【ゆっくり文庫】クリスティ「スズメバチの巣」ポワロより Wasp' Nest (1928) by Agatha Christie
2015年 ゆっくり文庫 イギリス文学 クリスティ ミステリー034 これから起こる殺人を阻止する──
若い妻をめとり、おだやかな日々を過ごすハリスンの家に、名探偵ポワロが訪ねてきた。ポワロは、これから起こる殺人を食い止めるため、協力してほしいと言うのだが...
原作について
アガサ・クリスティ
(1890-1976)
ポワロ:パチュリー、ヘイスティングス:紅美鈴、ミス・レモン:咲夜、ジャップ警部:レミリアかな......。小悪魔も捨てがたいが、キャラクターは増やしたくない。ロサコフ伯爵夫人、オリヴァ夫人はどうしようか?
なぁんて想像していたら、我慢できなくなった。パチュリーはマイクロフトでもあるから、知られざるホームズ兄の活躍を見る興奮もありそう。
しかしポワロシリーズでパブリック・ドメインに入っているのは『スタイルズ荘の怪事件』(1920)のみ。第一話に最適だが、長編なので【ゆっくり文庫】に合わない。これっきりと宣言したが、禁を解くしかないか。
※The Big Four 2013
※ゆっくりフォー 2015
ポワロの短編は54本もあるが、これぞという1本を選ぶのは難しい。「料理人の失踪」は手ごろだが、「完璧なメイド」とかぶる。同じ理由で「ダベンハイム失そう事件」「二十四羽の黒つぐみ」も適さない。「戦勝舞踏会事件」は素材が足りない。「二重の手がかり」はまだ早い。
ふと、「スズメバチの巣」を思い出した。高校生のころ、本屋で立ち読みした最初のクリスティ作品である。短いのに鮮烈だった。第一話としては変化球だが、好きなものから食べるとしよう。
※スズメバチの巣 / 『名探偵ポワロ』S3E4 (1991)
翻案について
原作もテレビドラマも、ハリスンがモリーとラングトンを排除することで心の平穏を得ている。殺すほど憎んだ相手だから仕方ないけど、独りで死ぬのはわびしかろう。そこで、お節介な後日談(3人の和解)まで描くことにした。あわせて人間関係も大幅に脚色している。
読んでない人にはチンプンカンプンだろうが、原作のトリックには飛躍があると思うんだよね。ドラマの掘り下げも足りない。クリスティの魅力は「構成」にあって、これはこれで素晴らしいんだけど、私はやっぱり「キャラクター」を描きたい。
- 本編をヘイスティングスとハリスンの回想にして、和解まで描いた。
- ハリスンを学者、ラングトンを画家にして、複雑な師弟関係にした。
- ヘイスティングスの撮った写真が、疑念のきっかけになった。
- 青酸カリのすり替えを訪問前に済ませておいた。
- ラングトンとモリーに本心を吐露した。
ハリスンは魅力的な人物に仕上がった。死を前にして、どれほどの絶望、嫉妬、劣等感に苛まれただろう。ラストでポワロが浮かべる涙は、脚本になかった。あれは、私の涙でもある。
【ゆっくり文庫】版のハリスンは、わざわざモリーを呼びつけて感情を爆発させた。「ラングトンを罠にハメめる」ことが目的なら、不要な行動である。この時点でハリスンの殺意は消えていたのだろう。殺そうとして失敗したのではなく、直前に思いとどまった。だから和解できた。そう、解釈している。
※犯人としてのハリスンは賢く、殺意を隠すのがうまい
※いい人だから、ポワロに察知された
ポワロの思考
ポワロは相手に揺さぶりをかけ、不要な行動をさせる手法が多い。なので、じっと見つめる「間」を演出した。隠し事があると、かなりプレッシャーを受けるだろう。
ハリスンはプレッシャーに堪えたが、内面が変化した。ラングトンは堪えかね、不倫を白状した。2度目以降は、キャラクターの思考を考えてみてほしい。
