創作  2015年03月07日(土)に書いた ゆっくり文庫

【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「最後の事件」シャーロック・ホームズの思い出

【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「最後の事件」シャーロック・ホームズの思い出

「最後の問題」と向きあおう

原作について

アーサー・コナン・ドイル

アーサー・コナン・ドイル
(1859-1930)

 『最後の事件』はその名が示すような最終回ではなく、56ある短編のうち25番目──つまり中盤のクライマックスである。コナン・ドイルは本当に終わらせるつもりだったが、世間からの強い要望を受け、9年10ヵ月後に『空き家の冒険』でホームズを帰還させる。ライヘンバッハの滝に落ちる劇的な最後と、「大空白時代」を挟んでの復活は、ホームズの魅力を格段に高めた。終わらせようとしたことで盛り上がるのだから、不思議なものだ。

 ストーリーは粗い。はじめて読んだときは頭上に疑問符がいくつも浮かび、『空き家の冒険』を読んでも消えなかった。書かれてない真相について、あれこれ妄想した。くだらないことを考えているなぁと思ったが、シャーロキアンという生き物がいることを知って、安心した。馬鹿は私だけじゃなかった。
 シャーロック・ホームズが時代を越えて愛される理由の1つに、「裏読みしたくなる粗さ」があると思う。

「最後の事件」の謎

ホームズはいつ、死を予見した?

 ホームズは「ロンドンを発つ前に財産を処分した」と言うが、タイミング的には4月24日の深夜──ワトソンの家を出たあとしかない。自分の死が予見される逃避行に、ワトソンを連れて行くのは不可解だ。ワトソンを連れて行く必要があったのか? モリアーティ教授は自分を攻撃しても、ワトソンや部外者には危害を加えないと知っていたのか?

教授はなんのため会談した?

 ベーカー街221Bにおける教授とホームズの会談はかっこいいが、意味はない。優位にあるホームズが手を引くはずがないことは、高い知能がなくても予見できる。なぜ教授は人質を取るなどの手を打たなかったのか? あるいは打っていたのか? またホームズが不在でも警察は「組織」を壊滅させているから、ホームズを殺すことにも意味がない。

教授は実在したのか?

 ワトソンはモリアーティ教授の姿をまともに見ておらず、ホームズが指摘しなければ気づかなかった。教授の実在はかなり疑わしい。しかもホームズは、ストラスブールで受け取った電報をワトソンに見せずに焼き捨てるなど、徹底的に痕跡を消している。

示し合わせた心中か?

 教授はなぜライヘンバッハの滝で、単身で、徒手で、ホームズを待ち構えたのか? またホームズがこれに同調したのはなぜか? 殺すつもりならモラン大佐をけしかけるはず。心中するにしても、事前の合意が不可欠。
 ホームズが脅されていたにせよ、心中に同意していたにせよ、24日の会談で示し合わせた可能性が高い。とすれば、この逃避行そのものが仕組まれたものになる。

なぜワトソンに生存を伝えなかったのか?

 これが最大かつ最後の問題だ。『空き家の冒険』によると、モラン大佐の空気銃に狙われたから連絡できなかったというが、べったり追跡されたわけじゃない。ホームズはワトソンに連絡できなかったのか、連絡しなかったのか?

 つまりホームズは、自分の意志で死を偽装したと推察される。

 これを合理的に説明することが、本動画のテーマである。

「ゆっくりホームズ」シリーズの総決算

 高校時代から考えていたネタだから、基本的なプロットは「青い紅玉」の発表時点(2013年12月)には出来上がっていた。総決算となるエピソードだから、キャスト紹介と日常を描いておきたい。こうして3本の動画が制作された。

 いま思うと、もうちょい日常を描くべきだったかもしれない。
 ハドソン夫人やベイカー・ストリート・イレギュラーズを描くかどうか迷ったが、「唐突な驚き」を優先することにした。ハドソン夫人とホームズ家の関わり、アイリーン・ホームズの活躍、マフィンの今後など、プロットはあるけど動画化の予定はない。まぁ、適当に妄想してください。

最後の事件
※残りは妄想してください

前編「最後の事件:ワトソン視点」

 「最後の事件」の内容は、シャーロキアンでなくても知っているだろうから、簡略化することにした。具体的には、ヴィクトリア駅での合流、ゲンミ峠の落石、マイリンゲンの宿屋でのヤリトリを削除した。一方で、モリアーティ教授の脅威、作戦概要を図解した。30分オーバーを覚悟していたが、作ってみたら16分にまとまった。
 公開後のコメントを見ると、「最後の事件」を知らない人があんがい多くて驚いた。シャーロキアンの常識は世間の非常識だった。削った部分が惜しまれるが、まぁ、興味がある人は原作を読んでくれるだろう。

