【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「ボヘミアの醜聞」シャーロック・ホームズの冒険 A Scandal in Bohemia (1891) by Arthur Conan Doyle
2014年 ゆっくり文庫 イギリス文学 ホームズ ミステリー
016 書かれなかった真相──
ホームズはボヘミア国王に依頼され、私的な写真を回収することに。アイリーンはどこに写真を隠しているのか?
原作について

アーサー・コナン・ドイル
(1859-1930)
本を読んだとき、どうにも納得できなかった。
なぜアイリーンは結婚を急いだのか? なぜボヘミア王は追求をやめたのか?
アイリーンは金銭や復縁を求めず、ただ王を困らせるためだけに脅迫した。もし写真を送りつければ、アイリーンの破滅も避けられない。一矢報いる覚悟で脅迫したのに、あっさり手を引いたのは不自然だ。脅迫したことを取り消したいなら、写真を差し出せばいいのに。
なにか、書かれなかった「真相」があるような気がする。
ホームズの物語は、ワトソンが書いた伝記小説という体裁をとっている。ホームズの許可を得て、関係者に迷惑がかからないよう配慮されている。つまりなにか理由があって、「真相」を書けなかったのではないか?
というわけで妄想してみた。原作未読の人は誤解するかもしれないが、気になったら読み比べてほしい。
で、ここから先は私の妄想世界──。
ボヘミアの醜聞 SIDE-B
アイリーンは野心ある少女だった。世界を手に入れると、本気で考えていた。しかし時代は19世紀。まだ女性が活躍する場は少なかった。
アイリーンはまず容姿を評価された。コントラルト歌手になり、スカラ座にも出演した。ワルシャワ帝室オペラに所属したことで、当時皇太子であったボヘミア国王と関係を結び、王妃になる可能性を得た。
万事順調なのに、アイリーンの心は満たされなかった。そんな折り、幼なじみのゴドフリー・ノートンに求婚される。ノートンは善人だが、つまらない男だった。しかも肺を患っており、余命わずか。考えるまでもなく答えはノーだが、最後の時間をいっしょに過ごしたいというノートンを悪く思えなかった。
またアイリーンは、ホームズの活躍に注目していた。自分が男なら、ホームズのようになりたい。貴族や権力者を目指しているのに、気がつけば探偵にあこがれている。アイリーンは支離滅裂な自分を笑った。
ボヘミア国王の縁談が決まったので、アイリーンは身を引いた。貴族社会に未練はなかったが、王はちがった。王は本気でアイリーンを愛していた。王妃にしたかった。アイリーンもそのつもりだったのに、あっけなく去ってしまった。王の愛憎はひっくり返った。
王につきまとわれたアイリーンは、「スカンディナヴィア王家に写真を送る」と威嚇した。しかしそれは、かえって王の怒りと執着を招いた。
5回も襲撃され、アイリーンは恐怖した。いま写真を差し出したら、身を守るものがなくなってしまう。王の執着を解かなければならない。王は、スカンディナヴィア王女を愛せなかった。それでも結婚しなければならない。運命を受け入れるには、本当の愛(アイリーン)を否定しなければならない。王はアイリーンを制圧することで、階級に制圧される自分を肯定したかったのだ。
アイリーンは王をあわれに思った。しかし今さら「負けた」と写真を差し出しても、納得しないだろう。信頼できる第三者が必要だ。アイリーンは、自分を打ち負かす相手としてホームズを選んだ。
アイリーンの計画通り、王はホームズに依頼した。これでホームズと対決できる。するとアイリーンは、負けたくないと思ってしまった。気持ちが揺らいだたため、結婚が遅れてしまった。手配ミスもあったが、たまたま変装したホームズがいたので、立会人をやってもらった。アイリーンには、いい思い出になった。
しかし虚を突かれ、ホームズに写真の隠し場所を暴かれてしまう。アイリーンは写真を抜き取って、メイドを隠し場所の前に立たせた。メイドが立っていれば、そこに写真があると思うだろう。写真がなければ、ホームズも落胆するにちがいない。
が......ホームズは奪わなかった。写真がないと気づいたのか、暴力を避けたのか?ホームズは写真ではなく、「探し方」を見つけたのだ。王が同じことをすれば、とんでもなく危険だ。もはや写真を持っていられない。アイリーンは敗北を認めた。