ちなみに、下記がポワロの思考(推理)チャート。
- ヘイスティングスの写真で、ハリスンの殺意に気づく。
→憎い相手にスズメバチの駆除を依頼したのは偶然か? - 診療所で、ハリスンが余命わずかと知る。
→殺人の可能性を思いつく。 - 薬局でラングトンが青酸カリを購入したと知る。
→同じ薬局で洗濯ソーダを購入しておく。 - ラングトンのアトリエを訪れ、揺さぶりをかける。
→正直な反応。ハリスンへの害意はないだろう。
→念のため、青酸カリを洗濯ソーダにすり替える。 - ハリスンの家を訪れ、揺さぶりをかける。
→殺意をまったく認めない。
→止めるのではなく、実行させることに。 - 6時に再訪。ハリスンと話して、殺意が消えたことがわかる。
→安堵の涙。 - ラングトンとモリーがポワロの事務所にやってくる。
→3人の和解を考える。 - ヘイスティングスが病院に行くと聞いて、用件を察する。
→ラングトンとモリーに連絡する。
ゆっくりポワロ
マイクロフト・ノーリッジと区別するため、パチュリー・ポワロは口髭をつけた。けっこうポワロっぽくなった気がする。表情は捜査モード(A1)、通常モード(A2)を使い分けることにした。
それから後ろ姿(A3)も作った。これがめちゃくちゃ大変だった。
※ゆっくりポワロ
【ゆっくり文庫】3人目の探偵なので、(私が妄想する)イメージのちがいを書き出しておこう。ホームズもポワロも能力をひけらかす悪癖があるが、ポワロの方が落ち着いている。ホームズとワトソンは対等だが、ポワロとヘイスティングスは上下関係がある。ポワロは答えを知っている。それが魅力であり、つまらないところでもある。
ぽろりと涙を見せたり、和解まで面倒をみるのは、ポワロらしくないと思う人がいるかもしれないが、これが私の妄想イメージなのだ。
ホームズ | ポワロ | マープル |
---|---|---|
若者 | 初老 | 老嬢 |
科学的な推理 | 心理的な分析 | 社会的な潜入 |
観察し、記憶すること | 秩序と方法 | 知人に当てはめる |
ワトソン | ヘイスティングス | ルーシー |
友人 | 生徒 | 娘 |
動画制作について
動画を作る段になって、ポワロを知らない人がいるかもしれないと思い、イントロダクションを追加する。ヘイスティングスが語り部であること、ポワロが偏屈な人物であること、物語のテーマを伝える。こういうのって、あった方がいいのかな?
病院にいるハリスンは顔色が悪い(死期が近いせい)。なにかあった(毒を盛られた?)と思わせる演出だが、ヘイスティングスは気づいてないため、陽気な音楽(♪日時計の丘)を流した。ニコニコ動画にアップロードしたとき、顔色の変化はわかってもらえるだろうか?
※なにも知らないヘイスティングス
身長差を出すため、ポワロの出現位置をやや低めにしている(標準:Y-140、ポワロ:Y-100)。パチュリーの丸顔がいっそうキュートに見える。【ゆっくり文庫】では、キャラクターの位置、距離が演出要素になっている。
※5人はきつかった
推理のキッカケや過去のイメージとして、「写真」が多用される。ラングトン(霊夢)とモリー(早苗)の恋人時代の写真は、それだけで多くを語るだろ。屋外パーティーの写真の作業中ファイルを掲載しておく。ボケや補正がないと、こんなもんです。
※屋外パーティーの写真(カラー、ボケなし)
ニコニコ動画にミステリーは受け入れられるか?
気になるのはコメントだ。ミステリーだからネタバレは避けてほしい。「◯×じゃね?」という予測も、初見の感動を損ねてしまうかもしれない。「完璧なメイド」も時間が経つにつれ軽率なコメントが増えた。コメントがあるのはうれしいが、鑑賞の妨げになるのは考えものだ。
編集後記は動画のアップロード前に書いている。どうなることやら。