 ふたりの逃避行は地図で表現した。正典から地名を拾い、地図にプロットし、徒歩の経路をつなぎ、日数を計算する。セリフを選び、写真を配置し、音楽と合わせる。思いついてから映像化するのに1年かかった。苦労したけど、テンポのいいシーンになったと思う。
 正直、文章と合わない箇所もあるが、細かいところは目をつむってほしい。どこが合わないかわかる人は、私を責めないだろう。

最後の事件
※ホームズとワトソンの逃避行

最後の事件
※逃走ルート全図

邪悪なモリアーティ教授

 前編のモリアーティ教授は、悪人らしい悪人にした。相手の話の途中にかぶせるように話す(食い気味に話す)ことで、いやらしさを強調した。会話もだいぶ刈りこんでしまった。

最後の事件
※悪党としてのモリアーティ教授

後編「最後の事件:ホームズ視点」

 妄想が大きくなりすぎたため、動画を分けることにした。内容的には「空き家の冒険」の翻案だが、乖離が大きいため「最後の事件」の後編と位置づけた。原作を読んだ人なら、「ホームズとワトソンは再会して気絶した」「バリツでモリアーティをやっつけた」ことがわかるだろう。またシャーロキアンなら、「ホームズ女性説」「大空白時代のスパイ活動説」「ハドソン夫人=アイリーン説」に微笑んでくれるかもしれない。

狂気のモリアーティ教授

 後編のモリアーティ教授は、狂気の象徴とした。ふつうの人には「気さくな老紳士」だが、ホームズが見ると「凶悪な黒幕」になる。しかし証拠がないため、ふつうの人の同意を得られず、孤立していく。

最後の事件
※教授の思考を追うと、狂気に蝕まれる

 前編の教授はその瞬間の会話を先読みするが、後編の教授はもっと先、あるいは言葉にされてない思考に答えている。話せば話すほど、SAN値が削られていく。

最後の事件
※擬似人格との会話

 もしワトソンがいたら、正気を失って射殺しただろう。だからホームズはワトソンを遠ざけ、わかりやすい悪人として説明したわけだ。

マフィン / グレグスン警部

 マフィンは正典に出てこない(詳しくは後述)。ベーカー・ストリート・イレギュラーズの隊長ウィギンスなどは、ワトソンと面識があるので避けた。マフィンは今回の手柄を足がかりに、グレグスン警部として出世するわけだが、これが教授の真の目的だったのか、マフィンは悪に染まるかどうかは、想像にゆだねたい。
 ちなみにグレグスン警部(トバイアス・グレグスン)は、レストレード警部のライバルである。

最後の事件
※マフィンはグレグスン警部になる

最後の事件
※未使用の図:ホームズの陽動に引っかからない

最後の事件
※未使用の図:おびき出されたのはホームズ

参考文献

 思い出せるかぎりネタ元を書き出しておく。

モルグ街の殺人 / エドガー・アラン・ポー

 飛び抜けた観察力と分析力をもつデュパンは、友人の思考パターンを完全に掌握しており、ある晩は15分ほどの散策のあいだに考えたことをズバリ言い当ててしまった。
 対象の人格を自分の脳内に再現するさまは、仮想マシンのようだ。もし対象が自分より知能が高く、また自分を見ている相手に適用したらどうなるか? これが翻案の起点である。

Sherlock / BBC

 テレビドラマ『Sherlock』の制作者は、めちゃくちゃ重度のシャーロキアンだね。「ライヘンバッハ・ヒーロー」から「空の霊柩車」の流れはシャーロキアンをうならせる解釈だった。一般の視聴者には不完全燃焼だったかもしれないが......。
 「青い紅玉」を発表したとき、シーズン3は未放映だったため、ネタがかぶらないか不安だったが、大丈夫だった。

シャーロック・ホームズとマフィン / ドロシイ・B・ヒューズ

 『シャーロック・ホームズの新冒険(下)』に収録された短編。当時のストリート・チルドレンの実情が描かれていたのが印象的だった。
 マフィンはハドソン夫人が雇った少女で、「召使の中で最低ランクで、給料も最低だった」が、家族も住まいもなく、教育も受けてない子どもたちに選択の余地はなかった。マフィンという名前は、母親がお金を貯めて買ったマフィンがとても美味しかったからという理由でつけられている。事件解決後、ホームズたちは子どもたちに住まいを手配し、マフィンが医者になることを願って奨学金を与える。