アイリーンはホームズを訪ね、事情を説明した。しかしホームズがアイリーンに協力する義理も、依頼人(王)を裏切る理由もない。アイリーンには、ホームズに差し出せるものがなかった。だから、「おねがい」するしかなかった。ホームズにとっても、アイリーンにとっても、つらい交渉だった。
ホームズが「しくじり」を演じたことで、王は茶番に気づかなかった。高い知性をもつ者同士の戦いを見たことで、王は満足した。アイリーンの写真を「不要」と答えたことで、執着が解けたと判断したホームズは、王とアイリーンが写っている写真を燃やした。
アイリーンはホームズからの電報で事の顛末を知った。これで安心して過ごせる。アイリーンは思った。ノートンと最後の時間を過ごしたら、ホームズのために働きたい。
3年後の1891年──。
アイリーンは寡婦となる。ロンドンへ出発する日、驚くべき新聞記事を読むのだった。(つづく)
動画制作について
構想が大きくなりすぎた。アイリーンやボヘミア王の事情を描いたら一時間以上のドラマになってしまう。ボヘミア王から依頼を受けるだけで8分かかってしまった。長い動画は飽きる。
【ゆっくり文庫】にふさわしい時間になるよう、削りまくった。惜しまれるシーンもあったが、やむなし。
情報量は多かった?
しかし削りすぎて、アイリーンの事情が見えにくくなった。セリフは増やしたくないので、背景に文字情報を掲載する。情報量が多いし、うざくないか? でも無料の動画だから、気になる人は一時停止するだろう。考えてもきりがないので、やってみよう。
変装
本作は変装キャラが多かった。生きた人間を使ってないから、顔も声も自由自在なんだけど、「変身」じゃなくて「変装」を表現するのは面倒だった。未使用サンプルを含め手間がかかったから、どっかで再利用したい。
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早苗も適当な帽子をかぶった変装キャラを作ったが、神の帽子をかぶった絵があったので使わせてもらった。頭身が異なる早苗が混在してしまったが、「化粧すると女性は化ける」ということで、そのまま採用した。
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キャラを絞る
キャラクターが多すぎると注意が散ってしまうので、ゴドフリー・ノートン弁護士(八坂神奈子)はセリフと表情をカットした。教会の牧師もシルエットだ。メイド(洩矢諏訪子)も同様に処理するつもりだったが、失敗した。監督が役者に押し切られちゃった感じ。
ちなみに、ホームズとワトソンの会話を立ち聞きした神の帽子は、諏訪子や早苗ではなく、別の友達という設定だ。
チンピラ2人組(アリス&妖夢)は定番なので外せなかった。またどこかで出演してほしい。オラオラ~。
心理描写
「思考」や「推理」は書いたけど、「心情」は書いてない。どのくらい伝わっただろう?
ホームズもアイリーンも頭がいいが、最終的な判断は理性ではなく感情で決している。アイリーンはホームズを信じたから、ホームズも答えた。根拠はない。
ホームズは「いいように利用された」と言っているが、これもウソ。しかし喜んで協力したなんて言えないし、言われたくもない。だから無関係な事件の話題でワトソンを遮った。ワトソンも調子を合わせた。
事件の話をするつもりがなかったから、資料が見つからない。焦る。困る。見つかって安堵する。そして自分が、ワトソンに見透かされていることに気づき、照れた。でも、冷静を装った。
無言の友情である。気づいてもらえただろうか? これを書いちゃうと無粋でしょ?
まぁ、無表情のホームズが浮かれて見えれば成功だ。
2本目のホームズ
「著者1人につき1作品」と決めているわけではないが、暗黙のルールを破るときは興奮する。このままホームズを連載するわけではないが、「2本以上作らない」と決めているわけでもない。
しかしどうだろう? シリーズ化させることより、今回のような翻案を繰り返すほうがつらい。シリーズ化すれば切れ味は落ちる。それでもシリーズ化を望むのか?
ゆっくりモリアーティ、ゆっくりマイクロフト、ゆっくりレストレードが見たい?
どうしよう。うーん。
次回も未定。
ストックなし。プロットなし。
ほんとは制作ペースを落とすつもりだったけど、宣伝が2つもついて、張り切ってしまった。