコだとはわからなかった。着ている... -

第07話:萌えキャラ
今日はトモヨちゃんの誕生日。 なので、誕生パーティを開くことにし... -

第06話:成功の秘密
「昇進、おめでとう!」 「ありがとう、マサアキ♪」 かちんと、ワイ... -

第05話:ぼくの名前を呼んで
どこかで列車が走る音がする──。 そんな馬鹿な・・・ありえない。... -

第04話:プリインストール
(こんなはずじゃなかったのに・・・) ぼくにまたがって、気持ちよさ... -

第03話:トキコの部屋
「トキコの部屋は、まだ残ってるんだろうか?」 坂道を登りながら、ケ... -

第02話:声のある暮らし
となりに、若い夫婦が住んでいる。 旦那は見たことないけど、奥さん... -

第01話:脳内彼女
リプライが遅れてごめん。 もらったメールの内容が重かったので、返... -

ショートショート、はじめました
自作したショートショートを公開することにしました。ショートショート...