【ゆっくり文庫】馬場文耕「番町皿屋敷」 The Dish Mansion at Bancho by Baba Bunkou
2014年 ゆっくり文庫 ファンタジー 日本の民話 日本文学032 怖い話が、人をやさしくする──
江戸時代。年季奉公にはげむお菊は、主君に気に入られたことで同僚たちにいじめられ、家宝の皿を割った濡れ衣から指を切り落とされてしまった。お菊はなんとか縛を逃れるが・・・
原作について
「番町皿屋敷」の源流は、1758年に講釈師・馬場文耕が書いたとされる「皿屋敷弁疑録(さらやしきべんぎろく)」に遡るが、古くて私には読めない。田中貢太郎が「皿屋敷」として再話してくれたが、こちらは簡潔すぎてつまらない。岡本綺堂の「番町皿屋敷」は恋物語なので、イメージとちがう。
というわけで、Wikipediaのあらすじ(500文字程度)を元にイメージをふくらませた。原著を読んでないのに申し訳ないが、同名作品が多いため、馬場文耕の名を冠することにした。
「番町皿屋敷」あらすじ
牛込御門内五番町にかつて「吉田屋敷」と呼ばれる屋敷があり、これが赤坂に移転して空き地になった跡に千姫の御殿が造られたという。それも空き地になった後、その一角に火付盗賊改・青山播磨守主膳の屋敷があった。ここに菊という下女が奉公していた。承応二年(1653年)正月二日、菊は主膳が大事にしていた皿十枚のうち1枚を割ってしまった。怒った奥方は菊を責めるが、主膳はそれでは手ぬるいと皿一枚の代わりにと菊の中指を切り落とし、手打ちにするといって一室に監禁してしまう。菊は縄付きのまま部屋を抜け出して裏の古井戸に身を投げた。まもなく夜ごとに井戸の底から「一つ......二つ......」と皿を数える女の声が屋敷中に響き渡り、身の毛もよだつ恐ろしさであった。やがて奥方の産んだ子供には右の中指が無かった。やがてこの事件は公儀の耳にも入り、主膳は所領を没収された。
その後もなお屋敷内で皿数えの声が続くというので、公儀は小石川伝通院の了誉上人に鎮魂の読経を依頼した。ある夜、上人が読経しているところに皿を数える声が「八つ......九つ......」、そこですかさず上人は「十」と付け加えると、菊の亡霊は「あらうれしや」と言って消え失せたという。
皿屋敷伝説のこと
「番町皿屋敷」は、無数にある皿屋敷伝説の1つであり、オリジナルは不詳だった。すると、この怪談が全国に広まって、地元の話として定着した背景に興味が向いて、図書館から本を借りて調べてみた。
学者じゃないから確たることは言えないが、皿屋敷伝説は道徳教材として広まったのではないだろうか?
強者にとっては非道を食い止める「戒め」として。
弱者にとっては怨みで報復できるという「悲願」として。
もし怪談がなかったら、強者は際限なく横暴になり、弱者は絶望して反撃に出るだろう。そうした社会の混乱を防ぐため、怪談が利用されたのだ。そう考えれば、怪談が地元の話として定着し、墓や碑が作られたのもうなずける。強者と弱者、双方にメリットがあったのだ。
現代人は怪談を知らないし、信じない。だから怨霊による報復なんか怖れない。相手がどんなに苦しもうが、怨もうが、死ねばおわり......。
そう考えると、怪談を知らない現代人の方がこわいと言えるかもしれない。
いろいろ語りたくなってきたが、【ゆっくり文庫】は娯楽作品だから、《おまけ》が大きすぎてもよくない。情報を削って簡潔にまとめたが、伝わっただろうか。
どこまで語るか?
1回目のラッシュフィルムを見て、なんとなく「転職しろ」とか「お上に訴えるべき」という時代背景を無視したコメントが予測されたので、「年季奉公」や「火付盗賊改方」についての説明を挿入する。このあたり、時代劇のファンには常識だろうけど、あった方がいいように思う。しかし、「恩讐の彼方に」にも出てきた「家事不取締」の説明は、テンポが悪くなるので割愛した。すべては語れない。
※劇中に挿入された解説
2回目のラッシュを見ると、「江戸時代は地獄だった」というコメントが予測された。その時代にはその時代の幸不幸があって、現代の価値観でやいのやいの言うのはおかしいと思うが、このへんを気にしてもきりがない。ただ、年季奉公と奴隷制(=永代奉公)が混同されるのはイヤだったので、説明を増やした。
こうした説明は、どのくらいが「ちょうどいい」のだろう?