ジャックが建てた家 / エドワード・ウェレン

 舞台設定は突飛だが、ホームズ=モリアーティ説は興味深かった。

シャーロック・ホームズ―ガス燈に浮かぶその生涯 / W.S.ベアリング=グールド

 とくに引用したところはないが、妄想で伝記を書いてもいいことを教えてくれた一冊。

Cthulhu by Gaslight / Chaosium

 TRPG「クトゥルフの呼び声」のソースブック。ヴィクトリア朝期の大英帝国を扱っており、シャーロック・ホームズなどのキャラクターがデータ化されている。

グロテスク / THE X-FILES S3-14

 連続殺人事件の犯人としてモストウという男が逮捕される。しかし逮捕後も同じ手口による犯行が相次ぎ、窮したパターソンはかつての部下モルダーに協力を要請する。モルダーは犯人になりきって推理しようとするが、奇行が目立ちはじめ、モルダーにとって不利な証拠も見つかる。スカリーは悪魔がモルダーに取り憑いたのではないかと心配する。
 「THE X-FILES」でも切れ味のいいエピソード。

余談:シャーロキアンしか興味がない部分

 ホームズはよく室内で発砲する(『マスグレーヴ家の儀式』)ので、銃声がしても大騒ぎにならない。またマイクロフトが関与すれば、死体の運搬、処分はどうとでもなる。ゲンミ峠に特殊部隊が待機していたかどうかは重要じゃない。そこを確かめようとする公僕はいないから。だが、モリアーティ教授が行方不明はまずい。だから、わかりやすい結末を用意する必要があった。

 アイリーンは変装スキルがあるため、ホームズの影武者として行動できる。『空き家の冒険』では「ハドソン夫人がマネキン人形を動かしてモラン大佐を騙した」ことになっているが、「アイリーンがホームズに化けて、モラン大佐をおびき出した」というのが、私の解釈。

 ワトソンは奥さん(メアリー・モースタン)との「悲しい別離」を経て、ふたたびベーカー街221Bでホームズと暮らすようになる。なので動画のラスト、ワトソンはホームズに叩き起こされる。

 ワトソンの診療所を買い取ったヴァーナーという医者は、ホームズの遠縁にあたる(『ノーウッドの建築業者』)。おそらくマイクロフトがワトソンとホームズをくっつけるため、手配したのだろう。ワトソンの人生はかなりの部分、ホームズ家に支配されている。

キャラクター

 追加したグラフィックを掲載しておく。[A4]は「スズメバチの巣」で作ったが、掲載してなかった。[B1]の包帯は「グスコーブドリの伝記」の加工品。

最後の事件
※A1:上海にも絆創膏、A2:八雲橙、A3:擬似人格、A4:泣きはらし、A5:アイリーン・ホームズ、A6:アイリーン・ハドソン

最後の事件
※B1:包帯、B2:レイプ目1、B3:レイプ目2、B4:どんより(未使用)

こんなん、作っていいかいな?

 後編は、前編を公開時には完成していた。しかし後編を期待するコメントを見て、こんな動画を公開していいのか悩んでしまった。動画をバラバラにして、もう一度組み立てて、悩み、投稿が遅れた。

 シャーロック・ホームズのファンは、ホームズが完敗したこと、アイリーンとのハッピーエンドに憤慨するかもしれない。東方ファンは橙の扱いに不満があるかもしれない。マイクロフトもハドソン夫人も、名前だけ借りたオリジナルキャラクターになってしまった。
 「それがいい」と思われるか、「やりすぎ」と批判されるか。まぁ、気にしても仕方ないんだけど、気にしちゃうよね。投稿前がいちばん悩む。

 「ゆっくりホームズ」はこれにて完結するつもり。ネタはあるけど、ほかの作品を優先した方がいいように思う。とはいえ「ホームズが好き」と言ってくれる人が多いのも事実。どうしたものか。
 制作できる動画の本数はだいたい決まってる。ホームズを作れば、その分、なにかを作れなくなる。1円も稼いでないから、分業できない。人生の時間をどう使うべきか、悩んでいるようだ。

「二次創作は山ほど見た?」
「トラウマになってる?」
「もっと見たい?」

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