【ゆっくり文庫】ニコライ・ゴーゴリ「外套」 The Overcoat (1842) by Nikolai Gogol

2014年 ゆっくり文庫 ファンタジー ロシア文学
【ゆっくり文庫】ニコライ・ゴーゴリ「外套」
024 拠り所のない魂──

アカーキーは下級役人。あるとき外套がボロボロになって、新調せざるを得なくなる。自分の外套を仕立てることに、アカーキーはかつてない興奮を覚える。

原作について

ニコライ・ゴーゴリ

ニコライ・ゴーゴリ
(1809-1852)

 いやぁ、昏い。だけど、痛々しいほど共感できる。共感できる文学作品に触れると、その国への親近感が増す。言語や風土がちがっても、同じ人間なんだと思える。学校の国語の授業では、どうして歴史や地理を俯瞰しないのだろう? もったいない。

 さておき内容について。
 アカーキィはずっと、与えられたものに自分を合わせてきた。現状に不満はない、これで幸福なんだと思うことで、恵まれない自分を納得させてきた。しかし外套を新調することで、自分を表現する悦びを知ってしまう。それは倹約の苦しみを乗り越え、人格まで変えてしまった。子どもにとってはなんでもない経験だが、五十を過ぎたアカーキィには刺激が強すぎた。

 アカーキィは「外套」に執着していたわけじゃない。有力者に復讐したかったわけでもない。魂の拠り所を失っていたのだ。もう少し時間があれば、アカーキィは生まれ変わっていただろう。タイミングが悪かった。だれが悪いと言えないところがつらい。

 そうしたテーマを強調するため、アカーキィの名前の由来や、文字への愛情、仕立屋のぼったくり、ボーナスの増額、警察との悶着などは割愛した。興味がある方は原作を読んでほしい。

 また同僚(めーりん)にテーマを言及させた。直接的で、無粋な気もするが、ほのめかして伝わらないのは本末転倒だ。といっても、原作を読んで私が感じたことの代弁であって、ゴーゴリの意図と断じるわけじゃない。ま、いつもの感想文だ。どこを強調するかで、作者(私)が大切にしたいところがわかるだろう。

最後の幽霊は?

 ラストの幽霊は、原作では正体不明だったが、それじゃ気持ち悪いので盗人の片割れ(アリス)を配役した。妖夢と喧嘩したのか、ほかに悩みがあったのか、いろいろ想像できる。善人なおもて往生できず、いわんや悪人をや。

 唐突に出現し、どんな意味があるかも説明されないが、これは幽霊になる理由がアカーキィや外套に限定されないことを示していると思う。アカーキィは貧しいが、だから幽霊になったわけじゃない。外套に執着したのではなく、ほかに執着するものがなくなっていたのだ。有力者の外套が気に入ったのではなく、ペテルブルグの人々の心胆を寒からしめることで、自分が存在したあかしをちょっぴり残せたことに満足したんだと思う。

 だれもが幽霊になりえる。
 そう言いたかったのではないだろうか。

動画制作について

 きめぇ丸は表情パターンが少ないため、あまり目立たせたくないのだが、コメント人気がやたら高いので主役に抜擢した。本当は魔理沙が演じるはずだった。【ゆっくり文庫】を支える大女優の魔理沙が、個性派俳優に押されつつある。やばい。

 もっとも悩んだのは「外套」だ。赤蛮奇とキスメから作ってみたが、どうにも合わない。シルエットも上手に描けなかった。『文鳥』のような擬人化も無理だ。
 結局、『少年の日の思い出』のチョウチョと同じく、想像してもらうことにした。どうせ割愛するなら、悩まなければよかった。


やつれ状態

新調した外套(ボツ)

亡霊きめえ

亡霊ありす

 外套がないので、「外套を剥ぎ取る」シーンも難航した。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でライフルを取り上げるシーンに苦労したのと同じ。ゆっくり同士の近接アクションは難しい。試行錯誤のすえ、「黑齣」でごまかした。使ってみると、あんがい悪くない。黑齣、便利だわ。

 ちゃんと絵を描いたほうがいいことはわかってる。わかってるけど、技術も時間もない。Blu-ray化するときに対処しよう。

ニコライ・ゴーゴリ「外套」
※黑齣は便利だ

 いろいろあって、間が空いてしまった。動画制作はひとたび失速すると、ふたたび飛び上がるのに苦労する。ほんと、時間をかけちゃダメだね。

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