まぁ、東方キャラに置き換える【ゆっくり文庫】で、時代考証もないもんだけど。
祟りについて
お菊は皿を数えるだけの幽霊だが、それじゃおもしろくない。とはいえ、物理的に攻撃してくるモンスターは避けたい。そこで「たたり」を描いてみた。
たたりは、「なんらかの意志が働いたとしか思えない不幸の連続」と解釈した。近年では「ファイナル・ディスティネーション」の死の連鎖が近いだろう。
劇中、お菊の亡霊をはっきり見た者はいない。すべては偶然、空耳、不注意、コミュニケーション不足で説明できる。しかしそれで恐怖が収まるわけじゃない。このあたりを細かく描きたかったが、【ゆっくり文庫】のスタイルじゃないのでやめた。
日本の怪談は「破られた約束」「牡丹灯籠」「和解」と作ってきたが、「番町皿屋敷」は一味違った切り口になったと思う。
※怨霊はいたのだろうか?
「番町皿屋敷」の真相
主膳の妻は、指が一本足りない子を産んでしまった重圧に堪えかね、「お菊のたたり」に責任転嫁した。なんでも人のせいにする心の弱さと、欠落を許さない主膳の厳しさが背景にある。妻が聞いた最初の皿数えは、赤ん坊の声だったが、女中たちが聞いたのは風のうなりと、徘徊する妻のつぶやきだった。「一本足りない」が「一枚足りない」に聞こえたわけだ。
女中頭(咲夜)は、主膳の妻に命じられてイジメを実行していた。しかし怨霊のターゲットにならず、生き残った。そこで彼女は「皿数えを最後まで聞かなければ大丈夫」と思い込むことにした。青山家を解雇された奉公人たちは、自分に落ち度がなかったことを証明すべく、お菊の話を広めた。一方、屋敷では引き継ぎがうまくいかず、事故が多発した。
夜、主膳が転んだのは、亡霊を恐れた奉公人が庭の手入れを怠っていたから。主膳の声が聞こえなかったのは、古井戸に面した戸が厳重に閉ざされていたから。
主膳の死後も恐怖の連鎖は止まらず、了誉上人が喚ばれた。上人は超常的なパワーでお菊を解脱させたのではなく、とんちによって江戸市中の人々を安心させたのである。
※咲夜が八意永琳に話したことを、因幡てゐが盗み聞きしたという...設定。
動画制作について
安定の配役なら、青山主膳=きめぇ丸、主膳の妻=アリスになるが、きめぇ丸がセクハラするとシャレにならず、アリスは上海人形が子どもに見えてしまうため、見送った。
早苗はよくも悪くも女性らしいキャラクターだから、今回の配役にぴったりだと思う。
魔理沙は「外套」の有力者からのイメージだが、無邪気な少女ドロシーを演じたばかりなので、制作者の私が戸惑ってしまった。
※悪い女、さなえ
お菊=チルノは即決だった。9枚数えるシーンで(9)との符号に気づいた。出番は少ないが、印象的に仕上がったと思う。ちなみに亡霊モードでは前髪が少し伸びている。「かわいい女」につづき幸薄い役で申し訳ない。
了誉和尚=レミリアは「牡丹灯籠」から。この路線も定番化しつつある。
※亡霊になると前髪が伸びる
※本当は「十」だけど、十字架に見えちゃったので「拾」にした。
手抜きの知恵
今回はキャラクターの接触が多くて困った。まず主膳がお菊をからかうシーンは、表情と距離で表現した。
※酌をする手、掴まれた肩が見えたら、さいわいだ
お菊が疑われるシーンは冗長になるので、妻の視点に切り替えた。妻はお菊のイジメにも拷問にも参加していないが、悪辣さが強調できたと思う。
拷問シーンは完全に伏せた。悲鳴や息づかいはゆっくり音声で再現できなかったので、効果音にした。手抜きに見えるが、思いつくまで大変だった。頭だけのゆっくりは、縛ることも吊るすこともできないからね。
※アリスより早苗の方が似合う
動画が完成したのは21日だが、毎週ペースはきついので、一週間ねかせることにした。すると、あれこれ気になることができて、結局、28日の夜まで修正を加えてしまった。時間があればあるだけ、こだわってしまう。
やっぱり動画はさっさとアップして、忘れてしまった方がいいようだ。